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おしゃれ嫌い

2019.09.24 公開 ポスト

『アンアン』の「おしゃれグランプリ」はなぜ流行らなくなったのか米澤泉

ユニクロがここまで普及した理由は、服は特別なもの、おしゃれは難しいという思い込みを解き、服で個性を競うことに疲れた人々の心を掴んだから。これまで指摘されることのなかったユニクロのメッセージと消費の変化を気鋭の社会学者が『おしゃれ嫌い~私たちがユニクロを選ぶ本当の理由~』で鮮やかに読み解きます。

10月16日には著者・米澤泉さんの刊行記念トークイベントも開催します。ぜひご参加ください(詳細は記事一番下に)。

 

 

かつておしゃれは競うものだった

1980年代の『アンアン』に「おしゃれグランプリ」という名物企画があった。東京、名古屋、大阪、福岡など全国の主要都市で街頭スナップを撮り、誰がいちばんおしゃれかを競うものである。審査員は、当時人気を博していたDCブランドのデザイナーやスタイリストだ。選ばれれば誌面に登場できることもあって、各都市におしゃれ感覚を誇る読者たちが集結した。

記念すべき第1回の「おしゃれグランプリ」が開催されたのは1983年の秋(『アンアン』1983年11月25日号)である。表紙には、「全国縦断おしゃれスナップ特大号 私の街のおしゃれ感覚、ぜったいどこにも負けません。」とある。ここからわかるのは、当時のおしゃれは勝ち負けを競うものであったということだ。AかBか、どっちがおしゃれか勝負するものだったのである。では、実際に「おしゃれグランプリ」では、どんな勝負が繰り広げられたのか。

以下は、『アンアン』による各都市の寸評である。

札幌─氷点下になっても意外に薄着の人が多いけど、やはり大胆な重ね着やストール使いが目立つ街。

仙台─表参道のような並木道が縦横に走る杜の都、緑が紅葉するにつれてファッションも変わります。

東京─ギャルソン風やPH風、ビギ風も、もういない!? 古着や安いもの、手作りをアレンジしての自分流。

横浜─おしゃれした日でも、過激派扱いされなくなった。ハマっ子がハマトラからいよいよ脱皮したらしい。

大阪─さすが大阪は、おしゃれも迫力で勝負です。これでもかこれでもかと頑張ってて、好感がもてます。

名古屋─これが名古屋ファッションと言えないところが名古屋的? 私は私、とても個性的なファッションが目立ちます。

京都─おしゃれに関しても、古さと新しさが交錯している街。派手さはないけれど、落ち着いた着こなしが上手。

金沢─金沢はブランド大好きお嬢さんの多い街。この通り独自のファッションがある竪町通り。

広島─全身ワンブランドがまだまだ圧倒的。対して古着チープシック派もなかなか健闘中。

福岡─シックなおしゃれを楽しんでいる福岡の女の子達、街に目立つ色は、黒、グレー、紺。

(『アンアン』1983年11月25日号)

 

街ごとにそれぞれの特徴があるものの、全身をワンブランドでまとめるよりも、最新のDCブランドと古着を駆使して、個性を表現した方が高く評価されるようだ。150人の中から栄えある「第1回グランプリ」に選ばれた福岡代表の19歳の女性もそうである。

父親のお古の黒のセーターに母親のパールのネックレスを合わせ、インナーにはBASSOの赤いノースリーブニットとBIGIの白いシャツを合わせている。ボトムスはBIGIの赤いスカートの上にコムサデモードの黒いスカートを重ねるという大胆さが目を引く。両親のお古とDCブランドをミックスしたこれでもかというほどの重ね着ファッションは、80年代前半を代表するに相応しいビッグシルエットだ。

現在ならばヴィンテージショップや古着屋もたくさん存在するが、80年代はまだ古着の価値も低く、ショップも少なかったために、両親の服を着ることも流行していた。お父さんの古いコートを着た「オリーブ少女」も少なくなかったはずである。

ちなみに、準グランプリは、BOSCHのアーミースーツを着こなした広島代表の20歳の販売員であった。他にも誌面には、精一杯のおしゃれをして集う各地区の代表者たちが掲載されている。

それはまさに、おしゃれが自己表現であったという証である。コストやエネルギーをかけて表現すべき個性があると信じられていたのだろう。だからこそ、我こそはと思う兵つわものは、「おしゃれグランプリ」を目指したのだ。

だが、80年代には『アンアン』を代表する人気企画として毎年行われてきた「おしゃれグランプリ」も、94年を最後にもう開催されなくなる。個性を誇ったDCブランドが衰退したこと、90年代に入って台頭してきた、ストリートファッションを掲載する雑誌が多数創刊されたことなどが主な理由だが、リアルクローズが主流となっていくにつれて、デザイナーやスタイリストにおしゃれの勝ち負けを判断してもらわなくてもよくなったということだろう。

現在のおしゃれはもう、競うものではない。競うどころか頑張らなくてもよいものになった。機能的で、快適であれば、人と同じものでもかまわない。おいしいパンと一緒である。評判のおいしいパンを自分も買いたいと思うように、評判の快適な服を自分も欲しいと思って何が悪いのだろう。おいしいパンを選ぶように服を選ぶ。あるいは、コンビニで新しいペットボトル飲料を選ぶように服を選ぶ。

「オシャレにドキドキ」する必要もない。お腹がすいたからパンを買うように、喉が渇いたからドリンクを選ぶように、肩肘張らずに服を選べばいい。それは服のコモディディ化である。生活必需品としての服。くらしのきほんの服。私たちの周りには「ライフウェア」が常にスタンバイしている。

*続きは『おしゃれ嫌い~私たちがユニクロを選ぶ本当の理由~』をご覧ください。

*   *   *

米澤泉×吉川稔『おしゃれ嫌い』刊行記念トークイベント
「見た目の時代から、くらしの時代へ」

日時:2019年10月16日 (水) 19:00 - 21:30 
会場:kudan house 九段ハウス(山口萬吉邸)
参加費:3000円
詳細・お申込みはPeatixをご覧ください。

関連書籍

米澤泉『おしゃれ嫌い 私たちがユニクロを選ぶ本当の理由』

日本の国民服となったユニクロ。長く無視していたファッション誌も今ではユニクロの虜だ。ここまで普及した理由は、服は特別なもの、おしゃれは難しいという思い込みを解き、服で個性を競うことに疲れた人々の心を掴んだから。もう誰もが服に余計なお金も時間も使いたくない。ユニクロはその変化にいち早く気づき、「見た目」をよくするための服ではなく、「くらし」をよくするための服を提案し続けてきた。それは世界をも席巻している。これまで指摘されることのなかったユニクロのメッセージと消費の変化を気鋭の社会学者が鮮やかに読み解く。

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米澤泉

甲南女子大学人間科学部文化社会学科教授。1970年京都生まれ。同志社大学文学部卒業。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は女子学(ファッション文化論、化粧文化論など)。世の中で「取るに足りない」と思われることから社会の本質を掬いとることを研究の目的とする。『「くらし」の時代』『「女子」の誕生』『コスメの時代』『私に萌える女たち』『おしゃれ嫌い』『筋肉女子』など著書多数。

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