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雅子さまの笑顔

2020.05.15 公開 ツイート

皇族女子が「責任ある立場」に就く日 矢部万紀子

結婚退職が決められている皇族女子

清子さまは、初めて就職というものをした皇族女子でもある。1992年(平成4年)3月に学習院大学を卒業、4月から山階鳥類研究所に非常勤職員として勤務、1998年(平成10年)には同研究所の非常勤研究員になっている。

まだ清子さまが大学2年生だった1990年(平成2年)、美智子さまはこんな御歌を詠まれている。

バンダーの資格うれしと軽装の子はいでゆけり冬枯(ふゆが)るる野に

「註」として「バンダー 鳥に足環などをつけて学術的な調査を行う鳥類標識調査従事者となるための資格」とある。資格を取った清子さまが、喜んで鳥の標識調査に出かける様子を詠まれたのだろう。

同研究所の資料をたどるとこのバンダーという資格、1979年(昭和54年)から養成が始まり2008年(平成20年)時点で約800人が取得しているとあった。清子さまが取得した時は、ずっと少なかったに違いない。

つまり清子さまという方を一般女子的に解説するなら、大学時代に貴重な資格を取得、それを生かして就職し、職員から研究員へ転ずる、となる。努力する、優秀な女子だ。

清子さまは鳥類を研究、公務を本分と考えていたのだと思う。父である上皇さまがハゼ、兄である陛下が水問題、もう一人の兄の秋篠宮さまはナマズや家禽類。天皇家の男性は「研究テーマ」を持っている。それもきっと生きる知恵であり、清子さまは同じ道を歩んでいた。

美智子さまは、清子さま出産の4カ月後、記者会見でこう述べている。

「結婚までは皇族として生活させていただくのだから、それにこたえるような人になってほしいと思います」

皇族女子として、真っ当に生きよ。母の教えをきちんと守る、出来の良い娘であり続け、清子さまは36歳で兄の友人である黒田さんと結婚した。

そんな清子さまの文章をもう一度読み返すと、しーんとした気持ちになる。皇族女子としての分をわきまえた清子さまから出た「継続的な責任ある立場に就いたりすることは控えてきた」という言葉。すべて、「将来的にその立場を離れる可能性」つまり、結婚退職が決められているからだ。

清子さまも心のどこかで、「責任ある立場に就きたい」と思ったのではないか。嫁ぐ清子さまのことを、美智子さまはこう振り返っている。「穏やかで、辛抱強く、何事も自分の責任において行い、人をそしることの少ない性格でした」(2004年、お誕生日にあたっての文書回答)。「皇族女子」について考えながら清子さまを思うと、切ない気持ちになる。

現在、黒田清子さんは伊勢神宮祭主という仕事に就いている。祭主としての姿をお代替わりにあたって拝見し、「できる祭主」に違いないと確信した。だが、三浦しをんさんが指摘したように、「そのポストに就ける」のは一人だけ。皇族女子全体のことを考えねば。

関連書籍

矢部万紀子『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』

弾けるような笑顔、華やかなファッション、外国賓客に対する堂々たる振る舞いと、日々輝きを増す皇后雅子さま。しかし、一九九三年のご結婚から今日までの道のりは、長く苦しいものだった。外交官から皇室へと新しい人生を選択したものの、男子出産の重圧にさらされ、生きる意味を見失った日々。そこからどう立ち直ってこられたのか?失わなかった「普通の人としての感覚」とは?雅子さま、そして愛子さまほか女性皇族にとって生きやすい皇室を考えながら、誰にとっても生きやすい社会のあり方を問う、等身大の皇室論

矢部万紀子『美智子さまという奇跡』

一九五九(昭和三四)年、初の民間出身皇太子妃となった美智子さま。その美しさと聡明さで空前のミッチーブームが起き、皇后即位後も、戦跡や被災地を幾度となく訪れ、ますます国民の敬愛を集める。美智子さまは、戦後の皇室を救った“奇跡”だった。だが、今私たちの目に映るのは、雅子さまの心の病や眞子さまの結婚問題等、次の世代が世間にありふれた悩みを抱えている姿。美智子さまの退位と共に、皇室が「特別な存在」「すばらしい家族」である時代も終わるのか? 皇室報道に長く携わった著者による等身大の皇室論。

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矢部万紀子 コラムニスト

1961年三重県生まれ。コラムニスト。83年朝日新聞社に入社し、記者に。宇都宮支局、学芸部を経て、「アエラ」、経済部、「週刊朝日」に所属。94年、95年、「週刊朝日」で担当したコラムをまとめた松本人志『遺書』『松本』(ともに朝日新聞出版)がミリオンセラーになる。「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理をつとめたのち、書籍編集部で部長をつとめ、2011年、朝日新聞社を退社。シニア雑誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長となる。17年に株式会社ハルメクを退社し、フリーランスで各種メディアに寄稿している。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)がある。

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