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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2019.03.12 更新

オタクとして生きてて良かった案件、舞い込む。カレー沢薫

私はこの連載で「推し」と「尊い」という二言語しかない国からやってきた人と思われているかもしれないが、それは違う。
まず「推し」と「尊い」という言葉で喜怒哀楽全て表現出来てしまうため、むしろ他の言語に無駄がありすぎだ。

それともう一つ、他の媒体では、推しとか尊いが入る隙のない社会派なコラムの連載もしているのである。
つまり、その隙のないところに如何に隙をつくり、推しの話をねじ込んでいくか、というのがコラムニストとしての腕の見せ所という話である。
しかし、隙が見つからないまま本当に社会の話だけしてしまっている回もたまにある、敵もさるものなのだ。

そんな、推しの合間に社会の話をして嫌と言うほどわかったことは、日本はとにかく少子高齢化の労働力不足、それにも係らず、季節が俺を置いていくように、医療が経済を置いていってしまったため、高齢者を支える社会基盤もないのに、寿命ばかりが伸びてしまった。

その結果、老人を支えるのは老人、つまり最低70歳までは働かないと今後日本は国ごと沈没しかねない、ということらしい。

そういう話を聞いたら多くの人間が「長寿」をめでたいことと思えなくなると思う。働く期間を延ばすより、寿命を削減した方がコスパが良いんじゃないのかと。
このように長寿国家でありながら「長生き」がネガティブなものになりつつあるのが現在の日本なのである。

しかしそんな「巻きでお願いします」と言いたくなる人生に希望と執着を持たせるのが他でもない「推し」である。
このように社会問題も突き詰めるとすべて「推し」に着地するのだ。

私も長生きには意味を見いだせない方、で口を開けば「簡単!寿命時短レシピ!」なのだが、ひとたび「Fate/Grand Order(FGO)」で土方さんが絡むイベントの予告が出ると、「生きねば」と瞬時に風立ちぬポーズでジブリ顔、という完全な即落ち2コマなのである。

このように「100年後に解散したお前の推しバンドが再結成する」と言われたら、そこまで生きてしまうのがオタクであり、少なくとも死にたいなどとは思わない。

つまり、オタクは「推し」がいる限り絶望しない、もしくは推しを希望に「月曜日」などの絶望を乗り越えていけるのだ。
さらにこの推しによる生への希望は未来だけにではない、過去すらも推しによって輝きだすのである。

何故我々が推しが尊い瞬間に立ち会えるかというと、まず推しが存在してくれたという奇跡、そしてもう一つは我々がそこまで「生きた」からだ。
長い人生、死にたくなる夜もあっただろう、だが死ななかったからこそ、今推しの尊さに直面し、立ったまま死ぬことが出来たのだ。

生死だけではない、様々な黒歴史が、今この瞬間のための布石、孔明の罠ということになる、つまり今までのままならぬ人生は全て「計算通り」ということになるのだ。
このように未来だけではなく過去まで肯定させてくれるのが、推しなのだ。

「生きてて良かった」などとなかなか思えぬ世の中において、幾度とそう思わせてくれるのが推しなのである。

先日、私も久々に「生きてて良かった」と思うことがあった。

私は、私と同じようなオタク女が主人公の漫画を描いているのだが、そのキャラに作中で「来世はダミーヘッドマイクになる」というセリフを言わせたことになる。

ダミーヘッドマイクとは、女性向けシチュエーションCDの収録によく使われる、人間の頭型マイクのことである。
ギャグでそんな形のマイクを使っているわけではなく、このマイクを使うことにより、本当に耳元でささやかれているような音が撮れるのだ。
つまりダミーヘッドマイクは常にイケボ声優に耳元で甘いセリフを囁かれているのだ。

女なら、いや人間なら一度は思うだろう「ダミーヘッドマイク、そこかわれ」と。
しかし、ダミーヘッドマイクの代わりにスタジオに鎮座していたらすぐ警備員を呼ばれてしまう。
だったら来世、ダミーヘッドマイクに転生するしかない、転生ものが隆盛を極めている今ならいける。

それと同じことを考える奴が私の他にもいた上に、それを実現できる会社にいたのである。
本当に「ダミーヘッドマイクになれるVR」というのが発売されることになったのだ。

来世を待たずに今世でなれるのである。

この時点で「生きてて良かった」だが、なんと、同じ思考回路だったよしみで私にこの「ダミヘになれるVR」のオマケシナリオを書かないか、という話がきたのだ。
簡単に言えば、私が考えたシナリオやセリフをプロのイケボ声優さんが演じてくれるということである。

現在女性向けVRはほとんどなく、これから女性向けVRが発展していくかは初発にかかっている。

つまり自分が女性向けVRの芽が摘まれる一端を担ってしまうのかもしれないが、これを逃したら、自分が考えた話にプロの声がつくなんて一生ないかもしれない、それもみんな乙女ゲー出演歴のあるイケボ声優だ。

そして私はシナリオを書き、先日完成製品の体験をさせてもらった。

体験中、製品に対し「尊い」という気持ちを抱いたのはもちろんの事、ずっとマッドマックスのウォーボーイズたちが私の周りで「よく生きた!よく生きた!」と言っていた。

「生きていれば良い事がある」陳腐な言葉であるが、本当に良いことがあるのだから、やはりオタクはおちおち死ねないのである。

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関連書籍

カレー沢薫『カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~』

だが、未だにガチャから学ぶことは多い、去年末、本コラムをまとめた『カレー沢薫の廃人日記~オタク沼地獄~』という本を出版させてもらった。 そのキャッチコピーは「人生で大事なことは、みんなガチャから教わった」なのだが、改めてこのコピーに嘘偽りはなかったと確信している、もはやガチャは人生の縮図と言っても過言ではない。

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