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改憲ってほんとにするの?

2019.05.03 公開 ポスト

憲法改正問題はこれから

【改元特集】「改憲4項目」とはそもそも何か。その中身とポイントは〔再掲〕伊藤真

与党の強引な運営に野党が反発して見送られてきた憲法審査会が、先の4月25日に今国会で初めて開催。今後も憲法審査会に提出されるか否かで注目される自民党の「改憲4項目」ですが、その個々の中身とポイントは? まだ“たたき台”とも言われつつ、その通りに変更したら何が変わるのか、このおめでたい連休中にあらためて。

* * *

 

自民党が示した4つの改憲案とそのポイントを、項目ごとに考えてみよう。

自衛隊観閲式に出席した安倍首相(2018年10月14日、陸上自衛隊朝霞訓練場、写真提供:共同通信社)。この時の訓示で、災害派遣やPKO派遣部隊の訓練に励む自衛隊を讃えつつ「全ての自衛隊員が強い誇りを持って任務を全うできる環境を整えるのは今を生きる政治家の責任。その責任をしっかり果していく」と述べ、自衛隊の憲法明記に意欲を示した。

(1)自衛隊の明記

現行憲法は、9条1項で「戦争の放棄」を、2項で「戦力の不保持、交戦権の否認」を、各々定める。

『新装版 日本国憲法』講談社学術文庫

これに対して自民党は、(1)自衛隊を合憲とする憲法学者が少ないこと、(2)中学教科書の大半が自衛隊の違憲論に触れていること、(3)自衛隊を違憲と主張する政党があることを挙げ、違憲論を解消すべきだとし、9条2項を維持した上で、9条の2として自衛隊の保持を明記し(第1項)、自衛隊の行動を統制に服させる(第2項)案を、条文イメージ(たたき台素案)として 示している。

条文イメージ「憲法改正に関する議論の状況について」自民党HPより

 

現状の自衛隊を、実体に即して「国防軍」(平成24年の自民党改憲案)と呼ばず「自衛隊」と呼び、かつ現状の9条に手を加えずに9条の2という新条文を追加する形をとろうとするのは、「戦争をする“軍”ではありません。9条にも手を付けません。憲法で持つことが禁じられている“戦力”にもなりません。 安心してください」として、国民に「何も変わらない」と思わせるためだろう。

しかし、これでは改憲の理由として自民党が挙げている「自衛隊違憲論」 は解消されない。違憲論は、自衛隊の実質が軍隊であり、それが2項の禁止する「戦力」に当たるという主張である。2項を削除しない限り、自衛隊が戦力か否かの論議はそのまま残るからである。

また、これまでのプロセスに蓋をするような 議論の解消は危険である。立場の違う人々が本質的な議論を行うことで、より高い次元での解決策や発想が見つかるのが議論の効用であり、民主主義の根幹である。ましてや、軍事力は人の殺戮に関わり、軽率な行使は重大事態を招く。むしろ多くの議論が必要な局面である。

さらに、自衛隊の憲法明記は、「何も変わらない」どころか、日本を全く別の国にさせる。第1に、軍事力行使に対して自衛隊違憲論がかけてきた立憲的な歯止めがはずされてしまう。第2に、9条の2によって従来の9条は自衛隊に及ばなくなったと政府が主張することも可能になる。法の世界では、後法(9条の2)が前法(9条1項、2項)より優先されるのは当然で、加憲した後法によって9条は書き換えられたのと同じ効果を持つからである。 第3に、改憲の国民投票で自衛隊に国民の過半数の支持が示されれば、政府はその期待に応えるべく、自衛隊の活動範囲を広げ、防衛費を増やし、軍需産業を育成し、武器輸出を推進し、自衛官の募集を強化し、国防意識を教育現場で強制するなどして、太平洋戦争時のように 「国防国家」へと進みやすくなる。第4に、「国防」という価値を憲法が認めることにより、徴兵制など、国防目的の人権制約ができるようになるだろう。

 

 

(2)緊急事態条項

現行憲法は、国の緊急時への対応として「参議院の緊急集会」のみを設け、地震等の大災害には「災害対策基本法」「大規模地震対策特別措置法」「原子力災害対策特別措置法」「災害救助法」など、また有事には「国民保護法」などの個別の法律で対処する。

これに対して自民党は、大災害で国会が機能しなくなった事態に備え、(1)行政権限を一時的に強化し、緊急政令で法律同様のルールを定めること、(2)選挙を行わずに議員の任期を延長できることを憲法で定めるべきだとする。

緊急政令に似た仕組みとして、明治憲法下では天皇が発する緊急勅令があった。しかし日本国憲法は、天皇主権をやめて国民主権に切り換えたので、緊急事態には国会が対応することになった。すなわち、国会開会中はその国会で対応し、閉会中は臨時会を招集し、衆議院が解散中ならば、参議院の緊急集会を開いて災害に対応する。この仕組みの下でも、緊急事態には、先に見たような個別の法制が整備されているから、緊急政令を憲法化しないと困るようなことはない。

災害対策の基本は「準備していないことはできない」である。東日本大震災での対応のまずさも、法律はほぼ整備済で、実際には法律を運用する訓練をしていなかっただけである。

任期延長はどうか。国会議員の任期は、憲法で衆議院4年(45条)、参議院6年(46条)である。この定めには、任期が満了すれば新たな選挙を行って議員を選ぶ(43条)ことを国民に保障する意味がある。その権利を一時停止するのが任期延長案だから、それは選挙権や国民主権と緊張関係にある。また、任期延長の判断には、手続的にも現議員が保身を図る「お手盛り」の弊害があり、3分の2以上の特別多数決を以てしてもこれを解消することはできない。さらに、与党が政権維持だけを目的に延長を継続するおそれもある。むしろ、災害により投票すら行えないならば、その地域の繰り延べ投票を行うことで十分に対処は可能である。

 

 

(3)合区の解消

現行憲法は、法の下の平等に基づき投票価値の平等を保障する(14条1項、44条)。そして、両議院の議員の選挙については法律で定めるとする(47条)。これを受けて公職選挙法は、選挙区を基本的に都道府県単位で定めている。しかし、都道府県単位が原因で投票価値の格差が著しく、最高裁から国会に、制度自体の抜本的改革が求められていた。そこで公選法が改正され、2016年 参院選から鳥取と島根、徳島と高知の各選挙区が合区とされた。

これに対して自民党は、合区がその選挙区に住む有権者の投票の機会を奪うとして、参議院議員が「広域の地方公共団体」、すなわち各都道府県から、少なくとも一人を選出できると憲法に明記し、合区を禁止すべきだとする。

しかし、第1に、都道府県単位の選挙区制を憲法に明記すれば、投票価値の平等は改善される余地がなくなる。第2に、国会議員は「全国民の代表」(43条1項)であり、都道府県の代表とするのはそれと矛盾する。第3に、参議院だけが都道府県の代表だとするならば、衆議院と違う性格の議会にしてよいか、 ひいては二院制のあり方そのものも問題になる。第4に、仮に ブロック制と比例代表制とを組み合わせ、都道府県にこだわらない選挙区にすれば、合区は解消でき、これにより投票価値の平等の問題も同時に解決できる。

ただ、自民党の本音は他にあるともいわれる。東京新聞(18年2月16日夕刊)によれば、「合区を巡り、改憲で解消すると主張する政党は自民党以外にな」く、また「合区解消は、改憲四項目のうち、異論が最も少ないテーマ。地方を金城湯池としてきた自民党には、人口減少で地方の議員定数が一方的に減る現状への危機感があった。」とされる。さらに、日本経済新聞(同20日社説)「合区解消案は利己的すぎる」によれば、「もしも、自民党案が実現したら、同党はかなりの確率で議席増が望める。一党支配の復活に向けた党利党略が透けて見える。同じ与党の公明党でさえ、内容を疑問視している。」とし、合区解消への改憲を、「まるで自民党の自民党による自民党のための憲法改正である。」とすら指摘する。

合区解消の改憲案は、不要かつ有害である。

 

(4)教育無償化の明記

高等教育の無償化につき、憲法明記は不要である。もともと、教育を受ける権利(26条1項)には生存権的側面、すなわち、国民が教育をなるべく安く、そして均等に受けるための条件整備を、国に求める権利が保障されている。その具体化立法を法律で定めればよいだけである。

その際のネックは財源の目処であり、憲法への明記ではない。むしろ、実現可能性の乏しい人権を憲法に加えれば、人権全体の保障度を下げ、有害ですらある。そもそもこの案は、弱者に配慮したように見せかけた、自衛隊の明記等とセットの「アメとムチ」、もっといえば、実現可能性が乏しい点で「絵に描いたアメ」であり、 国民が「甘み」を感じることはない。そんなことに腐心するのは止めて、給付型奨学金の充実など、具体的な政策に知恵を出す誠実さがほしい。

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伊藤真

1958年生まれ。東京大学法学部卒業。弁護士。伊藤塾塾長。司法試験、法科大学院、公務員試験、法律資格試験の受験指導を幅広く展開。高度で親身な講義と高い合格率により「カリスマ塾長」として熱烈な支持を集める。「憲法の伝道師」としても精力的に講演・執筆活動を続けている。『伊藤真の憲法入門』(日本評論社)、『続ける力』『なりたくない人のための裁判員入門』『説得力ある伝え方』(いずれも幻冬舎新書)、『超凡思考』(岩瀬大輔氏との共著、幻冬舎文庫)など著書多数。

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