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プロ野球怪物伝

2020.02.13 公開 ツイート

野村監督が語るダルビッシュ有 どんな作戦も通用しない、本格派であり技巧派【再掲】 野村克也

野村克也さんの選手評は、いつも冷静で的確で、なにより野球と選手への愛がにじみ出ていました。心よりご冥福をお祈りします。

野村さんの著書『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、教え子である田中将大、「難攻不落」と評するダルビッシュ有から、ライバルだった王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手まで、名将ノムさんが嫉妬する38人の「怪物」を徹底分析しています。

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正直、プロ入り当初のダルビッシュ有は、それほどのピッチャーだとは思わなかった。

東北高時代は2年の春から4季連続甲子園に出場。2年夏に準優勝、3年春には熊本工相手にノーヒットノーラン、3年の夏は3回戦の9回に大会初失点し、延長の末涙を呑んだと記録にはあるが、私は憶えていない。ドラフト1位で日本ハムに入団後も、あまり印象はなかった。

だが、身体が大きくなるにつれてボールにスピードが増した。加えて鋭いカーブを持っていて、私が「原点能力」と呼ぶ、アウトコース低めにきちんと投げ込む能力も備わった。「これはいいピッチャーになるな」という気がした。ほどなく、ダルビッシュは怪物としての真価を発揮しはじめた。

ダルビッシュのどこが卓越しているのか──。

本格派であり、技巧派でもあるという点だと私は思っている。つまり、スピードだけでも充分勝負できる本格派でありながら、多彩な球種を持ち、緩急、内外、タテヨコ、出し入れを自在に使いこなす技巧派としても超一流なのである。状況や自分の状態、相手バッターの力量・狙いに応じて、本格派と技巧派を使い分けるのだ。

言い換えれば、それは危機察知能力、危機回避能力が高いということでもある。楽天ゴールデンイーグルスの監督だったとき、2009年の開幕戦でダルビッシュと対戦したことがあった。前年は防御率0.45に抑えられていた反省から徹底的に研究した結果、こういう作戦を採用した。

「ホームベースの内側1/3、すなわちインコースは見逃し、アウトコースのストライクとボールをしっかり見極め、右方向へ打ち返す」

この攻略法が成功し、楽天は初回に3点を先取。岩隈久志がこれを守り切り、約1年ぶりにダルビッシュから勝利をもぎとったのだが、2回以降は沈黙させられた。また、右バッターにインコースのツーシームを徹底して狙わせたときも、立ち上がりこそ成功したものの、ダルビッシュはすぐにこちらの狙いを見抜き、インコース狙いを逆手にとられて以降は抑えられた。すでに当時のダルビッシュは、難攻不落のピッチャーに成長していた。

私が考えるエースの条件

そんなダルビッシュの真骨頂といえるのが、テキサス・レンジャーズに移籍して2年目、2013年4月2日のヒューストン・アストロズ戦だ。初先発のダルビッシュは、9回2死まで完全試合という、見事なピッチングを展開したのである。

14個の三振を奪い、残るアウトもほとんどが内野ゴロ、外野フライはふたつだけだった。アストロズ打線は、本格派と技巧派を使い分けるダルビッシュの前に、ストレートを打ち損じ、変化球をひっかけてボテボテのゴロの山を築いたのだった。

こうした高い能力に加え、ダルビッシュについて私が評価するのは、エースの条件を満たしていることだ。

私の考えるエースの条件とは、第一に、チームの危機を救ってくれることにある。

チームが不調のとき、打線が沈黙しているときであっても勝利をもたらしてくれるということである。

そしてもうひとつが、チームの鑑であること。ほかの選手の見本となれる存在であるという意味だ。かつては素行に若干の問題があったダルビッシュだが、ある時期からガラッと変わったという印象を私は受けた。トレーニングやピッチングに対する研究心も旺盛のようだし、さまざまな社会貢献活動も行っていると聞く。近年は故障がちで、やや精彩を欠いているようだが、まだまだこの怪物には可能性があると私は期待している。

 

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この続きは、『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)で。全国の書店で好評発売中です。

野村克也『プロ野球怪物伝 大谷翔平、田中将大から王・長嶋ら昭和の名選手まで』

攻略法のなかった松井、
史上最高の右バッター落合、
本格派と技巧派、変幻自在のダルビッシュ……
私が嫉妬する、38人の"常識はずれ"な男たち。

王貞治、長嶋茂雄ら昭和の名選手から、大谷翔平、ダルビッシュ有、佐々木朗希ら新世代のスターまで、名将ノムさんが38人の“怪物”たちを徹底分析!


 

【本書でとりあげる怪物たち】
●大谷翔平……最多勝とホームラン王、両方獲れ
●田中将大……もはや気安く「マーくん」などと呼べない存在に
●江夏 豊……「江夏の21球」明暗を分けた佐々木への6球
●清原和博……私の記録を抜くはずだった男
●伊藤智仁……史上最高の高速スライダー。彼のおかげで日本一監督に
●清宮幸太郎……左ピッチャーとインコースを攻略できるか
●佐々木朗希……"163キロ"の豪腕は本物か。令和最初の怪物候補
●イチロー……現役晩年に見られたある変化
●王 貞治……あえて注目したい「四球数」の記録
●長嶋茂雄……ボールをキャッチしようとした瞬間、バットが目の前に
●金田正一……ピッチャーとしては別格、監督としては失格
●稲尾和久……正確無比の制球力でストライクゾーンを広げてみせた
●江川 卓……元祖・怪物。大学で「楽をすること」を覚えたか
●松坂大輔……実は技巧派だった平成の怪物
●ジョー・スタンカ……忘れられない巨人との日本シリーズでの一球
●ランディ・バース……バックスクリーン3連発を可能にした野球頭脳
●柳田悠岐……誰も真似してはいけない、突然変異の現役最高バッター
●山田哲人……名手クレメンテを彷彿とさせる、三拍子揃った新時代の怪物
●山川穂高……大下、中西、門田……歴代ホームラン王の系譜を継ぐ男 ほか全38名

野村克也『野村のイチロー論』

「正直に言う。私はイチローが好きではない。しかし、彼の才能に最初に目をつけたのはこの俺だ」――名将がはじめて書いた、“天才・イチロー vs. 凡人・野村” 究極の野球人間論!

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野村克也

1935年、京都府生まれ。54年、京都府立峰山高校卒業。南海ホークス(現・福岡ソフトバンクホークス)にテスト生として入団。首位打者1回、本塁打王9回、打点王7回、MVP5回、ベストナイン19回、ダイヤモンドグラブ賞1回などの成績を残す。65年には戦後初の三冠王(史上2人目)にも輝いた。70年、捕手兼任で監督に就任。73年のパ・リーグ優勝に導く。その後ロッテオリオンズ(現・千葉ロッテマリーンズ)、西武ライオンズでプレーし、80年、45歳で現役引退。89年、野球殿堂入り。通算成績は3017試合、2901安打、657本塁打、1988打点、打率.277。指導者として、90~98年、ヤクルトスワローズ監督、リーグ優勝4回、日本一3回。99~2001年、阪神タイガース監督。06~09年、東北楽天ゴールデンイーグルス監督。現在は野球評論家。『野村のイチロー論』『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)など著書多数。

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