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近藤勝重流 老いの抜け道

2020.05.29 公開 ツイート

矢沢永吉さん、70歳のアルバムタイトル 近藤勝重

新聞やラジオの世界で長年活躍する近藤勝重さん。70歳を過ぎたけれど、粛々と老いていくなんてまっぴら御免、なんとか抜け道はないものか――そう考えて健康情報をあれこれ試したり、著名人の言葉からヒントを得たりしてゆく様子をつづったのが『近藤勝重流 老いの抜け道』。
コロナ疲れで疲弊した気持ちがちょっと軽くなるような部分を本書から抜粋して公開します。
今回はロックのカリスマ矢沢永吉さんのアルバムタイトルに込められた思いを考えていきます。

*   *   *

(写真:iStock.com/Cesare Ferrari)

『いつか、その日が来る日まで…』

50歳になったとき、ああ50か、とため息が出ました。
人生も後半生か、と何か一気に老け込む感さえありました。
60歳になったときは、TBSラジオの番組担当者であったか、赤いポロシャツをプレゼントしてくれましたが、「ありがとう」の言葉とは裏腹に、ああ……60か……とさえない気分でした。
70歳になったときは、80すぎの実兄から電話がかかってきて、もう女は振り向いてくれんわなあ……と寂しいことをいわれました。
納得でしたが、面白くなかったです。

けれど本当は50になったその日、60になったその日、そして70になったその日が、その人にとっての人生で一番若い日だったのです
とにかく今になると50歳はもちろん60歳もまぶしく輝いて、その年齢の人がうらやましく思えるほどです。

その70歳ですが、ロックボーカリストの矢沢永吉さんが70歳記念で『いつか、その日が来る日まで…』というアルバムを出しました。
発売するや売り切れ店続出で、オリコントップだったそうです。
70歳でこの人気。相変わらずのカリスマぶりです。

なかにし礼さんと矢沢永吉さんの初タッグ

アルバムのラストに入っている同名の歌が作曲、矢沢さん、作詞は80歳になる御大なかにし礼さんという豪華コラボです。
ぼくはなかにしさんとは取材や、ラジオに一緒に出た縁などでよく存じあげていますが、「矢沢永吉」の名が彼の口から出たことは一度もありませんでした。
何がどうしてこうなったのか。

(写真:iStock.com/Miljan Živković)

なかにしさんが「サンデー毎日」に連載しているエッセイ「夢よりもなお狂おしく」(2019年9月29日号)によると、矢沢音楽事務所から、70歳になる矢沢のアルバムなので、ぜひ先生にこのタイトルで書いていただきたい、と頼んできたそうです。

五木ひろしさんの70歳のときの新曲『VIVA・LA・VIDA! ~生きてるっていいね! ~』もなかにしさんの作詞でした。
五木さんとTBSラジオでご一緒したとき、「阿久悠さんの詞では『契り』があり、デュエットでは大ヒット曲の『居酒屋』がありますが、なかにしさんのは初めてでしょ」と聞くと、五木さん「これで御大2人がそろいました」とうれしそうでした。

自分にとっての「その日」とは

それにしても矢沢さんといい、五木さんといい、歌声に渋さはましても老いなどまるで感じられません。
矢沢さんには45歳のとき、美空ひばりさんの『川の流れのように』の作詞でその名をとどろかせた秋元康さんが書いた『いつの日か』という、これまたいい曲があります。

ともにロックながら、というよりロックならではのうるっとくるラインがあるんですが、なかにしさんが先述のエッセイで『いつか、その日が来る日まで…』のタイトルにふれ、興味深いことを書いています。

語法的に正しく言うなら、『いつかその日が来るまで』か、または『までは』だろう。だがそう言うと、言葉が真ん丸に収まってしまう。真ん丸に収まるなんてつまらないじゃないか。

なかにしさんはタイトルをそう理解して、矢沢さんは「やはり、ロックしてるな」と思ったのだそうです。
確かにロックしてるけれど、アルバムには「本物の大人のロックンロール&ロマンス」と銘打ってのリリースでした。
70歳、すなわち本物の大人──いいなあ。この感覚。
だから歌を聴きつつなおさら思うんですね。
自分にとっての「その日」とは……と。

胃がん手術を前にしての決意

今、改めて人生を省みて、心ひとつでこの世を渡ってきたと思うと同時に、それはこれからも変わるまいとも思っています。
胃がんの手術は当時は開腹、要は切腹です。腹を切る。
ぼく自らが作ったストレスもあれば、いっぱいストレスを作ってくれた上司もいました。
新聞は新聞で修羅場の社会部で息が抜けませんでしたし、雑誌は雑誌で売れないと始まりません。
毎週の売り上げが発表される場は、誰いうとなくお白洲でした。

(写真:iStock.com/LightFieldStudios)

もちろん自らが招いた病です。
働く人間にとって、競争もなく、嫌な奴が1人もいなかった職場なんて世にあろうはずもありませんが、それでも今なら対処の仕方は変わっていただろうと思われます。
ま、そういうことはいずれどこかの項でふれさせてもらいますが、切腹時のぼくの思いは、それでも生きよ、と生命を与えてくれるのなら、何よりも心がけというか、心の持ち方というか、とにかく心のありようを改めて生きながらえようということでした。

70歳は孔子の論語ではこうあります。

(七十にして)心の欲する所に従いて矩(のり)をこえず

孔子というと、何か学問的な教養という印象が強くありますが、「心の欲する所」とあるわけですから、心も体も大事と、人間を全体的にとらえているわけです。

今日という日は明日へとつなぐ日

後半生は一日また一日と、一日をどう生きるかだという、そういった趣旨の言葉はたくさんあります。
そうだなあ、とぼくも思っていますし、現に『今日という一日のために』と題した本も出しています。
ただ最近はこうも思うようになりました。今日という日は明日へとつなぐ日でもあると。
明日へとつないで初めて今日という一日に心を込める意味があるのでは、と。
心の杖となる川柳も「健康川柳」には例えばこんな句があります。

もう一度無いと知りつつ日々暮らす      山下博美

さて、そうして日を日につなぎ、やがて「その日」が来るのだとしても、「その日」までの望ましい老夫婦の仲は、川柳でもよく詠まれています。
とりわけこの句など「健康川柳」の代表的な佳句でしょう。

おじいちゃんおじいちゃんあぁおばあちゃん      西滝一彦

長年連れ添った夫婦ならではの会話に、「ああ」という返事。
それが何ともいえない間(ま)になっている。
そこにまた人間的なぬくもりが感じられるんですね。

関連書籍

近藤勝重『近藤勝重流 老いの抜け道』

人の名前がすぐ出て来ない? なんも心配いりません。「年とっちゃったけど、どうしていいかわからない」あなたに名コラムニストがおくる“老人免状”返上の書。 人生は心ひとつにかかっている/死ななくてすむがんで死ぬな/暇のある老年ほど喜ばしいものはない/身づくろいは長寿につながる/にもかかわらず笑う/1世紀を生き抜いてきた人たちの日々/近道人生をやめてわかったこと

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近藤勝重流 老いの抜け道

2020年2月6日発売の『近藤勝重流 老いの抜け道』について、最新情報をお知らせします。

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近藤勝重 コラムニスト、ジャーナリスト

毎日新聞客員編集委員。早稲田大学政治経済学部卒業後の1969年毎日新聞社に入社。論説委員、「サンデー毎日」編集長、夕刊編集長、専門編集委員などを歴任。毎日新聞(大阪)の大人気企画「近藤流健康川柳」や「サンデー毎日」の「ラブ YOU 川柳」の選者を務め、選評コラムを書いている。10万部突破のベストセラー『書くことが思いつかない人のための文章教室』、『必ず書ける「3つが基本」の文章術』(ともに幻冬舎新書)など著書多数。長年MBS、TBSラジオの情報番組に出演する一方、早稲田大学大学院政治学研究科のジャーナリズムコースで「文章表現」を担当してきた。MBSラジオ「しあわせの五・七・五」などにレギュラー出演中。

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