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改憲ってほんとにするの?

2018.12.12 公開 ツイート

<手続きとスケジュール>

「改憲4項目」は今後どう進むのか?2020年の新憲法施行は可能なのか? 宍戸常寿

10日に閉会した臨時国会。安倍首相はその後の記者会見でまた“2020年に新憲法施行を目指すことについての変わらぬ意欲”を示しましたが、来年の通常国会で改憲4項目が提示されたとすると、今後はどうなっていくのでしょうか。憲法改正手続きの大きな流れとスケジュールを解説してもらいました。

与党などの賛成多数で憲法改正手続法(国民投票法)が可決、成立した参院本会議(2007年5月14日、写真提供:共同通信社)。この後、手続法は何度も改正を重ねている。

憲法第96条と、憲法改正手続法(2007年)に則って、手続きは2段階で進む

 まず憲法改正の大枠は、日本国憲法の第96条【憲法改正の手続き、その公布】に定められているとおりだ。衆議院・参議院の総議員の3分の2以上の賛成で、憲法改正案が「発議(はつぎ)」される。発議された憲法改正案に対して、「国民投票」で過半数の賛成があれば、憲法改正が成立する。

 つまり、同じ憲法改正案といっても厳密には、国会に提出される「案」(憲法改正原案)と、国会が国民に賛否を問う「案」(憲法改正案)の、2段階があることに注意しなければならない。

 したがって、まず国会議員が憲法改正原案を作って国会に提出し、両議院がそれを審議して特別多数決で可決されれば、国民投票で憲法を改正するかしないか決定する、というプロセスになる。

 国会議員の構成を表面的に見れば、衆参ともに憲法改正に前向きな勢力が3分の2を占めているので、憲法改正の発議は容易であるようにも見える。しかし実際には、連立与党のうち公明党が憲法改正に慎重であり、自民党が考える案がそのまま国会で可決され発議されるという状況ではない。

 また、憲法改正の「発議」と「国民投票」の手続きに関しては、第一次安倍内閣で成立した「憲法改正手続法(国民投票法)」(2007年)が詳しく定めている。この法律は、当時、日本国憲法施行から60年ということで、安倍首相が力を入れた結果、可決・成立したものだ。この法律の制定過程では、当初はできるだけ広範な政党の賛成での成立が目指されていたが、結局そうはならなかった上に、未解決の「宿題」がいくつか残ってしまった。18歳から憲法改正国民投票に参加できるようにするというのもその宿題の一つだが、これは2014年の改正で決着した。現在でもまだ宿題が2つ残っており、その1つがいま注目されている「国民投票運動期間中の<テレビCM>の規制を拡大するか」という問題であり、もう1つが「国民投票の<最低投票率>を定めるのかどうか」という問題だ。

 憲法改正手続法が成立してから10年以上経ってもまだ発議に至っていないが、その背景には、憲法改正手続法の制定経緯と、積み残した宿題があるという事情も大きい。

自民党の「改憲4項目」といまの進め方の問題点

 憲法改正手続法によれば、憲法改正原案の発議は、衆参両院にある憲法審査会でもできるし、衆議院議員100名以上、参議院議員50名以上の賛成でもできる。しかし現在は、「発議」のかなり前の、国会での審議に入るかどうかという段階で、憲法改正の動きは停まっているという状態だ。

 今後の憲法改正論議の焦点は、自民党の憲法改正推進本部が今年3月22日に整理した「改憲4項目」について、衆参両院にある「憲法審査会(2011年に活動開始)」で議論することができるかどうか、ということになる。

「改憲4項目」の中で最も注目されているのは、自衛隊を軍隊ではなく自衛隊のままで、合憲性を明確にするための規定を憲法9条に追加するというものだ。実は、自民党が野党だった2012年に作った「憲法改正草案」は、憲法9条を全面的に改正して自衛隊を「国防軍」にするという内容だったが、それと現在の「改憲4項目」は、大きな違いがある。

 また議論の進め方についても、自民党のいわゆる憲法族(憲法に詳しい政治家)は野党ともきちんと議論し、丁寧に進める方針だったというが、現在では「できるだけ早く憲法改正を発議する」という勇ましい声だけが、安倍首相とその側近の意向として、メディアを通して聞こえてくる状態だ。党内にいろいろな意見があるのは自民党ではよくあることだが、野党や国民からすれば、「どちらが本当の改憲案なのか、誰がどうやってものを決めようとしているのか」がよく見えず、疑心暗鬼におちいるのもやむを得ないところだろう。

 そして、自民党憲法改正推進本部長である下村博文氏の「改憲論議をしない野党は職場放棄」といった発言や、憲法改正国民投票運動についてテレビCMの規制を拡大するのが先決だという野党側の駆け引きもあって、憲法改正について話し合う憲法審査会の審議入りすら、年明けも不透明な状態だ。

 もともと自民党の「改憲4項目」は、2017年の憲法記念日(5月3日)に、「公開憲法フォーラム」に寄せられた安倍首相のビデオメッセージに端を発したものだ。当時、自民党憲法改正推進本部長としてこの4項目を党内でとりまとめた細田博之氏も、今年4月18日の日本記者クラブでの会見で、あくまでも議論の叩き台だということを強調しており、まだ憲法改正原案として国会に提出できる段階ではない。

そもそも首相が改憲に積極的に言及するのは問題か否か

 手続き論については、2017年5月にさかのぼるが、「そもそも行政の長である首相が、改憲への合意形成を呼びかけるのは、憲法99条の【憲法尊重擁護義務】に反するのではないか」という指摘が一部にあった。しかしこのこと自体は問題ない、と私は考える。

 内閣総理大臣が憲法改正に言及することが許されるのかどうかに関しては、憲法改正手続法が成立するはるか前から、議論のある問題だ。憲法第99条は、国会議員ら公務員が「憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と定めている。

 しかし、議院内閣制の下で、内閣総理大臣である与党党首が、しかるべき場所でしかるべきやり方で憲法改正について述べることは、憲法尊重擁護義務に反しないと考えるべきだ。たとえば「こんな憲法はどうでもいいんだ、改正してやるんだ」という言い方を行政の長がしたとすれば問題だ。内閣の下にいる公務員が「憲法は守らなくていいのか」と思ってしまい、憲法に基づく秩序や法の支配がガタガタになってしまう。しかし、「憲法は大事です。守ります。ただ、その憲法について、しかるべき手続を踏んで改正して、その憲法に従います」というのであれば、憲法違反でもなく、憲法を蹂躙(じゅうりん)することにもならない。

 ただし、問題になるのはそれを「発言する場所」である。

 与党党首、一政治家として憲法改正について世論に訴えたいのであれば、自らの心情に近い民間団体相手のビデオメッセージではなく、国民の代表が集まっている国会で説明する方が、ふさわしい。安倍首相自らが与党党首として憲法審査会に出席し、「改憲4項目について説明をしたい、自民党の先生であれ、野党の先生であれ、ご批判・ご質問に答えます」という姿勢で臨み、そこから議論をスタートさせてはどうか。代表制民主主義でなにより大事なことは、政治家が国民にきちんと見える形で議論をすることである。

 また、憲法改正の前に、憲法を遵守する立場にある公務員である自衛隊員の前で、首相が憲法9条に関して否定的な評価を生みかねないような発言をすることは、特に慎むべきことであろう。

今後のスケジュール、そして国民の心構えは

 この10月末、自民党は全国の289の衆院小選挙区ごとにある各支部に、憲法改正推進本部を設置することを要請した。一般の党員もまだよくわかっていない改憲4項目を説明し、改憲論議を盛り上げることが目的だといわれている。そもそも国政にさまざまな課題がある中で、「なぜこの4項目なのか」「今、憲法改正は議論するのに値するか」ということも、よく検討すべきだと私は考えている。

 憲法改正という作業は、政治の側にも、国民の側にも莫大なエネルギーとリソースを必要とする。発議までの手続きはいままで紹介したとおりだが、発議から国民投票までの憲法改正国民投票運動期間は、60日から180日間という長い時間を確保しなければならない、と憲法改正手続法が定めている。憲法改正が発議されれば、世論は憲法一色となり、普通の政策論議も憲法改正への賛成・反対に結びつけられて、議論が停まってしまう可能性もある。少子高齢社会、移民問題など非常に多くの解決すべき国政上の課題が山積している以上、憲法改正に取り組むだけの納得できる理由がなければならない。

 限られたエネルギーとリソースを投入するにもかかわらず、仮に「とにかく憲法改正をするんだ、改正できさえすればなんでもいいんだ」ということで、この4項目が選ばれたというようであれば、問題だ。変なたとえだが、「とにかく誰でもいいから結婚したい」と決めた後で、結婚相手を探したり、結婚相手の条件を決めたりするように、「とにかく憲法改正したいから、改正できそうな条項を探す」という動機から始まっているのならば、本末転倒ではなかろうか。

 安倍首相は昨年5月のビデオメッセージの中で、2020年までの憲法改正の意欲を示した。そうなると、2019年中に発議することになるが、今の国会ではとてもそのような議論の段階に至っていないし、政治日程上も、国会が憲法改正の議論をする時間がほとんどない。

 来年の通常国会が開会されても、1月から3月の終わりまでは予算関係の審議で手一杯になる。4月末には天皇退位、5月1日には新天皇の即位がある。夏には参議院議員選挙があって国会の構成も変わる。そうなったとき、憲法改正の議論はどうなっていくのかわからない。国際情勢もめまぐるしく変わり、オリンピック・パラリンピックの準備もしなければならない中で、他の課題を棚上げするに値するだけの憲法改正の内容かどうかが、問われている。

 憲法は、絶対変えられない「不磨の大典」ではなく、第96条に改正の手続きが書かれてある以上、国民の代表である国会議員たちが、「こういうふうに憲法を変えたほうがいいのではないか」ということをしっかり議論して、憲法改正原案を練りあげていくことは、もともと憲法が予定している手続きだ。「改憲4項目」についても、各党が胸襟を開いて議論できる環境ができるかどうかが問題だ。

 私は憲法改正に必ずしも反対でも賛成でもないが、「きちんと議論をする」という手続きを踏むことは非常に重要であると考える。国民は、制度的には国会の発議を待つしかない立場のように見える。しかし実際には、国民の政治的意見の集まりである「世論」は重要であり、それが政治に与える影響も複雑である。たとえば、「これまでいろいろな法案がすべて通ってきたし、最後は自民党が突っ走れば、他の政党はついていって憲法改正されるだろう」と多くの人が思っていれば、一気に進む可能性も否定できない。政治のかなりの部分は、みんながどう考えるかによっても、決まってくる。

 そして憲法改正を考える上で重要なのは、そもそも改正する「道理」があるかどうかであろう。無茶苦茶な内容と手続きを踏んでの3分の2ではなく、きちんと議論をした結果としての3分の2の賛成で、国民の過半数の賛成を得る――そうした議論と手続きを踏むことが、議会や民主主義の基本的で、重要なあり方といえる。

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宍戸常寿

東京大学大学院法学政治学研究科教授。1974年、東京都生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験合格。同学部卒業。東大大学院助手、一橋大学准教授、東京大学大学院法学政治学研究科准教授を経て、現職。著書、共著多数。第32次地方制度調査会委員など、政府の審議会・研究会にも数多く出席。

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