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本の山

2020.07.25 更新 ツイート

ちょっとでも疲れたら、迷わず休む。“うつヌケ”経験者の本で再確認。ー『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』田中圭一KIKI

ある日、家に帰ってきたら机の上に『うつヌケ』というピンクの本が置いてあった。帯には「うつ病脱出コミック!!」との宣伝文句。わたしもたまに原因不明で落ち込むことはあるけれど、たいてい一晩眠れば翌朝にはすっきりした気分になるので、“うつ”というほどではない。しかし、これは夫からの「気をつけろ」というメッセージであろうか。自分が思っている以上に、気になる空気を醸しているのだろうかと不安になった。夫の帰宅後に買った理由を聞いてみたら、周囲にうつ病を患ったことがある人が意外に多いので本書に興味を持ったのだという。手塚治虫のパロディで名前を知られる著者の田中圭一は、前作『ペンと箸』で数々の有名漫画家の家族を取材し、本人のタッチと作風を真似てその貴重な家族の話を表現していた。なかなか表には出てこない漫画家のエピソードに、面白みを感じながらも、ジワッとこころが温まるストーリーが魅力的だった。だから読む前から、うつ病という治癒が難しいとされる病気でも、著者ならその原因や乗り越える方法などを解明できるかもしれないと期待が膨らんだ。

 

『うつヌケ』では作者自身がうつに陥ったきっかけ、そして10年の月日を経てうつトンネルを脱出するまでの経緯、そして同じく“うつヌケ”を経験した人々への取材による、うつにまつわる多彩なエピソードが描かれている。取材対象者は学者、編集者など様々な分野の面々が並び、そのなかにはロックミュージシャンの大槻ケンヂや直木賞作家の熊谷達也もいる。その活躍ぶりを知っているだけに、うつの経験があるというと意外性を感じるけれど、読み進めるうちに、ある法則が指摘されていて腑に落ちた。たとえば「生真面目」「責任感強し」などの性格が起因で病にかかり、「自信を失う」「自分が嫌いになる」ことでうつトンネルから抜け出せなくなるそうだ。真面目な人は周囲の期待に応えるためにも仕事をきっちりこなそうとする。その反面、仕事がうまくいかなくなったときに発症してしまうのだ。

うつ病だと自覚しているあるクリエイターに会ったときのことを思い出した。彼は本書にも例として描かれている、うつとそうを繰り返す「双極性障害」という診断を受けており、わたしが会ったときはそう状態だった。あまりにもテンションが高いので身構えたが、話はキレッキレに冴えていて面白い。そしてその調子でわたしに「同じ匂いがする」と言い放ってきた。それがきっかけで「もしや自分も……」と心配するようになったのも事実である。

けれど本書を読んで、すっきり、こころが軽くなった。自分はまったくうつの法則にあてはまらないのだ。ちょっとでも疲れたと感じたら、迷わず休むという習性が完全に身についている。夫も心配しておらず、むしろうらやましいとまで言われてしまったのは不本意だけど。

「小説幻冬」2017年5月号

田中圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』

うつ病を患った経験がある漫画家が、様々な“うつヌケ”体験者に取材したコミックエッセイ。自身も偶然出会ったある一冊の本によって助けられた経験から、うつトンネルで苦しむ人の「偶然出会う一冊」になることを願って執筆したという。
KADOKAWA/本体1000円+税

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