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感染爆発〈パンデミック〉の真実

2020.03.25 公開 ポスト

『H5N1 強毒性インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ』より一部公開

埋葬もままならない――。この小説のようにならなために、我々は”知っておくべき”だ。岡田晴恵(医学博士 感染免疫学・ワクチン学専門)

新型コロナの流行以降、毎日メディアに登場しているウイルス学者・岡田晴恵教授は、10年前に、幻冬舎文庫より小説を出している。

ここでは、致死率の高い危険な「強毒型インフルエンザ」が流行して、日本がパニックに陥る『H5N1 強毒性インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ』より一部公開する。

現在大流行中の新型コロナウイルスは、小説と違い、致死率が高いウイルスでないにもかかわらず、「感染爆発〈パンデミック〉」により、我々の経済も、生活も、破綻しかけている。致死率の高いウイルスが、もし、今回の新型コロナのように流行してしまったら、日本は、世界は、どうなる……!?

*   *   *

南の島で、致死率の高い強毒性新型インフルエンザが発生。感染者は増える一方、もはや医療従事者も、病院も、限界を超えた――。

【おもな登場人物】

大田信之 国立感染症研究所ウイルス部長、WHOインフルエンザ協力センター長

沢田弘 大阪府R市立S病院副院長、感染症内科の専門医

*   *   *

12月12日 東京都内・犠牲者の埋葬

患者が収容された病院、大型施設でも、治療の限界を超え、力尽きた犠牲者が出始めた。ところが臨時の病院とされた大型施設には霊安室などあるわけもない。かといって遺体を患者と一緒に置いておくわけにはいかない。

自治体は早急に、市区町村営の体育館などを一時の遺体安置場所としたが、大きな問題にぶつかった。

誰もが免疫を持たない新型ウイルスに人々が感染すれば、ほとんどが発症を避けることはできなかった。

つまり、亡くなった患者がいるということは、その家族全部がその患者から感染して新型インフルエンザに罹っている可能性が高く、病中の家族らに、遺体を引き取れる余裕も力もなかったのだ。

さらにH5N1は全身感染のため、その体液、血液にもウイルスは存在しうる。つまり、新型インフルエンザがまだ新型に進化する前、まだ過去に鳥インフルエンザであった頃、うつる可能性があるので、死鳥には触れるなと言ったのと同じ理屈がここにも成り立つ。かといって、感染していない親戚や知人が感染のリスクを冒してまで遺体を引き取るとも考えにくい。

過酷な現実ではあるが、遺体は危険な感染物なのだ。感染源をなくすためには、円滑な火葬が必須である。しかし、火葬場は昼夜兼行で焼いても、間に合わない。

 

実は現在の我々もほとんど知らないことだが、90年前のスペイン風邪の流行時にも、これと同じ現象が起こっていたのだった。次々と人々が亡くなり、関東大震災の4倍以上、およそ45万人が亡くなったと推計されている。そのため当時は、大阪駅、上野駅に棺桶が積み重なって置かれたと、ものの本に書かれている。市内の火葬場がいっぱいだったため、家族が地方の焼き場に持って行って焼こうとした遺体が次々と運ばれ山積みにされたのだった。人々は、時間の経過とともに傷んでいく最愛の人の遺体をどうすればいいか途方にくれながら右往左往していたのだ。

そんな過去の悲惨な経験と同じようなことが現代の日本でも、繰り返されようとしていた。

(写真:iStock.com/amie Middleton)

自治体は、最後の決断を下す。密閉式の納体袋に名前のプレートを付け、大きな穴、深淵のような穴に集団埋葬をすることを決めたのだ。だが、疲弊した自治体にはこの作業を行うだけの余力は全くなかった。自治体から防衛省に、この過酷な作業を遂行してほしいとの依頼が次々と舞い込んだ。

東京都でも、ほとんどの都立公園で集団埋葬が始まった。それは歴史にあるペスト流行時の埋葬風景と酷似していた。

遺体安置所では、自衛隊員が2人1組になって、次々と遺体を納体袋に密閉していく作業が始まった。流行がその激烈さを増した頃、あまりに夥しい数の死者が出たために棺桶は品薄になって、入手できない状況になっていたのだ。スペイン風邪の時にも、棺桶の入手できなかった人々は、茶箱などの代用品を使ったことが記録されている。袋に入った遺体を次のグループが入り口近くの置場に運び、次のグループがその先まで運んで、そしてトラックに乗せる。それは、深い共同墓穴へと運び込まれる。

犠牲者は、赤ん坊もいれば、幼児、小中学生から、青年層、壮年層まで、すべての世代にわたっている。自分たちと同じ、20代や30代の遺体も目立って多い。生きていた人が、今、こうやって梱包されて積まれて行く。自衛隊員の中には、犠牲者に自分の周囲の同じ年頃の父母や兄弟、子供などの家族の誰彼が連鎖的に浮かんで、やりきれない思いに苛まれる者も多い。いくら日頃から訓練を積み、国民のために働く強靱な魂を養っていても、この悲壮な作業にあたった多くの隊員の精神を崩し、トラウマとなって爪痕(つめあと)を残して行く。こうして運び込まれた遺体は、整然と積み重ねられて“埋葬”されていったのだ。

 

多くの叫びの中で、数百の遺体が同じ穴に積み重なっていく……。

パリの中心部の地下には、今も600万体のシャレコウベが積み上がっている。カタコンブと言われるその場所は、地下鉄に隣接して、その入り口がある。パリの市中、さまざまな有名な通りの下、迷路のような地下道に夥しい数の人骨が、積み上げられては時を刻んでいることを多くの日本人は知らないだろう。これらの死因は同定できないにせよ、そのほとんどがペストを中心とする疫病の流行による犠牲者であることは、歴史的には明白だ。疫病の流行時、ヨーロッパでは死体がラザニアのように積まれたと表現される。このカタコンブでも人骨が、ラザニアのように壁を造って人間の背丈以上に積まれている。ヨーロッパでの疫病の記憶とはこのようなものだ。この疫病の恐怖の記憶は、日本には残っていない。

家にこもった人々も既に1ヶ月を経過して、備蓄した食糧もなくなり始めていた。十分な準備を行っていたはずの家庭でも、新たな食料品の入手が多くの店舗閉鎖で極めて困難になっているため、籠城生活はそろそろ限界に近付いていた。

食糧や生活必需品の役所への問い合わせも続いている。日常必需品の不足はますます深刻化し、それにつれて治安も不安定になってくる。物置にしまっておいた食糧備蓄品が盗まれた、閉めている店舗のシャッターがこじ開けられて荒らされたなどの事件も頻発し、警察の警備強化が求められたが、警察官の3分の1も病欠しているありさまではいかんともしがたい。商店街では夜回りの警戒も検討されたが、感染とトラブルに巻き込まれることをおそれる商店主たちの誰もが積極的に動こうとはせず、結局小さな空き巣や泥棒は手をこまねいて見ているしかなかった。

ガソリンの供給は一般のガソリンスタンドでは、既に全く不可能となっていた。流行の初期から、公共交通機関での感染の危険性が指摘された段階で、ひとまず安全な移動手段のためにと自家用車、業務用車を問わずとにかく自分の車のための燃料を確保しようと人々がガソリンスタンドに殺到し、あっという間にガソリンは売り切れてしまったのだ。その後一時はガソリン供給が回復したように見えたが、世界的な流行の拡大とともに石油原産国での生産量と輸出量も激減している。輸入がストップしただけでなく、供給する石油会社の業務縮小や、運搬するトラック運転手などの病欠による物流の停滞などで、新たなガソリンがガソリンスタンドに供給されなくなってしまったのだ。

クウェートを石油満載で出航していたタンカーが、出航時に既にウイルスがしのび込んでいたのか、船長はじめ乗組員が次々に新型インフルエンザに倒れ、インド洋沖で漂流しているというニュースが、ガソリン供給が途絶えている象徴的出来事として、ネット上に流れていた。

ガソリンの不足は、それまでは最低限の範囲ではあっても、車を利用して移動を可能にしていた地域の住民の足そのものに影響し始めていた。それに加えて、政府は石油の配分を厳しく制限したのだ。

街の中では、病院に行こうとして力尽きてうずくまる道路沿いの病人、行き倒れた人々への救護も、一般の人々はもちろんのこと、もう警察も保健所も手が出ない状態となった。家の中でひっそりと亡くなった人にも、まだ手が差し伸べられていない。多くの街が街としてのみならず、社会としても機能を失っていた。

(写真:iStock.com/belchonock)

*   *   *

今の現実社会で起きているパンデミックから、我々は、きちんと学ぶべきで、絶対に、本書にあるようなパニックを引き起こしてはいけないのだ! 人類が生き延びるヒントを、ここから読み取ってほしい。

関連書籍

岡田晴恵『H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ』

南の島で強毒性新型インフルエンザが発生した。感染した商社マン・木田は帰国4日後に死亡。感染症指定病院や保健所は急いでパンデミックに備えるが、瞬く間に野戦病院と化す。R病院副院長・沢田他、医師の間に広がる絶望と疲弊、遂には治療中に息絶える者も。科学的根拠を基にウイルス学の専門家が描いた完全シミュレーション型サイエンスノベル。

岡田晴恵『隠されたパンデミック』

ワクチンが足りない!情報が操作されている!ウイルス学者・永谷綾は、厚労省の新型インフルエンザ対策の不備を追及、本省を追われる。同時期に、“弱毒型”インフルエンザが発生、同省の対策の甘さが露呈した。もし今“強毒型”が流行したら、被害は何百倍にもなる。綾は、政界や経済界に直訴を始めた。厚労省の闇を暴く、問題の社会派小説。

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感染爆発〈パンデミック〉の真実

世界的な新型コロナウイルスの大流行で、我々はいまだかつてない経験をしている。

マスクやトイレットペーパーが売り場から消え、イベント自粛や小中高休校の要請が首相から出され、閉鎖した商業施設もあれば、従業員の出社を禁止する企業も出ている。

そこで毎日、メディアに引っ張りだこなのがウイルス学の岡田晴恵教授。

なんと岡田氏は、10年前に自身が書いた小説の中で、まさにこうなることを、予言していた!

そこで、この2つの小説、『H5N1 強毒性新型インフルエンザウイルス日本上陸のシナリオ』『隠されたパンデミック』を、緊急重版かつ緊急電子書籍化した。

バックナンバー

岡田晴恵 医学博士 感染免疫学・ワクチン学専門

白鴎大学教育学部教授。元国立感染症研究所研究員。医学博士。専門は感染免疫学、ワクチン学。「新型インフルエンザ完全予防ハンドブック」「H5N1」「隠されたパンデミック」(以上、幻冬舎)、「人類vs感染症」(岩波ジュニア新書)、「感染爆発にそなえる――新型インフルエンザと新型コロナ」(共著、岩波書店)、「強毒型インフルエンザ」(PHP新書)、「なぜ感染症が人類最大の敵なのか?」(ベスト新書)、「感染症とたたかった科学者たち」(岩崎書店)、「うつる病気のひみつがわかる絵本シリーズ」(ポプラ社)、「学校の感染症対策」(東山書房)など著書多数。

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