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改憲ってほんとにするの?

2018.12.05 公開 ポスト

<改憲案の背景>

イヤガラセの道具と化した「憲法改正」菅野完

気づけば報道でよく目にするようになった「改憲4項目」。これはいつ頃、どのように出てきたのでしょうか。その背景にあるものは。そして改憲勢力が憲法改正に焦り、こだわる理由とは。

野党欠席のまま強行開催された衆院憲法審査会。手前が森英介会長(2018年11月29日、写真提供:共同通信社)。

改憲勢力の進め方の不穏な動き

 今の臨時国会で初めてとなる衆議院の憲法審査会が、11月29日に開かれました。開催は与野党の合意によるものではなく、森英介会長(自民)による職権での強行開催。取り扱う内容が憲法という国家の根本問題であるため、「静かな環境での議論」が大前提とされてきたこれまでの国会憲法審査会の長い伝統から考えると、会長職権による強行採決は極めて異常な事態と言えましょう。

 臨時国会冒頭、安倍首相は、所信表明演説や代表質問への答弁で、改憲への意気込みを力強く語っていました。そのためでしょうか、産経新聞をはじめとする所謂「保守系」メディアでは、臨時国会冒頭から、憲法審査会の早期開催を求める声や、開催を拒否する野党を攻撃する論調が目白押しの状態でした。しかし、彼らが野党を批判するのはいささか筋違いです。本来であれば、10月に行われた自民党の党役員人事異動で自民党の改憲推進本部長に就任した下村博文氏が、衆院の憲法審査会の理事に選任されるのが順当です。しかし、下村氏は国会冒頭に不用意な発言をしたため、理事就任が困難となりました。このように、衆院憲法審査会開催が遅延した原因は、野党の反発だけでなく、自民党側の党内都合にもあります。

 にも関わらず、開催の遅延を「野党の反対」だけのせいにする保守メディアの論調は、詭弁と断ぜざるを得ないでしょう。

 11月29日の衆院憲法審査会が、会長職権で強行開催されたことにより、さまざまな憶測が飛び交うこととなりました。残り少ない今の臨時国会の会期のなかで、憲法審査会を開催できるのは、あと一回が関の山です。いかに安倍首相が国会冒頭で改憲への意気込みを熱く語ったとはいえ、あと一回しか開催できない憲法審査会に、「自民党の改憲案」を提案することなどできない……と考えるのが、常識的な判断でしょう。しかし、これまでの安倍政権の国会運営をみるとこの「常識的な判断」が通用しないことは自明です。特定秘密保護法案、安保法案、働き方改革関連法案、入管難民法改正案などなど、安倍政権が「重要」と位置付ける法案は、いかに甚大な影響のある法案でも、ことごとく強行採決されてきました。そのため、野党のみならず、自民党と連立を組む公明党からも「あと一回の開催とはいえ、自民党は、改憲案を提示してくるのではないか?」と危ぶむ声が出てきているのです。

24年憲法草案と改憲4項目の違い

 ところでみなさん、自民党の憲法改正案をご存知でしょうか。

「自民党の改憲案」として最も有名なものは、平成24年に策定された「日本国憲法改正草案」(以下、「24年憲法草案」と呼びます)でしょう。平成24年といえば、民主党政権時代。つまり、自民党が野党だった時代です。野党だった自民党は「結党以来、憲法改正を党是とする政党」(注:結党時の自民党の「党是」は、「憲法改正」ではなく「自主憲法制定」でした。いつの間にか「自主憲法制定」が「憲法改正」に後退した自民党の為体(ていたらく)についての解説は別の機会に譲ります)としてこの憲法草案を策定したのです。そして、24年憲法草案を掲げ、政権奪取選挙に臨み、みごと政権に返り咲きました。その後、幾度も国政選挙が行われましたが、その間、自民党が24年憲法草案を撤回した痕跡はありません。第二次安倍政権誕生以降ずっとあの憲法草案を掲げて選挙に臨み選挙に勝ち続けてきたのです。

 したがって、この24年憲法草案こそが、今の臨時国会に自民党が提出する改憲案である……と考えるのが普通ですが、実態はそうではありません。

 自民党は、数度の選挙の洗礼を受けてきたはずの24年憲法草案を、いつの間にか引っ込めてしまっているのです。その代わりに登場したのが、今年の3月に初めて公表された「4項目」と呼ばれる改憲案です。「憲法9条への自衛隊明記」「緊急事態条項」「参院の合区解消」「教育の拡充」からなる「4項目」は、24年憲法草案とは似ても似つかないものです。

 例えば憲法9条の扱い。24年憲法草案では「国防軍の創設」「軍法会議の新設」とフルスペックの再軍備を謳っていました。しかし、この路線から大幅に「後退」(あくまでも「自民党からみたら後退」という意味です)し、「4項目」では、9条1項2項はそのままで、9条の2を追加して、そこで自衛隊を明記するだけという「何のための憲法改正なの?」と首を傾げざるを得ない内容になってしまっています。

改憲4項目が出てきた不思議な背景

 また、この「4項目」、誕生の経緯もいささか面妖です。24年憲法草案は、野党時代の自民党の中で、慎重な議論が積み重ねられ、それぞれの分野を得意とする議員たちが部会を作り素案を提出し、それを党の改憲推進本部で取りまとめ、総務会で承認し……という、手続きを踏んで生まれたものでした。その内容が反動的であったり強権的であったりするものの、「生まれ方」は、公党の意思決定として民主的であり議論の尽くされたものと言えるでしょう。

 しかし「4項目」は違います。そもそも先ほど挙げた「憲法9条に自衛隊明記を追加」という案は、党の中で生まれたものでさえありません。

「もちろん、9条の平和主義の理念については、未来に向けてしっかりと、堅持していかなければなりません。そこで、『9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む』という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います」

 これは、昨年5月3日開催された「公開憲法フォーラム」に寄せたビデオメッセージでの安倍首相の発言です。「公開憲法フォーラム」と聞こえは良いですが、このイベントは自民党のイベントではありません。告知サイトを見ると、「共催:美しい日本の憲法をつくる国民の会、民間憲法臨調」と主催者名義が記載されています。「美しい日本の憲法をつくる国民の会」「民間憲法臨調」の2団体とも、日本会議が改憲運動を行う時に名前を語るフロント団体にすぎません。つまり、安倍首相は、自民党内で議論されていない自分の改憲の腹案を、自民党にではなく、党外の一市民団体にすぎない日本会議と最初に共有したのです。

 そしていま自民党が掲げる「4項目」とは、この安倍首相の突如の発言の後、急ごしらえで作成された代物に過ぎないわけです。

 今一度整理しましょう。

 24年憲法草案は、自民党の党内で幾度も議論が重ねられ、党内の意思決定機関の承認を経て「党の総意」として作られたもの。一方の「4項目」は、自民党の会合ですらない、党外の一市民団体(つまりは、日本会議のことですが)のイベントに、安倍首相が寄せたビデオメッセージで突如発言された内容に合わせる形で、党内の議論など飛ばして急ごしらえでできたものにすぎないのです。

 

 

 こうしてみると、「24年憲法草案」と「4項目」の内容に立ち入るまでもなく、その「創出のされ方」の違いから、「4項目」がいかに安易な代物であり、議論の土俵にさえ立っていないものであるか、明らかでしょう。

 しかも、「4項目」は、自民党党内の議論で「項目の提示」しかされていない点も忘れてはならないでしょう。自民党の憲法改正推進本部が党内に流した「4項目」のペーパーは、「条文イメージ」なるものが添えられているとはいえ、あくまでもそれは「たたき台」だと、そのペーパーは言うのです。つまり、厳密には、現状、自民党は「自民党としての改憲案」を正式に有していないことになるのです。

 こんな状態で、「今の臨時国会での自民党案の提示」などが首相周辺の政治家から漏れ聞こえ、またメディアもあたかも既定路線かのように伝える……この段階で、異常事態だと言わざるを得ません。

加憲にこだわるもう一つの意図

 しかしここまで準備不足であり、性急であり、内容さえ定まっていない状態でも、自民党は、いや、官邸側は今の臨時国会で「改憲案」を提示することを諦めてはいません。

「官邸サイドが諦めていない根拠」として、先に、会長職権による衆院憲法審査会の開催を挙げましたが、「官邸サイドが諦めていない根拠」は、「4項目」が誕生した経緯そのものからも読み取れるでしょう。なにせ、「4項目」は、党内の議論そっちのけで、安倍首相の発言に事後的に合わせる形で生まれたのです。そんな乱暴なことを「素案」の段階でやっているのですから、同じ横暴さを国会の憲法審査会に対して行ってもなんら不思議ではないでしょう。

 また、「24年草案」と「4項目」の差分をみても「官邸サイドが諦めていない」傾向が見て取れます。国防軍の創設や軍法会議の新設などかなり踏み込んだ内容であり具体的である24年草案とは違い、「4項目」は「憲法9条1項2項はそのままで9条の2として自衛隊を追加する」というもの。安倍首相は「『9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む』という考え方、これは国民的な議論に値するのだろうと思います」と発言していますが、ここでいう「国民的な議論」とはつまるところ、「改憲ではなく加憲」を年来の主張としている公明党への配慮にすぎません。「国防軍の創設や軍法会議の新設など、憲法を根底から書き換える案には公明党は乗ってこないだろう。しかし、自衛隊の追記であれば、加憲という公明党の主張とも矛盾せず、公明党も乗れるはずだ」という妥協の産物なのです。

 安倍首相および彼の周辺の人々は、憲法を「国の形をつくるもの」と表現します。憲法とは「国家権力に歯止めをかけるもの」というのが世界共通の常識であり、「国の形を作るもの」という彼らの憲法解釈そのものが間違っているのですが、いまはあえて、彼らの憲法認識に歩調をあわせましょう。しかしながら、彼らのやっていることをみると、「国の形」をつくる憲法を、彼らは、話し合いさえ放棄し、「通りやすそうなものを通す」という姑息な方法で作成しようとしているわけです。そんな手法で作られた憲法が日本という国家の形をつくるというのであれば、彼らが作りたい日本とは「姑息で乱暴な日本」ということになるのでしょう。

 ここまでくると、なぜ憲法を変えたいのかの意図さえよくわからなくなります。ただ単に「変えたいから変える」としか言っているようにしか見えないのです。改憲そのものが自己目的化しており、つまるところそれは、「護憲としかいわない連中を吊るし上げてやろう」という醜悪なイヤガラセにさえ見えてしまうのです。

 思想の左右、政治的陣営の如何に関わらず、普通なら、このような性急かつ内容のない議論に参加することは、はばかるはずです。こんな状態で、野党は憲法審査会の審議に応じられるはずもなく、審議を拒否するでしょう。しかしそうなれば、官邸サイドの人々は、「野党は反対ばかりする」「サヨクは護憲護憲と宗教のようだ」と言いつのるのでしょう。下村博文氏のように「議論しないのは職場放棄だ」と言ってのけ、内容もなく妥協の産物でしかない姑息なものを、姑息な手段で押し通し「憲法改正」という結果を手に入れることになるのでしょう。

 改めて問います。

 こんな嫌がらせのような改憲作業を、許しておいてよいのでしょうか?

「変えたという」結果だけを欲しがる幼稚で性急な改憲作業を、許容してよいのでしょうか?

 いや、もっといえば……日本という国は、こんな乱暴で幼稚な手法で生まれた憲法を、「新しい憲法」として受け入れるような国なのでしょうか?

 臨時国会、残すところあとわずか。これからさらに厳しい目を、改憲議論に注ぎ続けていかなければなりません。

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菅野完

著述家。1974年、奈良県生まれ。一般企業のサラリーマンとして勤務するかたわら執筆活動を開始。退職後の2015年より主に政治分野の記事を雑誌やオンラインメディアに提供する活動を本格化させる。同年2月から扶桑社系webメディア「ハーバービジネスオンライン」にて連載「草の根保守の蠢動」をスタート。同連載をまとめた『日本会議の研究』(扶桑社新書)は16万部を超えるベストセラーとなり、「日本会議ブーム」を巻き起こす。他の著書に『保守の本分』(noiehoie名義、扶桑社新書)、『踊ってはいけない国、踊り続けるために』(共著、河出書房新社)、最新刊は『日本会議をめぐる四つの対話』(K&Kプレス)。

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