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雅子さまの笑顔

2020.05.15 公開 ツイート

皇族女子が「責任ある立場」に就く日 矢部万紀子

責任ある立場に就くことを控えてきた清子さま

雅子さまが令和になって、明るく堂々とされているのは「自分はいるだけで価値がある存在」と思えるようになったから。精神科医の斎藤環さんのこの解説は、何度も書いてきた。皇太子妃も「いるだけで価値がある存在」にかわりはないが、実感できなかったのだろうと、斎藤さんは言っていた。

「自分はいるだけで価値がある」と実感するのは、なかなか難しい。前著で私は、雅子さまのことを「結婚というより転職のつもりだった」と書いた。皇室という新しい場所で自分を役立てたい。そう婚約内定会見で語ったことは、第1章でも書いた。だが、期待されたのは第一に「お世継ぎ」。それが納得できず、雅子さまは適応障害になってしまわれたのだろう。

雅子さまのような「元キャリアウーマン」でないなら、別な感覚になっただろうか。他の皇族女子の心が知りたいと、『ひと日を重ねて』(大東出版社)を開いた。

サブタイトルに「紀宮さま 御歌とお言葉集」とある。皇太子さま(当時)と美智子さまの長女として1969年(昭和44四年)に生まれ、2005年(平成17年)に都庁職員の黒田慶樹さんと結婚された清子さま。外国訪問のたびに記者会見し、毎年の誕生日には文書で回答し、皇族女子の中で最も語った方だと思う。

この本を読んでわかるのは、清子さまに流れる母から受け継いだ「ディテールDNA」。ただし、発露の仕方は少し違う。「皇太子妃」「皇后」という立場と、「内親王」という立場の違いからだろう、清子さまは具体的な場面を語ることより、気持ちを語ることに注力している。ご両親、特に美智子さまからの「教え」を具体的にあげ、自分なりの「理解」を語ることが多い。

2002年(平成14年)、33歳のお誕生日にあたり「内親王という立場」について述べられていた。

「皇族という立場において、男女の差やその役割の違いというものは特別にはないと感じています」と清子さま。「その務めについても、両陛下をお助けしながら、皇族としての務めを果たすという基本的な点で変わりなく、(略)男女の役割の違いというよりは、その公務の内容に対する各人の携わり方などが関係してくる場合もあるのではないかと思います」

そう述べてから清子さまは、「皇后さまが」という表現で、美智子さまの話をする。皇后さまはずっと「皇位継承者というお立場だけは他の者が代わることのできない、またそのお務め自体も他が分け持つことのできないもの」という考えだった、と。

その上で、清子さまはこう続けている。

〈内親王という立場も、他の皇族と変わるところはないでしょう。私の場合、宮中の行事など以外では、独りのお務めが多いため、これまであまり女性皇族ということを意識することも少なかったように思います。ただ、内親王という立場は、先行きを考えるとき、将来的にその立場を離れる可能性がどうしても念頭にあるため、中途半端に投げ出してしまうことのないように、継続的な責任ある立場に就いたりすることは控えてきたということはあるかもしれません。〉

胸に響く文章だった。33歳といえば、働き盛りだ。ここまで紹介した文章でも、真面目で思慮深い女性だということがわかる。清子さまが「お務め」を愛し、一生懸命取り組んできたことも伝わってくる。そういう女性が「男女の差や役割の違いは特別にない」と認識しながら、「その立場を離れる」ことを念頭に、「継続的な責任ある立場に就いたりすることは控えてきた」というのだ。

何ともったいない、そして何とつらいことだったろうと思う。

関連書籍

矢部万紀子『雅子さまの笑顔 生きづらさを超えて』

弾けるような笑顔、華やかなファッション、外国賓客に対する堂々たる振る舞いと、日々輝きを増す皇后雅子さま。しかし、一九九三年のご結婚から今日までの道のりは、長く苦しいものだった。外交官から皇室へと新しい人生を選択したものの、男子出産の重圧にさらされ、生きる意味を見失った日々。そこからどう立ち直ってこられたのか?失わなかった「普通の人としての感覚」とは?雅子さま、そして愛子さまほか女性皇族にとって生きやすい皇室を考えながら、誰にとっても生きやすい社会のあり方を問う、等身大の皇室論

矢部万紀子『美智子さまという奇跡』

一九五九(昭和三四)年、初の民間出身皇太子妃となった美智子さま。その美しさと聡明さで空前のミッチーブームが起き、皇后即位後も、戦跡や被災地を幾度となく訪れ、ますます国民の敬愛を集める。美智子さまは、戦後の皇室を救った“奇跡”だった。だが、今私たちの目に映るのは、雅子さまの心の病や眞子さまの結婚問題等、次の世代が世間にありふれた悩みを抱えている姿。美智子さまの退位と共に、皇室が「特別な存在」「すばらしい家族」である時代も終わるのか? 皇室報道に長く携わった著者による等身大の皇室論。

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矢部万紀子 コラムニスト

1961年三重県生まれ。コラムニスト。83年朝日新聞社に入社し、記者に。宇都宮支局、学芸部を経て、「アエラ」、経済部、「週刊朝日」に所属。94年、95年、「週刊朝日」で担当したコラムをまとめた松本人志『遺書』『松本』(ともに朝日新聞出版)がミリオンセラーになる。「週刊朝日」副編集長、「アエラ」編集長代理をつとめたのち、書籍編集部で部長をつとめ、2011年、朝日新聞社を退社。シニア雑誌「いきいき」(現「ハルメク」)編集長となる。17年に株式会社ハルメクを退社し、フリーランスで各種メディアに寄稿している。著書に『美智子さまという奇跡』(幻冬舎新書)、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)がある。

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