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橋本治のかけこみ人生相談

2019.01.06 更新

中卒を高卒と偽り職を転々。子供に胸を張って学歴を語れず情けない。【リバイバル】橋本治

●ゆきひろ・会社員・44歳・男性・東京都

昭和45年生まれの既婚妻子あり、男性です。

まず最大の悩みコンプレックスが学歴問題です。

現在、建設業界でいわゆるブルーカラーをしながら家族をなんとか養っています。いまの会社は3年目で高校卒業として入社しましたが、実際は中学卒業の学歴しかありません。詐称の十字架を背負いながら、いままで数々の会社を転職を重ねてきました。

その度に声を大にして、自分は中卒だけどなにか? と言いたい自分がいます。

自分で社長をしてるとか、職人であれば堂々と言えると思うが、自分には何もありません。いまの仕事でも気持ちは変わらないでしょう。

なにより子供に胸を張って語ることができないのが情けなく辛いです。

いま英会話の勉強をガムシャラに勉強し、バイリンガルになれればと夢みてますが、程遠いです。どうしたらいいのか……。

回答:お子さんに語るべきは学歴じゃなく、あなたの人生、そのリアリティです。

ご相談の内容で少し分かりにくいところがあります。

「詐称の十字架を背負いながら転職を重ねてきた」というところですが、それは「学歴詐称がバレて会社を辞めざるをえなかった」ということなのでしょうか? 

だったら、そんなことでクビになるのはバカらしいので、学歴に関しては「高卒」で通しちゃえばいいじゃないですか。医師免許がないのに人の命を預かる医者をやっているのとはわけが違いますし。

そうではなくて、「学歴を詐称したままこの会社にいるのがつらくて、辞めざるをえなかった」というあなた自身の内面の問題だったら、そんなことは気になさらない方がいいと思います。

だってあなたは、「自分は中卒だけどなにか?」と思っていらっしゃるわけでしょう?

 

 

「学歴とは関係なく、自分は与えられた仕事をちゃんとこなしている」という自負心がおありだからそう思えるので、だったらそれは会社の中の「腕のある職人」と同じということですから、別にコンプレックスをお持ちになる必要もないと思います。

(写真:iStock.com/Kirillm)

実は、私の死んだ父も中卒です。正確には大正生まれなので「高等小学校卒」です。

当時の学制は、現在の小学校に当たる尋常小学校があって、その上に現在の中学校に当たる高等小学校があるというものでしたので、「高等小学校卒」の父は中卒と同じです。

私の子供時代、学校から調査票が渡されて、家族構成や親の年令、職業、学歴まで記入させて提出させられていました。

だから私は、父親の学歴が「高等小学校卒」だということを知っていたのですが、毎年提出させられていたその調査票の父の学歴が、中学の終わり頃から「海軍経理学校卒」に変わりました。

父親は、海軍に入って経理の勉強をしたんだと言ってましたから「海軍経理学校卒」は嘘ではないでしょうが、だったらその以前に言っていた「高等小学校卒」というのはなんだったのでしょう?

『橋本治のかけこみ人生相談』幻冬舎文庫

父は、自分と同じような学歴の作家の吉川英治や植物学者の牧野富太郎が文化勲章をもらったというニュースを知って、「小学校しか出てないのにえらいもんだ」と言っていましたから、「高等学校卒」であったことは間違いがありません。

それをどうして途中から「海軍経理小学校卒」に変えたのかといったら、多分、恥ずかしかったからでしょう。

私の父親は小さいながら人を使う会社の社長をやっていました。

ただの個人商店がいつの間にか会社になって、「社長」と言われるようになったのですが、その会社が順調に大きくなって行く時期、父親は学歴を変えたのです。「社長なら中卒を堂々と公言出来る」というのは、あまり正確ではないように思います。

うまく行ったら見栄を張りたがるというのが人間でもありますから。

私がなんでこんな余分なことを申し上げるのかというと、あなたが「子供に胸を張って語れない」とおっしゃっているからです。

父親の学歴が中卒だと知って、お子さんはショックを受けたりするんでしょうか? 

ショックを受けるんだったら、それはお子さんの方の「事情」で、そんなことは無視して、「俺は中卒だ」と胸を張っておっしゃればよろしい。

なにしろあなたは、「中卒だけどなにか?」とお思いなのですから、「思っているけれど言えない自分」とさよならをするために、まず「中卒だけどなにか?」をおっしゃってみたらどうでしょうか。

高等小学校卒の父親を持った私の祖母(母方)は尋常小学校卒です。

そういうもんだと思っていたので、「高等小学校卒」と言う父親に「見栄張って“高等”ってつけてるけど、本当は尋常小学校卒なんじゃないの」と言ったこともあります。

まだ父親が「社長」でもない、私が小学生だった頃です。

子供の私は「高等小学校」というものの存在を知らなかったのでそう言ったのですが、別に父親は怒りもせず、「高等小学校でいいんだ」と言っていました。

そういう父親を持つとどうなるのかと言うと、人によっても違うでしょうが、私は「じゃ、そんなに勉強しなくていいんだ」と思ってました。

学歴なんかとは関係なく父親はバリバリ働いてましたから、そっちの方がカッコいいなと思ってました。

普通はそんな考え方をしないようですが、親の学歴が低いと子供はプレッシャーを感じなくてすむという利点もあります。

「親の学歴がそんなに高くないんなら、子供の自分も高い学歴なんか望まなくたっていいんじゃないか。ああ、楽だ」です。

そういうバカ息子が一度だけ父親の学歴で「なるほどー」と思ったことがあります。私が大人になってからですが、父親が上級学校に進学出来なかった理由を話したことがあります。

父親は勉強がよく出来る子供だったらしいのです。

それで、小学校の担任が家までやって来て、上の学校――つまり当時の中学で今の高校へ、「行かせてやったらどうですか?」と言ってくれたんだそうです。

父親は農家の次男坊だったのですが、その父である私の父方の祖父は「百姓の息子に我慢はいらん」と言って、それを一蹴してしまったそうです。

説教がましい父親の話なんか身にしみないものですが、その時ばかりはリアルに「悔しかっただろうな」と、若い日の父親の胸の内を思いました。

お子さんに話すべきことは、学歴のことなんかじゃありません。

「どうして自分は中卒になったのか」というあなたの人生、そのリアリティです。それだけが人を動かします。

(写真:iStock.com/berkay)

お子さんに対して押しつけるのではなく、「よくも悪くも、これが俺の人生なんだ」と折を見て話すそのことが、「子供に胸を張って語る」になるのではないでしょうか。

「コンプレックスで胸が張れない」のではなくて、「胸を張らないからコンプレックスにつぶされる」です。

「高卒や大卒なんかよりも、中卒はもっと早い時期から働いているからえらいんだ」という考え方をなさるようにおすすめします。

昔、私の家には中学を卒業して住み込みで働いている人が何人もいました。

そういう人たちがいる中で、中学を出ても働かずに高校へ遊びに行っているような状態は居心地の悪いものです。

そういう感じ方をしていた人間もここにいるのですから、胸を張って下さい。

 

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橋本治

1948年東京生まれ。東京大学文学部国文学科卒業。小説、評論、戯曲、古典の現代語訳、エッセイ等、多彩に活動。『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』(小林秀雄賞)、『双調平家物語』(毎日出版文化賞)等、著書・受賞歴多数。

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