カメラマンのキッチンミノルは本を買う決断が早い。雑談の話題に上った本、ふと目についた本など、「これ、買います」と即決でカウンターの上に積み重ねていく。つまり本屋としてはありがたい客なのだが、これはあくまでもわたしの想像でしかないが、キッチンは買った本の半分も、まともに読んでいないのではないか。
先日、BSで『ヒグマを叱る男~世界遺産・知床~』というドキュメンタリーを放映していた。熊と共存して暮らしている知床半島の番屋(漁師が漁場近くに作る、作業所兼宿泊所)を追った番組を見ながら、発売時に買ったまま放置していた本があるのを思い出した。本棚の奥に埋もれていた『熊を彫る人』を引っ張り出して読んでみたら、先ほどのドキュメンタリーと重なる箇所も多く、「これはいま読むべき本だったなあ」と深く納得した。
「買うからにはどこかしら自分の興味に沿った本なのだが、差し迫って読まなければならないものでもないので、本棚に並べて満足する」。わたしには、そういうことがよくある。そのとき、読んでいない本は「開かれてはいないが、何かしら関りのあるもの」として、そこに並べられることになる。本棚は自分の外に取り付けた脳みそのようなものなので、それを太らせることで、そこにある知や感情の総量が増えてくる(運がよければ先ほどの『熊を彫る人』のように、本を深く理解できるタイミングで取り出すことができる)。
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◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2026年2月27日(金)~ 2026年3月16日(月) 本屋Title2階ギャラリー
霧やもやをテーマにした新作の版画展。霧に包まれた幻想的な風景や、ぼんやりと現れたり消えたりする幻のようなものをイメージして描きました。今回の展示では、版を分けて奥行きを出し、輪郭をぼかして刷ったりするなど、あらたな制作方法にもチャレンジしています。
版画の展示・販売のほかに、これまで作ってきた手製本やポストカードなども並びます。ぜひご覧いただけましたらうれしいです。
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】
養生としての〈わたし〉語り|〈わたし〉になるための読書(8)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
今回は、話すこと、そしてそれを通じて自分自身を考えさせられる3冊の本を紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。














