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2019.08.14 公開 ツイート

ユニクロの理念はおしゃれよりも崇高 米澤泉

ユニクロがここまで普及した理由は、服は特別なもの、おしゃれは難しいという思い込みを解き、服で個性を競うことに疲れた人々の心を掴んだから。これまで指摘されることのなかったユニクロのメッセージと消費の変化を気鋭の社会学者が『おしゃれ嫌い~私たちがユニクロを選ぶ本当の理由~』で鮮やかに読み解きます。

 

服装の部品を超え、ライフスタイルをつくる道具を目指す

デザイナーズ・インビテーション・プロジェクトにより、ファッション性の欠如を補う一方で、2011年にユニクロはもう一つの大々的な戦略である「ユニクロイノベーションプロジェクト」を立ち上げた。有名デザイナーに頼るだけでなく、ユニクロ自身が「国民服」の域を超えて、世界的なブランドにならねばならない。そのために掲げられたのが、このプロジェクトであった。

「ユニクロの服とは何か」──ユニクロイノベーションプロジェクト(以下、UIP)はまず原点に立ち返り、問いかけることから始まる。その「問い」に対する答えが次の6つである。

ユニクロの服とは、服装における完成された部品である。

ユニクロの服とは、人それぞれにとってのライフスタイルをつくるための道具である。

ユニクロの服とは、つくり手ではなく着る人の価値観からつくられた服である。

ユニクロの服とは、服そのものに進化をもたらす未来の服である。

ユニクロの服とは、美意識のある超・合理性でできた服である。

ユニクロの服とは、世界中のあらゆる人のための服、という意味で究極の服である。

(『考える人』2011年秋号 新潮社)

このように、「ユニクロの服とは」で始まる文言において、「完成された部品である」ことは最も重要な変わることのない基本コンセプトであるが、それに加えて、「ライフスタイルをつくるための道具」「着る人の価値観からつくられた服」「進化をもたらす未来の服」「美意識のある超・合理性でできた服」「究極の服」など刺激的、かつ挑戦的な言葉が並んでいる。

「人間を区別してきたあらゆるものを超える、みんなの服」という2000年のマニフェストからいっそう進化し、より深く、より強く、世界を見据えて攻めの姿勢に転じたユニクロの姿を見て取ることができるだろう。

 

ここでは、ユニクロの服は人々の「服装の部品」であることをはるかに超えて、ライフスタイルや価値観をつくるものになっているのだ。もはや、流行やおしゃれの入る余地はないほど崇高な理念をユニクロの服は目指しているのである。

2011年の9月に発表されたUIP最初のコレクションでは、デザイン・ディレクターに滝沢直己、クリエイティブ・ディレクターに佐藤可士和、ファッション・ディレクターにニコラ・フォルミケッティをそれぞれ起用した。さらに東レをはじめとするパートナー企業を迎え入れたプロジェクトチームが、「画期的な機能性と普遍的なデザイン性を併せ持った究極の普段着」を開発していくことになった。それは、先進的な素材や高い技術を活かした高機能なプロダクトに、世界中の誰もが着られる「普遍的なデザイン」を融合させるという、新しい服づくりへの挑戦であった。

自分で言うのも面映いのですが、これは革命的な定義だと自負しています。これまでの服の概念を変え、服の可能性を広げるものだからです。つまりUIPとは、単に商品を作るというよりは、この定義に沿って商品を生み出すプロセス、あるいは商品開発の体制自体を思い切って変えていこうという決意表明です。言い換えれば、われわれが世界に打って出る上での立ち位置をはっきりさせた上で、われわれが今後作っていく“未来の服”は、すべてこの方向性にのっとっていくというブランド・メッセージです。

(『考える人』2011年秋号 新潮社)

こうして、「画期的な機能性」と世界中の誰もが着られる「普遍的なデザイン性」からなる、一億人のためのファッションが生み出されることとなったのである。

*続きは『おしゃれ嫌い~私たちがユニクロを選ぶ本当の理由~』をご覧ください。

関連書籍

米澤泉『おしゃれ嫌い 私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』

日本の国民服となったユニクロ。長く無視していたファッション誌も今ではユニクロの虜だ。ここまで普及した理由は、服は特別なもの、おしゃれは難しいという思い込みを解き、服で個性を競うことに疲れた人々の心を掴んだから。もう誰もが服に余計なお金も時間も使いたくない。ユニクロはその変化にいち早く気づき、「見た目」をよくするための服ではなく、「くらし」をよくするための服を提案し続けてきた。それは世界をも席巻している。これまで指摘されることのなかったユニクロのメッセージと消費の変化を気鋭の社会学者が鮮やかに読み解く。

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米澤泉

甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』など著書多数。

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