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ラブコメ!萬葉集

2019.07.26 更新 ツイート

第4回

風流=映え!?いつの時代もインスタ映え三宅香帆

我がやどの尾花が上の白露を消たずて玉に貫(ぬ)くものにもが(巻八・一五七二)

(現代語訳)家の庭に咲いてる尾花のうえにこぼれる露、消えずにそのまま真珠として糸に通せたらいいのに!

 

和歌といえば、なんだかやたら「きれいな情景描写」を詠んだもの……という認識があるんじゃないかな~と思う。

たとえば桜。たとえば紅葉。たとえば旅先の風景。あるいは夕焼けに感動して、わぁきれいだなぁ……と思い、そして和歌を詠んだ。昔の人は雅で風流な生活を送っていたんですね。

というのが、古典の授業で私たちが習うはじめての和歌の印象ではないか。

 

 

個人的には、もちろん景色を詠む歌も好きだけど、それ以上に、当時を生きていた人々のじんわりとした感慨、感情、あるいは「あるあるある……」と呟いてしまいそうになるほど変わらない人間の心情を表現した歌のほうが好きで、だからこの連載ではこれまで「BLか!? と思うような贈答歌」や「メンヘラか!? と思うような恋の歌」を扱ってきた。感情って変わらないからね。

でも、じゃあ教科書に載っていた「景色を詠む歌」が、全然面白くないのか? と聞かれれば、そんなことないよ! いい歌いっぱいあるよー! と首を振りたくなる。

じゃあどうやって私たちは一見退屈そうな景色の歌を楽しめるんか!? 今回はそんな「景色を詠んだ歌」を萬葉集のなかから取り上げてみたい。

 

景色を詠んだ歌=インスタ映えを狙った歌!?

(写真:iStock.com/dwph)

で、なんの説明もしていなかった冒頭の歌を、見てほしい。

尾花のうえの露を、そのまま真珠にして残しておきたいな……! という歌。

ちなみに「尾花」ってアレね、秋の七草に詳しい方ならお分かりかと思うけど、ススキのことですよ。秋の七草のひとつだからね。

ススキにこぼれるように乗る露。ぽたぽたと落ちていってしまうけど、ああこのまま真珠として保存できたなら……。

って、「風流ー!!」って叫びたくなりますか!? なりますかね!?

でもね、私は思う。こんなふうに歌を詠みたくなるのは、決して昔の人だけではない。

というのも、現代で言えば「インスタ映え」を狙った歌……と考えれば、すべてがしっくりと理解できるのである。

 

どういうことか。ねえちょっとInstagramのアプリをぜひ開いてみてほしい。自分の写真をアップする芸能人や店のごはんの写真を載せる店舗のインスタとはちがい、我々一般人が「インスタ」に投稿するとき、一番当たり障りなく写真を載せられるのは何だろうか。

それは、ずばり、景色、なのである。

もっというと、季節に合った景色。それから旅行先の風景。それから日常のちょっとした、きれいな一コマにうつる情景。

たとえば梅雨の時期だったら「あじさいの写真」、京都へ旅行にいけば「金閣寺と紅葉の写真」、それから春に美しく咲く「桜が満開の写真」。

……和歌か!? と全力でツッコミたくなるジャンルである。

そう、私はほんとにSNSを見ていると思うのだけど、現代日本でSNSにみんなが投稿しがちな写真たち、テーマがめちゃくちゃ「和歌」とかぶるのである。

 

風景は映えるし亀裂を生まない説

(イラスト:いらすとや)

たぶん、今も昔も周りに気を遣いがちな日本人にとって、思想の対立もなければ人間関係に亀裂も挟まない「風景」の話が、一番当たり障りなくみんなで「わあ素敵~!」という感情を共有できるジャンルなんだろう。

だから風景を詠んだ和歌を、今のご時世の私たちが読むとき、まあたいていは「この風景、インスタ映え!」と思って詠んだんだな~~と思うと、面白く読めるんじゃないか。ていうかだいたいテンション一緒だと思う。

私たちがSNSに写真を投稿するとき、なにかひとこと付け加えたくなる。

そんなとき、たとえば家の庭にススキがあり、そのうえで露がこぼれそうになっていると、「露、消えちゃわずに、宝石としてブレスレットにしたいな……✩」という言葉とともに写真をアップしたくなる。……なったんだよ、家持は!!!(この歌を詠んだのは大伴家持です。第2、3回にも登場したね! 家持はやっぱり萬葉集の編纂者かと言われてるだけあって、掲載された和歌が多いね!)。

 

というわけで、これから先、「わあ風流!」と思う歌が登場したときは、「うーんインスタ映え!」と思いつつ読んでみてもらったら楽しいんじゃないか、とおすすめしたい。

意外と人間の考えてることは変わらないし、現代の女子高生も、昔の歌人も、「このすてきな風景を残したいな、人と共有したいな、だれかに伝えたいな」と願う感情は、まったくもって同じものなんじゃないか……と私はしみじみ思うのである。

*  *  *

ちなみに! 注釈コーナー。

第二回の連載でお話しましたが、家持はこんな歌を作ってましたね。

 

我が背子は 玉にもがもな ほととぎす 声にあへ貫き 手に巻きて行かむ(巻十七・四〇〇七番)

(現代語訳)いとおしいあなたが、真珠であってくれたらな。(ほととぎすの声といっしょに)ひもに通して、僕の腕に巻いてゆきたいよ。

 

今回の歌と似てると思いません? こんなふうに、「その歌人が使いがちなテーマ」とか「好きそうな詠み方」を発見すると、ぐっと萬葉集を読むのが面白くなってくるんですよ。家持、真珠にしてブレスレットにするの大好きか! と微笑ましくなりません?

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ラブコメ!萬葉集

新元号「令和」の元ネタとして今注目の「萬葉集」。萬葉集研究をしていた京大院卒書評家が、その面白さを現代目線からぶったぎりつつ解説します。

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三宅香帆

1994年生まれ。高知県出身。文筆家、書評家。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。天狼院書店(京都天狼院)元店長。大学院にて萬葉集を研究する傍ら、2016年天狼院書店のウェブサイトに掲載した記事「京大院生の書店スタッフが「正直、これ読んだら人生狂っちゃうよね」と思う本ベスト20を選んでみた。 ≪リーディング・ハイ≫」が2016年年間総合はてなブックマーク数ランキングで第2位に。選書センスと書評が大反響を呼ぶ。著書に外国文学から日本文学、漫画、人文書まで、人生を狂わされる本を50冊を選書した『人生を狂わす名著50』(ライツ社)、『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』(サンクチュアリ出版)がある。

Blog:https://m3myk.hatenablog.com/
Twitter:@m3_myk

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