

最近は忙しくなりその回数は減りましたが、以前より暇が出来るとよく他の書店に行き、本を一冊買って帰りました。書店チェーンに勤めていたころ、先輩のHさんが「他の書店で本を買わない奴は駄目だ」とよく断言していましたが、その教えが身に染みついているのかもしれません。
行く書店に、こだわりはありません。ショッピングセンター内の大型書店、国道沿いの複合型書店、雑誌でよく見かける個人経営の本屋など、大体どこの店でも面白いところの一つや二つは、すぐに見つかります。
はじめていく店では、入ってすぐ目のつくところに、何を並べているかを確認します。その場所に並べている本は、その店が大切にしている本であることが多いので、そこを見ることでどんな店かがわかります。また、長く営業している店では、お客さんの嗜好が次第に店の本に反映されてくるので、「ああ、ここは年配の人が多いんだな」など、その店の日常が伝わってきます。
店の奥に入りましょう。その内容や著者別など、ある意識を持って本が並べられている店の本棚は、見ていて気持ちがよいものです。知らなかった出版社の本が棚にあるのを発見し、自分の店に在庫がない話題の本が、目立つように置かれているのは悔しいことです。しかし同時に、書店の仕事をしている人の確かな存在がそこに感じられて、嬉しくもなります。そのような店で一冊買って帰るのは、「見せて頂きました」という気持ちからですが、まれに「何も見せてもらえなかった」という場合もあり、そんな時は何となく店を出てしまうこともあります……。
どんな仕事でもそうだと思いますが、その人の仕事には、その人のそれまでの経験が現れます。その経験には、その人がおこなったことはもちろん、その人が見てきたことも含まれます。店をたくさん見ることは、その人の仕事のストックを増やすことであり、ふとした時に「あそこの店はこうディスプレイしていたな」と、自分の仕事にかえってくるものです。
ちなみに、Hさんに発言の真意を聞いたことはありません。色んなことを含めての「駄目だ」なのだろうと、思っています。
今回のおすすめ本

内田洋子『モンテレッジォ 小さな村の旅する本屋の物語』(方丈社)
本屋の起こりは、本を担ぎ、それを求める人のところまで持っていくという行商から始まった。食べものと同じように、本は切実に求められる〈必需品〉でもある。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年5月17日(土)~ 2025年6月2日(月)Title2階ギャラリー
春風亭一之輔・得地直美『こっせつくん』出版記念、得地直美原画展
春風亭一之輔さんと得地直美さんがタッグを組んだ絵本、『こっせつくん』がテキサスブックセラーズから刊行されます。イラストレーターの得地さんにとっては、初のカラー絵本。出版を記念してTitleのギャラリーにて、絵本の原画やテストピースなどを展示いたします。
『こっせつくん』は、この原画展がどこよりも早い先行販売。春風亭一之輔さんと得地直美さん、お二人のサインが入った本もご用意します(サイン本販売はご用意した本がなくなり次第終了)。
◯2025年6月6日(金)~ 2025年6月24日(火)Title2階ギャラリー
きみまでのおさらい
井上奈奈『うさぎまでのおさらい』刊行記念展
2018年ドイツにて開催された「世界で最も美しい本コンクール」にて銀賞を受賞し、話題となった絵本『くままでのおさらい』。そのスピンオフ作品として制作された『うさぎまでのおさらい』が、このたび装いもあらたにビーナイスより刊行になります。今回の作品展では、この『うさぎまでのおさらい』『くままでのおさらい』とともに、2024年に刊行になったエッセイ集『絵本を建てる』の作品も展示します。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【書評】
『生きるための読書』津野海太郎(新潮社)ーーー現役編集者としての嗅覚[評]辻山良雄
(新潮社Web)
◯【お知らせ】NEW!!
「はたらき」を回復する /〈わたし〉になるための読書(5)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第5回。人の流動性が高まる春、さまざまな仕事とその周辺についての3冊をご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。