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プロ野球怪物伝

2020.02.26 公開 ツイート

野村監督が語る大谷翔平 完全復活のカギは下半身の使い方【再掲】 野村克也

野村克也さんの選手評は、いつも冷静で的確で、なにより野球と選手への愛がにじみ出ていました。心よりご冥福をお祈りします。

野村さんの著書『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、教え子である田中将大、「難攻不落」と評するダルビッシュ有から、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手まで、名将ノムさんが嫉妬する38人の「怪物」を徹底分析しています。

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二刀流復活を目指す大谷翔平だが、以前のようなピッチングができるようになるかといえば、正直、私は疑問だ。もちろん復活はするだろう。けれども、ケガをする前と同じスピードボールを投げるのは不可能だと思う。

実際、1999~2011年に手術を経験したピッチャー147人を対象にしたデータでは、復帰したシーズンに10試合以上投げた投手は67%。フォーシームのスピードもわずかだがダウンしているそうだ。

完全復活のカギとなるのはやはり、下半身の使い方だろう。そのためにはどうすればいいのか。

まずはやはり、走ることだろう。金田正一さんがいい見本だ。カネさんがピッチング練習をしているのを見たことがない。ひたすら走っていた。その影響をもっとも受けたのが村田兆治で、彼もよく走った。

もうひとつ、効果があるのは遠投だ。遠投は上体だけではできない。嫌でも全身を使って投げなければならない。やり投げを見ればわかる。遠くに投げるには、上体だけでなく、全身を使わなければならないはずだ。おのずとバランスのいい投げ方が身につくのである。

遠投はカネさんもよくやっていた。カネさんはランニングと遠投で、大きな故障をすることなく400勝したのだから、これに勝る説得力はない。東映フライヤーズで活躍した尾崎行雄も、「遠投がいちばんよかった」と話していた。

下半身をうまく使えるようになれば、バランスのいい、理にかなったフォームで投げられる。そうなればコントロールがよくなるのはもちろんだが、おのずとスピードも戻るはずである。

同時に、バッティングにも好影響を与えるはずだ。ピッチング同様、バッティングでも大切なのは下半身だからである。バッティングは、ギリギリまでグリップを残せるかが重要である。バットが早く出てしまうと、身体が開きやすくなる。グリップを残すためには、「足→腰→腕」の順で動くことが必要であり、そうしてこそしっかりした強い打球が打てる。ヘボバッターはこれが逆、すなわち「腕→腰→足」の順で動いてしまう。上半身に頼りがちになるのである。

足のなかでももっとも大切なのが、ピッチングと同じくひざだ。人間にはいろいろな関節があるが、「皿」があるのはひざだけである。肩やひじには皿はない。「それはどういう意味か考えろ」と選手たちによく言ったものだが、ひざがはずれたら何もできない。はずれないように皿でカバーしているのだと私は理解している。つまり、いかに人間にとってひざが大事であるかということだ。

よく、緊張しているバッターに「肩の力を抜け」とアドバイスする指導者がいる。

私も二軍のころにはよく言われたものだ。しかし、そういわれるとますます力が入ってしまうもの。肩の力を抜こうと意識すればするほど硬くなってしまうのである。

そもそも、肩の力を抜いてしまえばバットを振れるわけがない。「肩の力を抜く」とは「リラックスしろ」という意味で、要は無駄な力が入らなければいいわけだ。そこで私が気づいたのが、「ひざの力を抜く」ことだった。実際に意識してやってみると、身体全体の無駄な力が抜けてリラックスできるのである。

リラックスしてひざを動かすことができれば、自動的に肩と腰が回り、肩と腰が回れば腕がスムーズに出てくるものだ。大谷のバッティングを見ていると、まだまだひざをやわらかく使えているふうには見えない。才能に恵まれすぎているがゆえに、バッティングでも上体のほうが勝ってしまっている。いまのままでもあれだけのバッティングができるのだから、下半身、ひざを上手に使えるようになれば、それこそ手がつけられないバッターになる可能性がある。ぜひとも、下半身の使い方を身につけてほしいと思う。

 

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この続きは、『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)で。全国の書店で好評発売中です。

野村克也『プロ野球怪物伝 大谷翔平、田中将大から王・長嶋ら昭和の名選手まで』

攻略法のなかった松井、
史上最高の右バッター落合、
本格派と技巧派、変幻自在のダルビッシュ……
私が嫉妬する、38人の"常識はずれ"な男たち。

王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手から、大谷翔平、ダルビッシュ有、佐々木朗希ら新世代のスターまで、名将ノムさんが38人の“怪物”たちを徹底分析!


 

【本書でとりあげる怪物たち】
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●田中将大……もはや気安く「マーくん」などと呼べない存在に
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●清原和博……私の記録を抜くはずだった男
●伊藤智仁……史上最高の高速スライダー。彼のおかげで日本一監督に
●清宮幸太郎……左ピッチャーとインコースを攻略できるか
●佐々木朗希……"163キロ"の豪腕は本物か。令和最初の怪物候補
●イチロー……現役晩年に見られたある変化
●王 貞治……あえて注目したい「四球数」の記録
●長嶋茂雄……ボールをキャッチしようとした瞬間、バットが目の前に
●金田正一……ピッチャーとしては別格、監督としては失格
●稲尾和久……正確無比の制球力でストライクゾーンを広げてみせた
●江川 卓……元祖・怪物。大学で「楽をすること」を覚えたか
●松坂大輔……実は技巧派だった平成の怪物
●ジョー・スタンカ……忘れられない巨人との日本シリーズでの一球
●ランディ・バース……バックスクリーン3連発を可能にした野球頭脳
●柳田悠岐……誰も真似してはいけない、突然変異の現役最高バッター
●山田哲人……名手クレメンテを彷彿とさせる、三拍子揃った新時代の怪物
●山川穂高……大下、中西、門田……歴代ホームラン王の系譜を継ぐ男 ほか全38名

野村克也『野村のイチロー論』

「正直に言う。私はイチローが好きではない。しかし、彼の才能に最初に目をつけたのはこの俺だ」――名将がはじめて書いた、“天才・イチロー vs. 凡人・野村” 究極の野球人間論!

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野村克也

1935年、京都府生まれ。54年、京都府立峰山高校卒業。南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)にテスト生として入団。首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、MVP5回、ベストナイン19回、ダイヤモンドグラブ賞1回などの成績を残す。65年には戦後初の三冠王(史上2人目)にも輝いた。70年、捕手兼任で監督に就任。73年のパ・リーグ優勝に導く。その後ロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)、西武ライオンズでプレーし、80年、45歳で現役引退。89年、野球殿堂入り。通算成績は3017試合、2901安打、657本塁打、1988打点、打率.277。指導者として、90~98年、ヤクルトスワローズ監督、リーグ優勝4回、日本一3回。99~2001年、阪神タイガース監督。06~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。現在は野球評論家。『野村のイチロー論』『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)など著書多数。

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