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英語で伝えるということ

2019.08.28 更新 ツイート

A good listener at a party

聞いて聞いて!の世界で飯田まりえ

(写真:iStock.com/Rawpixel)

ネットフリックス、Amazon、Huluといった動画配信サービスを思いっきり楽しんでいる人なら既にご存知かもしれないが、アメリカは今、テレビドラマの黄金期にあると言われている。撮影スタジオが連なるロサンゼルスを車で回ると、数え切れないほどのテレビ番組の広告塔が窓の外を通り過ぎていく。

 

先日、新しい命を授かった友人夫婦を祝うベビーシャワーに参加したときのこと。パーテイーの最中も、話題になるのはテレビのことばかり。みんな、まるでジャングルの奥地から珍しい宝石でも発掘してきたように目を輝かせ、自分が観ている番組の自慢をする。しかも、内容だけではなく、自分というフィルターを通して、作品の存在価値を、実にユニークに、熱く語るのだ。

こういったアメリカ人の姿を目にすると、私はいつもアメリカの学校の授業を思い出す。小学校の低学年のころから、学びの場に欠かせないのがデイスカッション(討論)や、エッセーだった。何を学んでいるかに関わらず、先生からいつも問われるのは、歴史的な出来事や文学について自分はどう思うかであった。私は、この授業のスタイルがとても嫌いだった。手を挙げて自分の意見を声に出さないと、成績が下がってしまい、先生に「日本人は静かね」と一括りに言われるのが悲しかった。

もちろん、アメリカ人がみんなお喋りというわけではない。今回のパーテイーの主役であった妊娠9ヶ月のエリンは、とても静かな人だ。私たちは、お互いの旦那さんが友人であったことがきっかけで知り合ったのだが、私は彼女に対して少し苦手意識があった。

冬の空のような冷たい、透き通ったブルーの瞳をしたエリンは、とにかく口数が少なく、会話がなかなかもたない。でもその日は幸い、私が一生懸命に話す必要がなかった。実は、今秋から私の旦那さんも、自分で企画・監督を務めたテレビ番組がネットフリックスで配信されるので、作品に込めた思いや、不安などについてずっとしゃべり続けていた。

そんな私の旦那さんの話を黙って聞いていたエリンは、ふと、彼に顔を向けて、こう言った。「作品がどう観られようと、ここにいるみんなは、あなたを誇りに思っているわ。だって、番組の制作のためにニューヨークからロサンゼルスに越してきて、色々な苦労があったじゃない。ここまで来たことが素晴らしいと思う」。思いがけない彼女の言葉に、みんな急に静かになってしまった。

帰りの車の中で旦那さんが、「エリンって、何考えているか分からないけど、ちゃんと聞いているんだな」と言った。私も同感だった。心に響く言葉を発する人というのは、相手の話をしっかりと聞き、心に留めている人だ。

今私たちは、自分の意見や世界観を発信する術をたくさん持っている。コンテンツの数は、増え続ける一方である。でも、コミュニケーションに大切なのは、What だけではなく、How なのだ。つまり、話の内容ではなく、それをいつ、どうやって伝えるか。自分ばかりに向かった意識をそっと相手に向けると、そこに宿るのは、思いやりの心だ。

優しい言葉を持ったエリンは、きっと、良いお母さんになると思う。

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英語で伝えるということ

世界的ブームとなっている片づけコンサルタントの近藤麻理恵さんのNetflix番組「KonMari ~人生がときめく片づけの魔法~」の通訳として、そのプロフェッショナルな仕事ぶりが現地で称賛され、注目されている飯田氏。話者の魅力を最大限に引き出し、その人間性まで輝かせる英語表現の秘訣はどこに? 「英語で話す」ではなく「英語で伝える」ときに重要な視点を探るコミュニケーション・エッセイ。

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飯田まりえ

2006年ニューヨーク大学卒業。卒業後は東京都内の独立系映画製作会社に就職し、黒沢清、新藤兼人、鈴木清順、ミーラー・ナーイル、ジム・ジャームッシュを始めとした国際的な映画製作者の脚本の翻訳を担当する傍ら、通訳者としての実績を積む。2007年から米国の大手美術出版社 RIZZOLI NEW YORK の要請を受け編集、翻訳業務に携わり、建築、美術、映画、デザイン、写真、ファッションを含む多くの書籍を手掛ける。2011年コロンビア大学大学院卒業。卒業後はニューヨークにてフリーランスとして通訳、翻訳業を開始。現在は拠点をロサンゼルスに移し、映像作家の夫とともにテレビ番組等の脚本も執筆中。来年2020年には、共同で英訳している高村薫著作の『レディ・ジョーカー』がSOHO PRESSより出版予定。

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