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マンガ停留所

2019.05.16 更新

北野武!?タランティーノ!?人生の不条理を黙って受けとめるニヒリズムの佳作 コウノコウジ『ロストドライブ』(少年画報社)中条省平

今回、紹介する作品は、コウノコウジの『ロストドライブ』です。

現代日本のヤクザが主人公で、題材は犯罪、見せどころはアクションとバイオレンス。

山ほどある類似作品のなかで、その独特の感じを強いていうなら、北野武やクエンティン・タランティーノの映画を連想させるということでしょうか。

 

つまり、ハードな暴力描写のなかに、ナンセンスに近い乾いたユーモアが点描され、その底には、人生の不条理を黙って受けとめるニヒリズムがあるのです。

主人公は「アニキ」と呼ばれる暴力団の幹部で、組の金をもって逃亡した会計士を追いかけて、アメリカに来ています。もちろん、英語などできないので、フィリピン女から生まれた混血の若者・拓也を通訳がわりに連れています。

「アニキ」の特徴は、どんなことがあっても一切顔に出さない無表情で、拓也はそこに痺れて、「アニキ」を慕っています。この「アニキ」の無表情には、子供のころ家庭で母親の情夫から暴力を受けつづけ、小学校では暗くてキモいといじめられた過去が原因だという説明がついています。しかし、それはまあ、物語の一応のお約束です。

ところが、この「アニキ」は、表面上は無表情なのですが、頭のなかでは延々と自分の不満やあせりや苛立ちを言葉にしてしゃべりつづけ、その内面のセリフがしばしばコマを埋めつくすのです。

この点で、主人公がほとんど内面を語らない北野武型と、主人公たちがたえずくだらない話を垂れ流しつづけるタランティーノ型の中間というか、折衷というか、総合というか、そんな感じになっているのです。

これは、実際の会話を吹きだしに囲んで表すと同時に、内心のセリフをコマの余白に直接書きこんでしまえるマンガの機能を活かしたみごとな仕掛けで、映画では絶対に不可能なわざなのです。その面白さに脱帽です。

この技法からは、人間の内面なんてどうせ会話では表現することができないし、結局、人間が本当にたがいに理解しあうことは不可能なのだというニヒリズムと、でもそれがどうした、しょうがないだろ、という諦念とが滲みでているのです。そこにこのマンガの意外な深み、懐の深さがあって、はっとさせられます。

物語もいい加減な行き当たりばったりの連続のように見えて、スマホのGPS機能を用いて会計士の行方を探していたら、そのスマホが切られた手首つきでゴミ箱に捨てられていたとか、立ち寄った食堂で黒人に絡まれたと思ったら、思わぬ乱暴な手段で事態を打開するとか、会計士と拓也に思いがけないつながりがあるとか、いきなり道連れになった金髪の娼婦がラストの奇妙な人生の感慨を引きだすとか、通常のドラマ作法には収まらない意外な展開がかなり楽しめます。一風変わったヤクザマンガの収穫といえるでしょう。

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幻冬舎plus  内心のセリフをコマの余白に書き込む技法からは、人間は理解しあえないというニヒリズムと、それがどうしたという諦念がに滲み出ている―ー読みたい! バイオレンス苦手なのに、また中条マジックにやられた…(小) ↓ コウノコウジ『ロストド… https://t.co/jdeJPBVTM6 4日前 replyretweetfavorite

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中条省平

1954年神奈川県生まれ。学習院大学フランス語圏文化学科教授。東大大学院博士課程修了。パリ大学文学博士。著書『中条省平は二度死ぬ!』『文章読本』など。翻訳書最新刊はロブ=グリエ『消しゴム』。

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