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70歳、はじめての男独り暮らし

2018.01.18 公開 ツイート

【新春特別企画】70歳、はじめての同級生対談【前編】

死に方はもう決めている 西田輝夫

死に方はもう決めている

 奥さまが素晴らしいよね本当に。最後手紙を書いてくれたんでしょ。「あなたにはまだ使命がある」って。たぶん今みたいな心境になるのを予期して「そんなことじゃ駄目よ」というので、ちゃんと書いたんだよね。

西田 実は妻の死後に『桜輝(おうき)』という追悼集を作ったんだよ。その最後に50pほど僕が書いた文章が回り回って、今回の本を書きませんかということになったんだけど。そこには妻の最後の手紙を全部載せたのね。その中に「みんながあなたをサポートしようとしてくれるから、その人たちを頼りなさい」とか「まだ使命があります」とか書いてあった。

 西田さんのご長男とかをちゃんと手配をしておいてくださったとかね。すごいね。

西田 すごい。面白かったのは、僕が贈ったアクセサリーとかを全部まとめていて、それを僕の長男の嫁に渡して。で、前のご主人が贈ったアクセサリーは全部、自分の実の娘に渡して。もうそういうアクセサリーも全部、出所によってきちんと分けて整理していた。

 もう一つあって、さっきちょっと話した、死に方ね。がんってなぜ死ぬのかがしみじみわかってね。がんが見つかってまず3カ月入院したんだよ。もう入りっぱなしで、抗がん剤がよく効いていますからと言われて、それから月1回、1週間入院して、3週間帰ってきてというのを6カ月間続けた。マーカーとか、そういう数字上はよくなっている。

 でも「もうこれで終わりましょう」と言って3月に行ったら、肺と肝臓に転移していたから「もう一回、その半年のコースをしましょう」と言われて。そうしたら、もう既に3種類の抗がん剤を使っているから、次は、4番目のを使いますと。妻は「3つ使って効かないのを、4つ目の薬を使って効くわけないでしょ」と言ってね。

 それで、残りは、病院に縛られた人生をするよりは、もう無治療でいこうと。

 そうすると、おかしなもので元気になるんだ。薬はまぁきついでしょう? もう普通の生活はできないんですよ。家に帰ってきてももう体がだるくて、少し元気になってやっと洗濯やらを私がしようかな、となっても、次の入院が来る。だから、そんなことをあと半年繰り返したって、もう何にもならないと。それで、もう治療を全部やめて、「もう家に帰ります」と言って帰ってきた。

 それから半年間は、函館の五稜郭の桜を見たいと言ったら連れていって。もう色々なところに連れていってやってね。だから最後に苦しんだのは、本当に最後のふた月だけ。それも、ひと月は家で、最後ひと月はさすがに入院して。入院はひと月だけなんですよ。

 この間に結構、家の中の片付けを全部して。ポーチに通帳と印鑑とキャッシュカードと、一つ一つ銀行ごとに分けて、全部きちんと整理してくれていた。

 すごいよね。

西田 それだけのことをする人生の時間が逆にあったわけだね。あれを、たとえ半年でも命を延ばしたいと思って治療を続けていたら、要するに質の低い人生が、半年の代わりに1年になったかもしれないけど、何もそういうことはできなかったかもしれない。そうすると、今度、自分が自分の死を考えたときに、どちらを選択するかと言われたらね。

 皮肉なことに、最近、僕の弟が死んだのよ。循環器の医者のくせに心筋梗塞で、3日で逝った。危篤と言われて僕が山口から行ったら、もう意識がなくて。次の日にもう息を引き取って。本人は死ぬ気が全くないから、本当に何も残さないというか、メッセージを残さずにぽーん、と逝ってしまった。

 でも考えてみたら、あとが大変だけど、本人はラッキーだよね、面倒くさくない。

 この1年、2年の間に、そういう、手紙を書いたりする時間がある死に方と、もう瞬間的にぽーんと突然死で逝く死に方と、二つ、身内で経験したでしょ。だから、自分として死に方はどっちを選ぶべきなのかなというのは、もう決めていますね。

 

  * * *

 

趣味について、生き方について…話はまだまだ尽きません。
後編は1月25日(木)公開予定です。

関連書籍

西田輝夫『70歳、はじめての男独り暮らし おまけ人生も、また楽し』

定年後、癌で逝った妻。 淋しい、そして何ひとつできない家事……。 人生100年時代の、男の生き方がここにある。 抱腹絶倒、もらい泣き!? 「このまま私はボケるのか?」定年後の独り暮らしを描く、笑えて泣ける珠玉のエッセイ! 古希(70歳)を迎えた元大学教授が、愛妻を癌で亡くした。悲しみを癒す間もないままひとりぼっちの生活が始まるが、料理も洗濯も掃除も、すべてが初めてで悪戦苦闘。さらに孤独にも苦しめられるが、男はめげずに生き抜く方法を懸命に探す。「格好よく、愉しく生きるのよ」妻の遺言を胸に抱いて――。 <目次> はじめに 第一章 家事に殺される!? 〜オトコ、はじめての家事〜 第二章 男やもめが生きぬくための7つのルール 第三章 妻を亡くして 〜オトコ心の変化〜 第四章 妻がくれたもの 〜大きな不幸の先に大きな幸せが待つ〜 おわりに

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70歳、はじめての男独り暮らし

定年後、癌で妻を亡くした元・大学教授が語る、人生100年時代の男の生き方。

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西田輝夫 医学博士

1947年生まれ、大阪府出身。1971年大阪大学医学部卒業後、米国ボストンのスケペンス眼科研究所留学などを経て、1993年、山口大学医学部眼科学教室教授に就任。2001年米国角膜学会にて、日本人としては19年ぶり2人目となるカストロヴィエホ・メダル受賞する。2010年からは山口大学理事・副学長を務めた。2013年に退任後、旅行をゆっくりと楽しもうとした矢先、長年連れ添った妻が子宮頸がんのため帰らぬ人となる。現在は、医療法人松井医仁会大島眼科病院監事、(公財)日本アイバンク協会常務理事などを務めながら、妻が最後の数か月で教えてくれた家事技術をもとに、懸命に独り暮らしの日々を送っている。

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