「(本が読まれなくなったといわれるいま)辻山さんは本を読んでいない人に向けて、何かやっていることはありますか?」と聞かれることがあります。自分では毎日店を開けて、その日入ってきた本の紹介をコツコツ行うことが、回り回って本のファンを増やすことにも繋がっていると思うのでそのようにお話しすると、「でもそれは〈すでに読んでいる人〉に向けてのことですよね。普段本を読まない人に向けてやっていることをお聞きしたいのですが……」となおも聞かれます。
わたしは〈読まない大人〉に対して、「もっと本を読みましょう」と語りかけたことはほとんどありません(もちろんそうなればよいと思っていますが)。本は人に言われて読むものではなく、いま本を読んでいない大人が、誰かに言われて読むようになることはあまりないと思っているからです。それよりは直接はそう言わなくても、本と楽しそうに関わっていれば、「何か面白そうだ」とその魅力に気がつく人も増えてくるのではないかと思います。
読んでもらうために、簡単に読みやすくした本を見かけたことのある人は多いでしょう。名著を漫画で読み、10分でビジネス理論をわかることは、本を読みなれない人にとってはいいかもしれませんが、本の敷居をわざわざ下げて「こんなに簡単ですよ」とへりくだることが増えてくれば、何か失うものもあるように思います。
山に親しむために、ハイキングコースからはじめる人は多いと思いますが、ある程度山の魅力をわかってくれば、自然と意識はその先にある高峰に向かうようになります。そのときにハイキングコースしかない世界では、その人は山に登ることを、その先が存在しないつまらないもののように、感じるかもしれません。
本の世界も同じであり、最初は読みやすい本からはじめてもよいのですが、「いまはその意味はわからないが、何か面白そうな予感がする本」が本屋になければ、その店に入ったときに平板で奥行きのない印象を与えてしまい、その人がそこから先に進むことは少なくなると思います。
町のなかに、何かわからないものを置いている場所があるのは、大事なことです。Titleは本当に知識のある人にとってみれば物足りない店かもしれませんが、その手前にいる多くの人たちにとっては難しいところもある、登りがいのある山にしたいと考えています。
今回のおすすめ本

山本さんには「本のなかに住んでいるひと」という印象がある。息をするように本を買い、ニコニコとほほえみながら、ゆっくりページを開いていく。ジャンルを超えて本を愛する、そのエッセンスが楽しめる一冊。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2026年1月10日(土)~ 2026年2月2日(月) Title2階ギャラリー
本屋Titleは、2026年1月10日に10周年を迎えました。同日より2階のギャラリーでは、それを記念した展示「本のある風景」を開催。店にゆかりのある十名の作家に「本のある風景」という言葉から連想する作品を描いていただきました。それぞれの個性が表れた作品は販売も行います。本のある空間で、様々に描かれた〈本〉をご堪能ください。
【『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売中です】
本屋Titleは2026年1月10日で10周年を迎えました。この度10年の記録をまとめたアニバーサリーブック『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』が発売になりました。
各年ごとのエッセイに、展示やイベント、店で起こった出来事を詳細にまとめた年表、10年分の「毎日のほん」から1000冊を収録した保存版。
Titleゆかりの方々による寄稿や作品、店主夫妻へのインタビューも。Titleのみでの販売となります。ぜひこの機会に店までお越しください。
■書誌情報
『本屋Title 10th Anniversary Book 転がる本屋に苔は生えない』
Title=編 / 発行・発売 株式会社タイトル企画
256頁 /A5変形判ソフトカバー/ 2026年1月10日発売 / 800部限定 1,980円(税込)
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】NEW!!
養生としての〈わたし〉語り|〈わたし〉になるための読書(8)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
今回は、話すこと、そしてそれを通じて自分自身を考えさせられる3冊の本を紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
本屋の時間の記事をもっと読む
本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

本屋Title10周年記念展「本のある風景」











