
前回、私の漫画原作のドラマの撮影見学をさせてもらった。
つまり目的は撮影見学なのだが、まずは目の前に芸能人がいることだけで頭いっぱいになってしまうことは無理からぬことである。
私は去年までテレビをほとんど見てなかったので、芸能人には本当に疎い。
だからといってユーチューバーに詳しいわけでもなくゆっくり霊夢と魔理沙が通じなかった時点で話題が詰むタイプである。
しかし主演の方はドラマだけでなく非常に多量のCMにも出ている人である、YouTubeの間に入るCMで高確率で出くわすのだ。
1日10時間以上YouTubeを利用しているのにプレミアム会員じゃないところがいかにもQOLが低い奴の人生、という感じだが、おかげで私が同じゆっくりクトゥルフ神話TRPGを100回ぐらい再生している間に85回は会えており、もはや「毎日会っていた」と言っても過言でないのだ。
私が辻仁成だったら会った瞬間「やっと会えたね」と言って取り押さえられていただろう、仁成じゃなくて本当に良かった。
そんな人と右下に「skip」がない状態で会ったことが信じられないし、なんならそれ以来YouTubeで出会ってもskipが押せない病にかかっているが、ドラマの撮影見学も今思い起こせばすごい体験だったと思う。
私はずっと二次創作をするほうの立場だったし、なんなら今でもそっち側である。
二次創作とは、何らかの原作を元に何かしらの創作をする行為である、原作そのままのファンアートの場合もあるが、ファンが原作には書かれていない、もしくは落丁している「この二人はつきあっている」などの斬新な独自解釈を交えて作成されたものもある。
その性質から原作者が二次創作をどう思っているかはまちまちなのだが、好意でやっていることには違いないので大体は黙認である。
ちなみに私は嬉しい派だ。「あなたのキャラが好きでリョナ絵を描きました小腸の色に18時間かけた」と見せられたらどうなるかはわからないが、幸か不幸かそこまで熱心なファンはいないし、見ての通り二次創作自体そんなにしてもらえる作家ではないので、たまにしてもらえるととても嬉しい。
だが、嬉しい反面「照れる」というのも確かだ。
照れるとは「恐縮」であり、それが高まりすぎると「申し訳ない」そして最終的に「殺せ」になってくる。
原作を元に再構築して新しい作品にしているという意味では、ドラマもそれと同じである。
つまり撮影見学というのは目の前で自作品の壮大すぎる二次創作が展開されているようなものであり、その重大性を理解していなかった気もする。
自分的には本当に遠巻きで何だったらアイマスクとヘッドフォン装着で見せてくれるぐらいでよかったのだが、現場の人は非常に気を使ってくださり、撮影されているそのままが見られる画面、そして台詞がはっきり聞こえるイヤフォンを持たせてくれた。
非常にありがたいのだが、状態的には時計仕掛けのオレンジのルドヴィコ療法を受けさせられているのと同じだ。
しかも原作が大幅に改変され「スコペッソイ神降臨の刻である……」など、自分が描いた覚えのないセリフが連呼されているならまだいいのだが、幸いなのか割と私が描いたままのシーンと台詞が展開されている。
私の作品を元に、これだけ多くの人が携わり新しいものを作り出そうとしてくれているというのは非常に感動的なことである。ただその感動に耐えうる人生を送ってこなかったこちらが悪い。
しかし、ドラマ撮影側からすれば、豚の生産者、もしくは豚本人が腕組み凝視している前でトンカツを作らなければいけないようなものであり、そっちの方がやりづらかったと思う。
今回初めてドラマの撮影というものをみたが、当然漫画作りとは全然違う。
どうやら同じシーンを別アングルから何回も撮ってそれを編集して一つのシーンにしているらしい。
漫画で同じコマを真正面と後頭部側両方描いて片方は使わないかもしれないと言われたら確実にキレる。
しかし、ドラマ制作側からすれば話作りから作画コマ割りまで全部ひとりでやっている漫画家に比べれば全然楽だそうである。
確かにそうかもしれないが、逆に漫画は「やろうと思えば一人でできる」仕事であり、それが最も楽なところだと捉えていたりもする。
ドラマを一人でやるのは無理である。不可能ではないだろうが、主演俺、ヒロイン俺、の時点でいいドラマになるとは言い難い。
自分にはできないことを、できる人たちが集まってくれるというのは幸運なことである。
ぜひ見て欲しいと思うし、私も当日までにリドリックマシンを用意して肉眼で見たいと思う。
カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~

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