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カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

2019.02.27 更新

沼がサイコー!な理由カレー沢薫

私は別媒体で、お悩み相談の連載をしている。
私が己の将来不安を延々壁のシミに吐露するコーナーではなく、何と私が他人の悩みに答える側である。
もっと他に相談する奴がいるだろうし、私も他人のことより自分の立場を憂うのが先な気がするが、「藁にもすがる」という言葉があるように、陰毛にもすがりたくなる時が人間にはあるのだろう、人生は厳しい。

送られてくる悩みは千差万別であり中には「無職に聞くことではないだろう」というような重いものもあるが、私がクソオタなせいか、オタク特有の悩みもたまに送られてくる。

先日は「沼が良いのだが沼の人間関係に疲れて引退を考えている」という悩みが来たし、少し前には「7年住んでた沼を抜けたのだが、たまに『あの7年はなんだったのか』と考えてしまう」という相談があった。

推しの解散や休止、引退はオタクにとって一大事だが、自身の引退もオタクにとっては大きな悩みだということだ

沼と一言で言っても、アイドルからアマチュア無線まで多種多様であり、アイドルだってAKBからチャンネル登録数3のヴァーチャルネットアイドルまで星の数ほどいる。

この世は沼だらけであり、オタクたちは沼から沼へ変遷を重ね、ついに「終の沼」を見つけそこで生涯を終えるものもいれば、沼自体から抜ける、いわゆる「脱オタ」をしていくものもいる。

つまりオタクの中には「人生の大半を沼の中ですごした」というムツゴロウが多数いるのだが、住んだ沼が一か所しかない、というムツゴロウは割と少数派である

どれだけ頭頂部まで浸かった沼があったとしても、そこから出て、新しい沼へ向かう、ということがオタクの人生には幾度となく起こる。その沼から抜ける時、上記のように悩んだり、抜けた後も後遺症に悩まされるムツゴロウがいるということである。

もちろんすべてのムツゴロウが「電撃沼脱退発表記者会見」を開いて去っていくわけではない。

一番、多いのは「フェードアウト型」である。
情熱というのは冷めなくても「落ち着いてくる」ものだ。

そんな時に新しい沼に出会い、だんだんそちらの沼にウェイトを置くようになり、気づいたらそっちの沼に引っ越ししていた、というのが、一番自然かつ、ムツゴロウの心にも負担が少ない脱沼である。

この場合は古い沼とも完全に縁をきったわけではなく、新しい沼は新居、古い沼は実家として、たまに帰省もする。よって長いことオタクをやっていると、実家の数がどんどん増えていき、港ごとに女がいるような状態になってくる。

しかし「何股してもいい」「浮気可」なのが沼の良いところである。

世の中では流行りジャンルを飛び回るオタクは白い目で見られがちな風潮がある。
確かに、新しいところへ行ってはそこで迷惑行為をしたり周囲を振り回すのは良くないが、そうでなければ、今日は昨日と違う沼のケツを追ってもいいのだ。

むしろ「沼への操だて」こそが、ムツゴロウを疲弊させ、脱沼の時期を早めてしまっているような気がする。
「ウホッ!」というような、イイ沼の尻が目の前にあるのに、長年連れ添った沼や、同じ沼の住民に遠慮して追いかけられないというのは趣味としてあまりに窮屈すぎる。

沼だって自分ひとりを相手にしているわけではない、沼によっては数百万単位の人間を抱いている。
だったら自分も「沼に悪い」なんて思わなくて良いのだ。

やはりオタクというのは身軽でなければいけない、仲間を作るのもよいが、それがしがらみになって沼の居心地が悪くなるようでは本末転倒だ。

その沼に35年ローンの一戸建てを立てて生涯その沼に住む人生も良いが、しゃらくさいミニマリストのようにipadだけもって、いろんな沼を旅する人生だって悪くないのである。

もちろん抜けたら抜けたで「あの時間はなんだったのか」と悩むこともある。

好奇心は猫を殺すという言葉がある。
まず言いたいのはおキャット様ではなくお前が死ねということだが、猫を殺すのが好奇心ならオタクを殺すのは「虚しさ」だ。

情熱が大きかった分、それが急に鎮火してしまうと虚しさで精神のバランスを欠いてしまうものも少なくない
沼の引っ越しと同じように、情熱も急に冷や水をぶっかけるのではなく、徐々に冷めていくのがベストなのだ。

しかし推しが淫行で捕まったりと、急に顔にドライアイスを押し付けられるのがこの界隈である。
だが、推しに使った金や時間を惜しんでも仕方がない。
逆に推しに時間や金を使っていなかったら、今頃英会話教室に通って英語ペラペラだったかというと、そんなことはない、金はコンビニ菓子にでもなり、相変わらず日本人とも日本語で話せない状態だっただろう。

つまり推しに金と時間を無駄遣いしたのではない、推しがいなかったらもっと時間と金を無駄にしていた、ということである。

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関連書籍

カレー沢薫『カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~』

だが、未だにガチャから学ぶことは多い、去年末、本コラムをまとめた『カレー沢薫の廃人日記~オタク沼地獄~』という本を出版させてもらった。 そのキャッチコピーは「人生で大事なことは、みんなガチャから教わった」なのだが、改めてこのコピーに嘘偽りはなかったと確信している、もはやガチャは人生の縮図と言っても過言ではない。

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