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裁判官の人情お言葉集

2018.08.30 更新 ツイート

3人を殺した凶悪殺人犯へ、死刑判決とともに裁判官が伝えたこと長嶺超輝

「困ったときには私に会いに来てもいい。そのときは裁判官として、できるだけのことをします」――。

 情をまじえず、客観的な証拠にもとづいて判決をくだすのが裁判官の仕事。どこか冷徹なイメージを感じている方も多いでしょう。しかし彼らも人の子。冒頭のような人情味あふれる言葉を、被告人にかけることもあるのです。

裁判官の人情お言葉集』は、そんな裁判官の心あたたまる発言とエピソードを集めた「涙のお言葉集」。その中から一部をご紹介します。

iStock.com/BCFC

あなたの中に温かな感情が残っているのなら、
それを呼び起こして、
遺族の方々の悲嘆、苦痛の万分の一でも
感じるようになってほしいと思います。

マンションに侵入し、見ず知らずの姉妹を殺害し、金を奪い、部屋に火を放ったとして、強盗殺人、現住建造物放火の罪に問われた被告人に対して、死刑判決を言いわたして。(大阪地裁・並木正男裁判長、当時54歳――2006年12月13日)

少年院出所後に2度目の殺人

 被告人は小学校時代に父を亡くしており、やがて、同級生からいじめを受けて不登校に。16歳のころには、わが子のためにパートで働きづめだった母親を金属バットで撲殺し、少年院に送られています。

 その凶行の動機については「借金の使い道を教えてくれなかったから」「父親のことを愚痴ったから」「自分の交際相手に勝手に無言電話をかけたから」など、肉親を手にかける理由としてはまったく釣り合わない内容が語られました。

 父親も母親も家におらず、学校でも居場所を失い、世の中に反発したい彼の気持ちが、母親の殺害という形で現れてしまったのでしょうか。少年が成長する過程で得られなかった愛情を補って、前向きに生きる意欲を育むのが、少年院の役割といえます。

 しかし、はたして「愛情の不足」だけで原因を説明できるような犯行なのでしょうか。現在では少年法が改正され、16歳以上の少年が犯罪で人を死なせた場合、原則として通常の刑事裁判にかけられますが、もし、刑務所に送られていれば、彼は立ち直れたのでしょうか。

 母親を殺害する最中に、彼はなんと「性的な快感」を覚えていたとも話しているんです。その供述どおり、快感を得たいがための犯行とすれば、「とにかく母親のせい」として並べられた数々の動機は、もしかしたら単なるカモフラージュに過ぎなかったのかもしれません。

 ボウリングのピンを10本すべて倒すことに成功したら嬉しかったり、モノに八つ当たりしてスッキリする人もいるように(行儀は悪いですが)、私たちは破壊行動から快感を得る場合があります。他方で、新しいモノを創る快感というのもあります。ただ、著者の個人的な感覚で言わせてもらうと、創る快感は壊す快感と根っこが同じような気もしますね。モノを創るということは、そのモノが存在しなかった状況をあえて壊す、という意味合いも含まれますから。

 殺すことが性的な快感に結びつくとは、いったいどういうことでしょう。たとえば、憧れの女子に向かって「ブス! ブス!」と心にもないことを言ってみたり、彼女が給食の牛乳を飲んでいるときに、ふざけて笑わせようとするとか、そんな男子のサガである「ちょっかい」が、彼においては恐ろしく歪んだ形で発現していたのでしょうか。それにしても、実の母親に向けられる性的な衝動というのは……少なくとも常識では汲み取りがたいところです。

「最近、僕の記事が出てないけど……」

 少年院での心理テストによると、彼は対人関係を築くのが困難な「発達障害」と指摘されていたそうです。発達障害とは、脳など身体の働きに生まれつき支障があることを意味します。そういえば、性的な衝動と破壊の衝動は、脳の中でも近いところで作用するらしいと聞きますし、もしかしたら、彼のなかでは性的衝動と破壊衝動が機能的に区別されておらず、ゴチャ混ぜでうごめいていたのかもしれません。

 となると、「教育」の場である少年院で手を尽くせる範疇を超えており、むしろ精神医学の領域における「治療」の対象にすべきだったのではないか、という異論もありえます。

 実の母親を殺害してから5年後、今回のような見ず知らずの女性ふたりを殺害した被告人自身に、最大の責任が問われるべきことは確かですが、その少年時代に、彼を医療少年院でなく、通常の少年院に送れば足りると判断した家庭裁判所の裁判官にも、責任の一端があったことは決して否定できないように思います。

「最近は新聞に僕の記事が出てないけど、世間はどう思っているのだろうか」と話すなど、その取り返しの付かない犯行を、まるで自己の存在を確認する営みだと意味づけているようにも見える被告人。そんな自分本位な心にも、並木裁判長の語りかけたお言葉が染み入り、大きな位置を占め、その命が尽きる日まで少しでもその影響が残っていくことを祈るばかりです。

◇ ◇ ◇

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長嶺超輝

1975年、長崎県生まれ。九州大学法学部を卒業後、弁護士を目指し、塾講師・家庭教師をしながら司法試験を受験。7回の不合格を重ねて懲り、ライターを目指して上京。初の著書『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)が30万部を超えるベストセラーになる。

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