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プロ野球怪物伝

2020.02.20 公開 ツイート

野村監督が語る松坂大輔 実は技巧派だった平成の怪物【再掲】 野村克也

野村克也さんの選手評は、いつも冷静で的確で、なにより野球と選手への愛がにじみ出ていました。心よりご冥福をお祈りします。

野村さんの著書『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、教え子である田中将大、「難攻不落」と評するダルビッシュ有から、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手まで、名将ノムさんが嫉妬する38人の「怪物」を徹底分析しています。

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松坂大輔は1998年のドラフト1位で西武に入団、1年目から16勝をあげ、最多勝と新人王を獲得する。以降もエースとして活躍し、8年間で108勝をマークした。

ただ、松坂の才能は充分に認めつつも、率直に言って、松坂に対する私の評価はそれほど高いものではなかった。というのは、私がピッチャーにもっとも必要なものだと考える原点能力、すなわちアウトコース低めのコントロールがよくなかったからである。

私は松坂を本格派ではなく、技巧派だと見ていた。以前にも述べたが、私のいう本格派とは、バッターがストレートを待っているときにストレートを投げても抑えられるピッチャーのことを指す。松坂はそうではない。もちろん、ストレートは充分に速いが、ほかにフォーク、カーブ、スライダー、チェンジアップなど多彩にして一級品の変化球を持ち、そのコンビネーションでバッターを打ち取っていく。私に言わせれば、技巧派なのである。

松坂ほどのスピードと球種があれば、いくらでも三振がとれ、抑えられると思われる。ところが、実際はそうではなかった。空振りしてもおかしくないストレートを打ち返されたり、緩いカーブやチェンジアップにも反応されたりするシーンが多々あった。

なぜか。原点能力が低いからである。だから、甘く入ったボールを痛打されたり、変化球頼みになったところを狙い打ちされることが多かったのだ。

2007年にメジャーリーグへ行ってからも、制球難は変わらなかった。フォアボールを連発してランナーをため、大量失点することがしばしばあった。そのうえ、右バッターのインコースへのコントロールも悪かった。だから、インコースとアウトコースのコンビネーションがうまく使えず、攻め方が苦しくなり、単調になることが目立った。もう少し原点能力が高ければ、アメリカでももっとすごい成績をあげられたと思う。

レッドソックスとメッツで通算56勝をあげたあと、松坂は日本球界に復帰した。彼のフォームを見て、私は「もう復活は無理だろう」と思った。

松坂は2012年に右ひじの手術を受けた。その後遺症なのか、明らかに投げ方がおかしかったのだ。どこかをかばっている投げ方をしていた。首をやたらに振っていたのがその証拠だ。肩が痛くて腕がいうことをきかないから、首を振ることになるのである。実際、ソフトバンクでの3年間で一軍登板は1イニングだけだった。

その後、テストを受けて2018年、中日に入団。6勝をあげ、オールスターにも出場、カムバック賞を受賞した。久しぶりにピッチングを見たら、ずいぶん投げ方がよくなっていた。かなり治ったのだろう、首を振ることが少なくなった。もはや150キロは投げられないが、スピードよりコントロールを意識するようになったようだ。

2019年は春季キャンプでファンから腕を引っ張られて右肩を負傷し、出遅れてしまった。現役晩年を迎えたかつての怪物は、来シーズン以降いかなる変貌を見せてくれるのか。私は楽しみにしている。

 

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この続きは、『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)で。全国の書店で好評発売中です。

野村克也『プロ野球怪物伝 大谷翔平、田中将大から王・長嶋ら昭和の名選手まで』

攻略法のなかった松井、
史上最高の右バッター落合、
本格派と技巧派、変幻自在のダルビッシュ……
私が嫉妬する、38人の"常識はずれ"な男たち。

王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手から、大谷翔平、ダルビッシュ有、佐々木朗希ら新世代のスターまで、名将ノムさんが38人の“怪物”たちを徹底分析!


 

【本書でとりあげる怪物たち】
●大谷翔平……最多勝とホームラン王、両方獲れ
●田中将大……もはや気安く「マーくん」などと呼べない存在に
●江夏 豊……「江夏の21球」明暗を分けた佐々木への6球
●清原和博……私の記録を抜くはずだった男
●伊藤智仁……史上最高の高速スライダー。彼のおかげで日本一監督に
●清宮幸太郎……左ピッチャーとインコースを攻略できるか
●佐々木朗希……"163キロ"の豪腕は本物か。令和最初の怪物候補
●イチロー……現役晩年に見られたある変化
●王 貞治……あえて注目したい「四球数」の記録
●長嶋茂雄……ボールをキャッチしようとした瞬間、バットが目の前に
●金田正一……ピッチャーとしては別格、監督としては失格
●稲尾和久……正確無比の制球力でストライクゾーンを広げてみせた
●江川 卓……元祖・怪物。大学で「楽をすること」を覚えたか
●松坂大輔……実は技巧派だった平成の怪物
●ジョー・スタンカ……忘れられない巨人との日本シリーズでの一球
●ランディ・バース……バックスクリーン3連発を可能にした野球頭脳
●柳田悠岐……誰も真似してはいけない、突然変異の現役最高バッター
●山田哲人……名手クレメンテを彷彿とさせる、三拍子揃った新時代の怪物
●山川穂高……大下、中西、門田……歴代ホームラン王の系譜を継ぐ男 ほか全38名

野村克也『野村のイチロー論』

「正直に言う。私はイチローが好きではない。しかし、彼の才能に最初に目をつけたのはこの俺だ」――名将がはじめて書いた、“天才・イチロー vs. 凡人・野村” 究極の野球人間論!

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野村克也

1935年、京都府生まれ。54年、京都府立峰山高校卒業。南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)にテスト生として入団。首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、MVP5回、ベストナイン19回、ダイヤモンドグラブ賞1回などの成績を残す。65年には戦後初の三冠王(史上2人目)にも輝いた。70年、捕手兼任で監督に就任。73年のパ・リーグ優勝に導く。その後ロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)、西武ライオンズでプレーし、80年、45歳で現役引退。89年、野球殿堂入り。通算成績は3017試合、2901安打、657本塁打、1988打点、打率.277。指導者として、90~98年、ヤクルトスワローズ監督、リーグ優勝4回、日本一3回。99~2001年、阪神タイガース監督。06~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。現在は野球評論家。『野村のイチロー論』『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)など著書多数。

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