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おしゃれ嫌い

2019.08.17 公開 ツイート

ユニクロ無視からユニクロ礼賛へ態度を変えたファッション誌 米澤泉

ユニクロがここまで普及した理由は、服は特別なもの、おしゃれは難しいという思い込みを解き、服で個性を競うことに疲れた人々の心を掴んだから。これまで指摘されることのなかったユニクロのメッセージと消費の変化を気鋭の社会学者が『おしゃれ嫌い~私たちがユニクロを選ぶ本当の理由~』で鮮やかに読み解きます。

 

ユニクロ被りの恐怖から「ユニクロでよくない?」へ

この柳井正の「決意表明」がようやく届いたのだろうか。革命的なUIPが始まってから4年後の2015年には、ファッション誌も「ユニクロでよくない?」と言い始めたのである。

それまでのユニクロはポピュラーな「みんなの服」ではあったが、決してファッション誌で特集される服ではなかった。新聞の折り込みチラシ、あるいは大々的なテレビCMによって、「ユニクロを買おう」と喚起されることはあっても、ファッション誌によって「ユニクロを買わねば」と思わされることはなかったのである。なぜならユニクロはどちらかと言えば着ていることを知られたくない服であったからだ。誰もが着ているユニクロを自分も着ているのは恥ずかしい。「ユニバレ」という言葉には、そんな消費者の複雑な心理が表れている。だからこそ、ひと手間加えて「デコクロ」し、「ユニ被り」しないように苦心したのだ。

ところが、「ユニバレ」「ユニ被り」と否定的に語られることの多かったユニクロが、一転してファッション誌の主役に躍り出る時代がやってきた。代表的なのが、『andGIRL(アンドガール)』2015年11月号の特集「ユニクロでよくない?」であろう。『アンドガール』は2012年に創刊されたアラサー向けファッション誌である。「アラサーになっても、仕事ができても、結婚しても、『ガール』な大人たちへ!」をキャッチフレーズに「大人女子」ファッションを提唱している。その『アンドガール』創刊3周年記念号で28頁にわたってユニクロと姉妹ブランドのGUが大特集されたのであった。

 

「ユニクロ」「GU」の人気はますます過熱中。この秋冬も使い勝手&コスパ最適なアイテムが続々リリース。そこで、アラサーにおすすめの鉄板コーデから着回し、SNAPまで、賢くオシャレな取り入れ方を大特集! もう、ユニクロ&GUでよくない?

(『アンドガール』2015年11月号 エムオン・エンタテインメント)

数年前までは「ユニバレ」が嫌だったはずなのに、いきなり「ユニクロでよくない?」とはいったい何が起こったのだろうか。なぜ、積極的に「ユニジョ(ユニクロ女子)」を名乗るようになったのだろうか。もちろん、『JJ(ジェイ・ジェイ)』『non-no(ノンノ)』『with(ウィズ)』『VERY(ヴェリィ)』など他誌でもこの頃からユニクロをクローズアップするようになり、2016年に入ると、すっかり20~30代向け女性ファッション誌の定番ブランドとしての地位を不動のものにする。

とはいえ、見出しは「ユニクロでよくない?」である。どこか投げやりな態度さえ感じられる。一般に、ファッション誌の見出しは、もっと強気で断定的だ。「アラサーが買うべき流行BEST22」「私たちやっぱりヒールで生きていく!」「今こそ、Jマダムは『艶ジュエリー』」たいした根拠がなくても、ちょっとばかり意味不明でも、今季の流行を強気で断定するのがファッション誌というものだ。ところが、「ユニクロでよくない?」は疑問形である。しかも「もう、ユニクロでよくない?」と「もう」までついている。ファッション誌の見出しとしてはかなり異色と言っていいだろう。

ところで、ユニクロの何が「もう、よくない?」なのだろうか。実は、「もう、ユニクロでよくない?」には3つの「よくない?」が含まれている。

一つ目は、現在のファッションの流行に合致していて「よくない?」である。シンプルでベーシックなアイテムをデザインの基本とするユニクロは、今の流行にちょうど相応しい。

二つ目は、最近のユニクロ、前より「よくない?」である。ユニクロは機能面、デザイン面において、常にレベルアップを目指し、イノベーションを続けている。昨年よりも、今年のヒートテックやエアリズムがより進化したものになっているのは当然であり、著名デザイナーとのコラボのおかげで、デザインへの配慮も目に見えてわかるようになってきた。そういう意味で、最近のユニクロはかつてのユニクロとは似て非なるものなのである。

三つ目は、「もう、ユニクロでよくない?」の「もう」という言葉に表れている。つまり、「もう、服なんて所詮そんなもんじゃない?」という、一種の諦観とも言うべき服への姿勢である。機能面もコスパもよく、デザインもそこそこイケてるなら、別に高い服を買わなくてもいいじゃない? 服は「もう、ユニクロでよくない?」。おしゃれは生きがいなんかじゃなくて、ほどほどでいいのだから。

このように、「ユニクロでよくない?」は「ちょうどよくない?」「前よりよくない?」「別によくない?」の3つの「よくない?」に支えられていたのである。ただこれらの「よくない?」は決して積極的な評価というわけではなかった。別に「もう、ユニクロがバレてもよくない?」とどこか消極的な選択を感じさせるものだった。

しかし、この「ユニクロでよくない?」からすでに4年近くの時が経とうとしている。

2018年夏にはとうとうあの『25ans(ヴァンサンカン)』にもユニクロは登場するようになった。叶姉妹も輩出した『ヴァンサンカン』という雑誌は、日本でいちばんブランド志向が強いファッション誌だと言っても過言ではない。すっかりブランドブームが過ぎ去ったかのように思える現在の日本においても、毎号のようにシャネル、エルメス、グッチ、ルイ・ヴィトン、ヴァレンティノ、ディオールといったハイブランドの新作が誌面を飾っている。その『ヴァンサンカン』2018年9月号で、ユニクロが紹介されたのだ。

記事の扱いとしてはそれほど大きくないものの、「今日のおしゃれに迷ったらTOKYO発・ブランドが常識!」という特集において、「目が離せない! ユニクロのホットなコラボレーション」と題し、ユニクロ ユーとユニクロ×イネス・ド・ラ・フレサンジュが掲載されたのである。

全世界に2000店舗以上を展開するグローバルなユニクロ。機能性とコスパの良さに加え、トレンド感のある旬デザインでファンを惹き付けてやみません。

(『ヴァンサンカン』2018年9月号 ハースト婦人画報社)

もはや「ユニバレ」は死語であろう。すでに、ユニクロは、バレてもよくないどころか、エレガントを信条とする『ヴァンサンカン』読者御用達のバラしたいブランドになりつつあるのだ。ようやく、ユニクロの長年の努力が実ったと言うべきではないか。「日本が誇るカジュアルファッションに注目」と『ヴァンサンカン』に書いてもらえる時が来たのだから。もう、ユニクロは昔のユニクロではない、今こそ、そう断言することができるのではないだろうか。

それもそのはず、数年前からユニクロはいっそう攻めの姿勢を打ち出していたのである。

関連書籍

米澤泉『おしゃれ嫌い 私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』

日本の国民服となったユニクロ。長く無視していたファッション誌も今ではユニクロの虜だ。ここまで普及した理由は、服は特別なもの、おしゃれは難しいという思い込みを解き、服で個性を競うことに疲れた人々の心を掴んだから。もう誰もが服に余計なお金も時間も使いたくない。ユニクロはその変化にいち早く気づき、「見た目」をよくするための服ではなく、「くらし」をよくするための服を提案し続けてきた。それは世界をも席巻している。これまで指摘されることのなかったユニクロのメッセージと消費の変化を気鋭の社会学者が鮮やかに読み解く。

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米澤泉

甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』など著書多数。

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