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2020.08.12 更新 ツイート

「サザエさん」は日本の「ナンシー」だった!?その屈折した自意識がもたらす微苦笑 オリヴィア・ジェイムス『ナンシー』(DU BOOKS) 中条省平

「国民的マンガ」という言葉があります。さしずめ日本でいえば『サザエさん』でしょうか。

 

そういえば、『サザエさん』の作者・長谷川町子は今年が生誕100年で、手塚治虫文化賞の特別賞を受賞しました。もちろん、長谷川町子はとっくに1992年に72歳で亡くなっています。

長谷川町子が『サザエさん』を新聞連載したのは1946年から74年までの30年足らず。意外に短い感じもしますが、テレビ放送はいまだに続いて、少しずつ時代の変化も取りいれつつ、失われた戦後日本の家族の理想像を描きつづけています。その意味で、まさに「国民的マンガ」といえるでしょう。

今回ご紹介するのは、アメリカの「国民的マンガ」というべき『ナンシー』です。

なにしろこちらは『サザエさん』よりはるかに先輩で、アーニー・ブッシュミラーがこの不滅の生意気少女キャラ、ナンシーをマンガに初登場させたのは1933年、つまり昭和8年のことで、満州事変や2.26事件などが起こっていた第二次世界大戦直前の時代です。

それから、今に至る80年以上、『ナンシー』はずっと描かれつづけているのです。

アンディ・ウォーホルが『ナンシー』の一場面を題材にした作品を残していることからも、この作品がアメリカのポップ・カルチャーを代表する顔のひとつであることが分かります。

このアメリカン・コミックスの古典ともいえる『ナンシー』が、最近大きな話題を呼んだのは、2018年から歴代作者のなかで初めての女性マンガ家であるオリヴィア・ジェイムズがこの作品を描くようになって、キャラと新聞の4コママンガ的な形式はそのままですが、内容がガラリと変わったからでした。

新しい『ナンシー』のヒロインは、いつもスマホを手にしている重度のネット中毒者なのです。しかし、自意識の異常に過敏な彼女は、8歳の小学生ながら、こんなふうに冷徹に反省します。

「ネットで自分の自慢ばっかしてる人ってサイアク
あんなふうに見せびらかすなんて、他の人が自分たちの生活を悲しく思うだけじゃない
本当に自慢に値するのは、SNSで自慢しないこと
これから私もそうするつもり。だって、私は謙虚で無欲だから
…で、今言ったことを入力してアップしとこ」

こういう屈折した自意識のドラマがこのマンガの身上ですが、そのユーモアが、いかにもアメリカの新聞マンガらしい単純化された愛らしい絵柄で描きだされるとき、絶妙の対比的効果を発揮して、読者の微苦笑をかき立てるのです。

時代を超えたはずのアメリカ的キャラが、時代の先端で弄ばれるというパラドックスに、この新生『ナンシー』の笑いのツボがあります。

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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