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70歳、はじめての男独り暮らし

2018.01.18 公開 ポスト

【新春特別企画】70歳、はじめての同級生対談【前編】

死に方はもう決めている西田輝夫(医学博士)

あれは洗濯とはいわない

 本を読んでいて、後半は涙が出ましたね。同世代の共感というか、こういう心の感じ、分かりますよ。僕も妻とは仲が悪いわけじゃないから。大体、男はある程度の年になれば、奥さんに頼って生きてるという人も多いと思いますよ。というか、そういう関係だから、たぶん長続きしているんだろうと思うんですよね。お互いに頼っているみたいなところがあるからね…そう、タイトルの「おまけ人生もまた楽し」って言葉もいいよね。

西田 そこ、知り合いからメールが来てね。「おまえ、意地張ってるやろ」と。「こんな楽しいはずない」って (笑)

 家事をちゃんと楽しんでるじゃない。やっぱり楽しいと思わないとやってられないでしょ。僕もたまにしかやらないけど。洗濯なんて、でもまあ洗濯は簡単ですよね。洗剤の量を計って入れるだけなんで。

西田 いや、それは甘い。あれは洗濯と言わない。あれは、「洗濯機を使う」と言う。あれが終わってから、干して、ピンピンとやって干して、乾いたやつを取り込んで、そしてそれをきれいにたたんで、整理だんすに入れる、ここまでが洗濯だよ(笑)。

 僕ね(笑)、普段から、洗い上がった乾いたものを、たたんで自分のたんすに入れるというのはやるんですよ。下着でもなんでも。自分で衣類の管理は、普段洗濯はしないけど、洗い上がったものをたたむというのは、Tシャツでも、ブリーフでも、パンツでも、それから普通のゴルフ用のシャツとか、セーターとか。それから、ズボンを例えばズボンプレッサーにかけるとかね。アイロンはかけませんけどね。

西田 アイロンに向いてない?

 まぁ、ハンカチはアイロンはかけないな、うちは。そう、すごい凝ってるなと思ったんだよ、アイロンをハンカチにかけるの…

西田 うん、そんなに凝るもんじゃないということが最近分かった。ハンカチは真剣にアイロンかける必要がない。妻がいつもそうしていたから,そうするものだと思っていた。でも、最初のころはまず、しわを全部取って、折って、端がキッチリ合うようにして、こう入れて、また四つに折って……本当に時間かかってた。

 ハンカチ30枚で2時間とか。「ええ!?」と思ったけど。

西田 必要ない。

坂 ズボンプレッサーは使ってます? こう立ってるやつで、ホテルなんか行くとよくあるけど。あれはね、便利ですよ。

西田 あれね、僕、駄目なの。ここのサイズが…

 あ、サイズが合わない? はみ出しちゃう?

西田 僕、お尻が大きいから、こう二つにしたら、この幅がたぶん坂さんよりだいぶ大きいんだな。そうしたら、あの幅からはみ出しちゃう。ホテルでやっててね、どうして僕はうまくいかないんだろう、と思って見たら、結局、前のこの線がピシっとこう、あのサイズの中にこう入らないと駄目でしょ。

坂 そう。両方入らないと。

西田 それが端のほうに、やっと。

 なるほど(笑)

西田 そうするとアイロンしかない。

 そうか。ズボンプレッサーに入らないというの、初めて聞いた。

西田 でも洗濯もね、週に1回ぐらいクリーニング屋さんに持って行くんだけど、最初は恥ずかしいのね。だって、行ったことないでしょ。妻の会員券とか割引券を見て、ああ、あそこに行ってるとか。取ってきてとか言われて行ったことあるから、たぶんあそこのクリーニング屋さんだろうなと。

 でも、だんだん慣れてきたら「またたくさんでごめんね」とかね、「西田さん、きょう割引券ないの?」と。「ないよ」とか、「なんとかならない?」とか、冗談を店のおばちゃんとできるようになってきて、ああ、俺もこれで主婦になってきたなって(笑)。

 なるほど。

西田 それと、スーパーで、みんな同じようなとこに来るでしょ。そうすると看護師さんとか、患者さんとバッタリ会うんだよね、タマネギをこうやって持ってるとき。「先生、こんにちは」「お元気ですか」なんて。最初、めちゃめちゃ恥ずかしかったんだよね。でも、最近はもういいやと、慣れてきてね。

 しかし、タマネギを買って、ちゃんと料理するというのはすごいな。大したもんだな、それは。僕はそうめんをゆでるとか、パンを焼くとかね。サンドイッチを自分で作るぐらいはしますけどね。

西田 そうめんと、うどんは楽なんだけど、あれ、あとが面倒くさいのよ。

 焦げ付かせないようにしておけば、サッと洗えば大丈夫です。

西田 でも、結構こびり付くよね。あの、粉みたいな

 そうならないように、ちゃんとこう動かして。こびり付かせると鍋って面倒でしょ。

西田 うん。

 「包丁研ぎ器を使ったら、さらに包丁が切れなくなった」というのも本にあった。

西田 でもね、一回それやったらね、ものすごい気持ちよく切れることを味わうとね、研ぐのが楽しくなるの。特にトマトをね、シュッっとやったらね、スーッと切れていくときね。ほかのはね、力で押してもいいんだけど、トマトを力で押すと崩れるんだよ。

 グチャッとなっちゃいますからね。

西田 トマトが一番いい指標。

 板前さんは、研げる包丁じゃないと、よく切れる包丁で切らないとまずくなると言ってね。食べ物が。刺し身なんかね、すごくよく切れないと駄目なんだって。だから、彼らはしょっちゅう研いでいますよね。

西田 研いでるね。

 うちは包丁を研ぐのは息子が一番やるんだけど、僕もときどきやりますよ。子供の頃に、工作とかそういうので研いでいたから、それでおやじに教わったりしたから。うちは男のほうがむしろ、刃物を研ぐという技術はあるんだよね。家内はやらないと思う。砥石なんか、ちゃんとありますね。

西田 僕は砥石までいかないよ。僕はもう、電動の、ウィーンっていうやつ。

関連書籍

西田輝夫『70歳、はじめての男独り暮らし おまけ人生も、また楽し』

定年後、癌で逝った妻。 淋しい、そして何ひとつできない家事……。 人生100年時代の、男の生き方がここにある。 抱腹絶倒、もらい泣き!? 「このまま私はボケるのか?」定年後の独り暮らしを描く、笑えて泣ける珠玉のエッセイ! 古希(70歳)を迎えた元大学教授が、愛妻を癌で亡くした。悲しみを癒す間もないままひとりぼっちの生活が始まるが、料理も洗濯も掃除も、すべてが初めてで悪戦苦闘。さらに孤独にも苦しめられるが、男はめげずに生き抜く方法を懸命に探す。「格好よく、愉しく生きるのよ」妻の遺言を胸に抱いて――。 <目次> はじめに 第一章 家事に殺される!? 〜オトコ、はじめての家事〜 第二章 男やもめが生きぬくための7つのルール 第三章 妻を亡くして 〜オトコ心の変化〜 第四章 妻がくれたもの 〜大きな不幸の先に大きな幸せが待つ〜 おわりに

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70歳、はじめての男独り暮らし

定年後、癌で妻を亡くした元・大学教授が語る、人生100年時代の男の生き方。

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西田輝夫 医学博士

1947年生まれ、大阪府出身。1971年大阪大学医学部卒業後、米国ボストンのスケペンス眼科研究所留学などを経て、1993年、山口大学医学部眼科学教室教授に就任。2001年米国角膜学会にて、日本人としては19年ぶり2人目となるカストロヴィエホ・メダル受賞する。2010年からは山口大学理事・副学長を務めた。2013年に退任後、旅行をゆっくりと楽しもうとした矢先、長年連れ添った妻が子宮頸がんのため帰らぬ人となる。現在は、医療法人松井医仁会大島眼科病院監事、(公財)日本アイバンク協会常務理事などを務めながら、妻が最後の数か月で教えてくれた家事技術をもとに、懸命に独り暮らしの日々を送っている。

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