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裁判官の人情お言葉集

2018.08.27 更新 ツイート

「公園で野宿せよ!」アメリカで本当にあった驚きの判決とは長嶺超輝

「困ったときには私に会いに来てもいい。そのときは裁判官として、できるだけのことをします」――。

 情をまじえず、客観的な証拠にもとづいて判決をくだすのが裁判官の仕事。どこか冷徹なイメージを感じている方も多いでしょう。しかし彼らも人の子。冒頭のような人情味あふれる言葉を、被告人にかけることもあるのです。

裁判官の人情お言葉集』は、そんな裁判官の心あたたまる発言とエピソードを集めた「涙のお言葉集」。その中から一部をご紹介します。

iStock.com/BrianAJackson

暗闇のなかで、コヨーテの鳴き声を聞くがいい。
アライグマの姿におののくがいい。
被告人には、震えながら死んだ子猫たちの不遇を
千分の一でも感じとってほしい。

初冬の公園に10匹以上の子猫を、2度にわたって捨てた被告人に対して、懲役90日の判決を言いわたしたうえで、「子猫を捨てた公園にて、食事も暖もとらずに一晩を過ごすなら刑を減らす」という条件を付けて。(アメリカ・オハイオ州ペインズビル市裁判所・マイケル・チコネッティ裁判官、当時54歳――2005年11月17日)

世界に名だたる「チコネッティ判決」

 かつて、フジテレビの人気番組「トリビアの泉」でも採り上げられたほど、世界的にも広く知られる「ひとこと裁判官」。その名はチコネッティ。

「法廷のトリックスター」「軽犯罪の料理人」との異名を持つ……というより、私が勝手にそう呼びたくなる男、チコネッティ。姓からしてイタリア系の方なのでしょうが、ラテンの魂が息づく大胆かつ繊細な判決を生み出してくださいます。大学では政治学を専攻、29歳のときに法学博士に。いったん弁護士として稼働したあと、43歳で任官しています。かなり手堅くキャリアを重ねておられる方ですが、なかなかどうして、やってくださいます。

 チコネッティ判決には「同害報復」と「はずかしめ」が特徴的に含まれています。「同害報復」とは、しでかした結果が自分にも返ってくるようなペナルティを科す、いわゆる「目には目を、歯には歯を」ってやつです。ハムラビ法典ですね。大昔の決まりごとなので野蛮な印象を抱きがちですが、仕返しは、せめて被害と同じレベルまでに留めておくべきだという、それなりに先進的な発想に基づく掟なんです。

 また、「はずかしめ」は、地域社会から許しをもらうため、ペナルティを受けている様子が一般の住人から見えやすい形をとるという意味です。

 ・飼い犬を射殺 → 安全パトロール犬のコスプレをして、地元の小学校を訪れ、交通安全とドラッグの危険性に関して講習をすれば、刑を減らそう。

 ・警察官をブタと侮辱 → ブタのそばで「ブタは警察官ではありません」と街頭アピールすれば、刑を減らそう。

 ・アダルトビデオを万引きした少年 → 目隠しを着用し、「邪悪なものを見ません」と書いたプラカードを下げて店の前に立ち続け、かつ、高校を卒業すれば、刑を免除しよう。

 今回ご紹介したチコネッティ判決では、飼い猫を公園に捨てた被告人に対し、その公園に一晩いることができれば、刑を軽くするとしています。

 冬は昼夜の気温差が激しいオハイオ州。平均気温は11月で5度、12月は0度といいますから、青森とほぼ同じぐらいの寒さで、その季節に野外で夜を明かすというのは過酷ですね。さらに判決では野生のコヨーテやアライグマもいると触れられています。日本では「あらいぐまラスカル」の可愛らしいイメージが強いですが、実際のアライグマは気性のあらい動物でして、アメリカ大陸には狂犬病を持っているのもいますから、怖いといえば怖いわけです。

 それでも「受刑者」は、非常時に公園側と連絡を取れる態勢にあったり、水を飲むことは許されていたりと、「執行」中の安全策はバッチリとられているようです。

 公園で一夜を明かしても、償いはまだ終わりません。この後も、公園への損害賠償金の支払いや、いかなる動物も飼ってはならない義務が課され続けるんですね。その義務を守らなけれれば、減刑の恩典が取り消されて刑務所行きです。

日本にも「クリエイティブな司法」を

 アメリカの「社会奉仕命令」は、刑罰の一種である場合と、執行猶予の条件である場合の、2種類があります。かりに刑罰の一種ならば、罪刑法定主義という要請がはたらき、どんな行為をしたらどんな処分がくだる可能性があるか、法律で予告しておかねばなりません。よって、法律に従うべき裁判官には、社会奉仕命令を創作する自由はないという結論へ傾きます。

 ただ、各種報道や判決文を照らし合わせて判断するに、チコネッティ判決の性格は、執行猶予の条件と考えるのが相当です。そうであれば、それぞれの裁判官の裁量で、どんな条件を付けるか決定できる可能性はありますね。「クリエイティブな司法」というのはワクワクします。

 たとえば日本には「人のフリ見て我がフリ直せ」ということわざがあるので、日本の裁判所も被告人に対し、同様の罪を犯した他人の裁判を、何度か傍聴しに行く条件で、執行猶予を付けてみるのはいかがでしょう。

◇ ◇ ◇

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長嶺超輝

1975年、長崎県生まれ。九州大学法学部を卒業後、弁護士を目指し、塾講師・家庭教師をしながら司法試験を受験。7回の不合格を重ねて懲り、ライターを目指して上京。初の著書『裁判官の爆笑お言葉集』(幻冬舎新書)が30万部を超えるベストセラーになる。

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