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幻冬舎plus+編集部便り

2017.11.17 公開 ポスト

『晩酌パラダイス<冬編> 』電子版 11/24発売

今宵の晩酌は<牡蠣しゃぶとマグロのづけ>で決まり!ラズウェル細木

「今すぐお酒が呑みたくなる!」と評判のラズウェル細木さん人気シリーズ『晩酌パラダイス』。酒肴のレシピと銘酒情報が満載の晩酌エッセイ、待望の<冬編>が11月24日(金)に発売になります。寒くなってきた今日この頃、今宵のひとり晩酌のメニューのご参考にいかがでしょうか。「自ら食材を調達してつまみを作り、それで一杯やるというのは思いのほか楽しいものだ」――今日一日のすばらしき締め方を、本作からちょいとご紹介します。

※本作品は、『晩酌パラダイス 今宵も酔いし、美味し、楽し』の第四章「今宵の晩酌 冬編」を抜粋してまとめたものです。

 

牡蠣しゃぶとマグロのづけの宴

 九時か。ああ、もう仕事やりたくねー。飲んじゃうか……それとも、十時まで頑張るか……、ええい、終わり終わり、はい晩酌ーッ!

 何が辛いってこの寒さだよ。深々と冷えるってのは今日みたいな日だね。コタツのスイッチ入ってるな。よしよし。こんな夜は鍋だ、鍋!

 今夜は「牡蠣(かき)しゃぶ」。

 まずは、生食用の牡蠣のパックを開けてサッと洗う。よく料理屋などでは大根おろしを使ってヒダの間まできれいに洗うというが、そこまでせんでよろし。商売じゃないんだから。ちょっと塩を入れた水で数回振り洗いをすればOK。

 それから野菜だな。白菜と長ネギと水菜とエノキダケ、こんだけあればいいか。

 それから、つけダレ。市販のポン酢醬油でもいいんだけど、今夜は醬油にレモンとスダチを搾った自家製ポン酢醬油でいこう。

 それに、青ネギの小口切りをタップリ入れて、七味唐辛子をふる。もみじおろしも欲しいような気がするが、めんどくさいから省略。

 よおし、あとはセッティングだ。コタツの上に卓上ガスコンロをのせてと……これも、もうだいぶ使ってるな。

 そろそろ新しい薄型のやつに買い替えたいなあ。これだと鍋をのせると高くなっちゃってな。でも薄型のはケッコーな値段するんだよ。ま、こいつがいかれたら……あっ、ボンベの替えあったっけ? 途中でガスが切れて、替えがないと情けないからなあ。おーよしよし、あったあった。

 まず土鍋に水を張って、昆布茶を入れる。本物の昆布を入れてもいいんだけど、今夜はこれでいいや。

 沸くまではキッチンのガス台で。ボンベはなるべく節約したいからね。

 この間に酒の燗……ええいめんどくせー、やっぱりレンジだー。

 今夜はビールなしでいきなり日本酒だもんね。銘柄は我が家の定番、秋田の「爛漫」の純米酒「まなぐ凧」だ。

 この酒は四合瓶が千円以下で近所のスーパーで手に入る。淡麗で燗にぴったりで飲み飽きしないんだ。

 こいつをタップリ入る備前の焼き締めの徳利に入れて、ちょいと熱めに燗をつける。

 盃は、ガラス作家の樫山さんに作ってもらったやつにしよう。ガラスだけど、燗酒にぴったんこなんだ。

 あとは箸休めの庄内の赤かぶ漬けを器に盛って、準備完了!

 まずは、熱燗を一杯。(キュー)

 ハァー、五臓六腑に染み渡るとはこのことだね。誰が最初に言い始めたか知らないが、うまい表現だよなあ。

 秋田に取材に行ったときは、秋田の地酒をいろいろと飲んだっけ。白瀑(しらたき)、両関、福小町、雪(ゆき)の茅舎(ぼうしゃ)……、みんな美味かった、やっぱり酒どころだね。冬はやっぱ寒い地方の酒がいいな。

 さあさ、そんじゃさっそく牡蠣にいこう。デカめのやつを箸でつまんで、鍋の中に入れて、しゃぶしゃぶしゃぶと、よしもういいぞ。

 ポン酢醬油につけて。(パクッ)(ムグムグムグ)

 うん、うん、これこれ。表面だけ火が通って中は生という理想的な状態。まったくの生で食べるより、しゃぶしゃぶしたほうがふっくらするんだよな。

 どれどれ、もう一個。しゃぶしゃぶしてポン酢。(パク)(ムグムグ)

 ああ、こら、何個でもいける。

 これはいちおう鍋だけど、牡蠣は生食用を使わにゃいかん。なんたって中は生だから。加熱用を使うと中(あた)る危険があるからな。

 実は私は牡蠣に中ったことがある。

 とある安居酒屋の酢牡蠣にやられて、三日ほど寝込んだのだが、今まで生きてきた中で一番お腹(なか)が痛かった。

 なんたって、胃の内壁をキリでグサグサ突き刺されるような痛みなのだ。牡蠣に中ると悲惨だとよくいわれるが、まさしくさんざんな目にあった。

 しかし、こんな思いをしても、その後、牡蠣が嫌いにはならなかった。

 ちなみに、小さな丼一杯カツオの酒盗を食べて二日酔いになって、一日中酒盗のゲップが出続けるといった経験をしても、やはり酒盗が嫌いにならなかった。さらに、サザエの肝をいっぺんに十個分食べて、一晩中うなされたことがあったが、サザエの肝はいまだに好物である。わしゃ、暴力ふるわれてもふるわれても男と別れられない女か。

 ところで、生食用の牡蠣と加熱用の牡蠣とはどう違うのかというと、養殖する海域の環境と、水揚げ後の洗浄なのである。

 すなわち、加熱用は栄養豊富な海域で育てて、養分を洗い流さぬ程度に洗浄をする。

 それに対して、生食用はなるべく清浄な海域で育てて、徹底的に洗浄する。

 だから、生で食べるときは生食用、加熱して食べるときは加熱用を使ったほうがいいんだそうだ。

 以前は、生食用の鮮度が落ちたものが加熱用にまわされるのだろうと勝手に思い込んでいたが、よくよく考えると、鮮度の落ちた牡蠣なんてそれこそ怖くて食えんよな。

 さて、牡蠣の合い間に野菜も入れる。野菜は別にしゃぶしゃぶじゃなく、入れっぱなしでよい。ただし、水菜はサッと火を通すにかぎるが。

 こうして、冬の夜に鍋を前にして燗酒をやっているとしみじみとしたシアワセを感じる。やっぱり、燗だよなあ。

 そんな燗酒派の私であるが、このところちょっと、

「何が何でも燗をつければ美味くなる」

 という考えをあらためつつある。

 それは、燗をつけなくてもじゅうぶん美味く、燗をつける必要がない酒を味わったからである。

 それはわが故郷山形の銘酒「十四代」。

 ここ数年来、日本酒ファンの間でものすごい人気の銘柄である。

 しかし、出荷量が少ないため入手が難しく、そうした酒につきもののプレミアムがついて高値で取り引きされている。

 そんな人気の十四代を飲む会が、東京大塚の居酒屋『串駒』でときどき催されている。

 なんと蔵元直送のいろいろなタイプの十四代を、思い切り飲み倒せるのである。

 だから、それなりの会費ではあるのだが、募集をするとすぐに定員が埋まってしまう。

 その会に参加したとき、十四代の美味さにあらためて驚いたのであるが、またぞろいつものクセがでて、燗をつけたのも飲みたくなった。

 十四代は「本丸」という燗に向いた本醸造酒があるのだが、せっかくだから吟醸系のタイプも燗して飲みたい。

 そこで、あまり気が進まなそうな『串駒』の酒担当のテツローさんにたのみこんで、「龍月(りゅうげつ)」という純米大吟醸をぬる燗にしてもらった。

 早速、わくわくしながら飲んだ。ところが、吟醸香も損なうことなく上手に燗がつけられていたにもかかわらず、燗をつける前より少しも美味くはなっていないではないか。

 これまでの経験では、燗をつけることによって、ほぼ皆新たな香りや旨味が花開くのだが、今回は違った。

 十四代の吟醸系は、常温ですでに香りも旨味も完璧に開き切っているのだ。

 というわけで、

「すべての日本酒は燗すべし」

 という私の持論はもろくも崩れ去ったのであった。

 なお、蔵元の高木専務によると今のクオリティーを保つためには、増産はとても不可能だとのこと。

 ああ、でもリラックスして家でも十四代飲みたいなあ。

 さて、ふと気がつくともう牡蠣は一個も残ってない。

 アッという間に食っちゃった。

 何かなかったっけ……そうだ、昨日食ったマグロのづけの残りがあったな。

 あれとネギを鍋にぶっこんで、ねぎま鍋に……いやいやいや、ねぎま鍋って正直言って、あんまり美味いと思ったことないんだよな。もともと、江戸の昔からたいした料理じゃなかったっていうし。

 というわけで、マグロの赤身のサクを漬け汁から取り出し、そぎ切りにしてカラシを添える。

 どれどれ。(ングング)ああ、いい漬かり具合だ。づけは切り身で漬ける方法もあるけど、あれだと一晩も置いちゃうとしょっぱくなりすぎるんだよな。おまけに表面がヌルヌルしてくるし。でもそれがいいって人もいるけどね……。

 ちなみに、私のマグロのづけの作り方は、マグロの赤身のサクに熱湯をかけて水気をふいたのちに、醬油とみりんを火にかけて煮切ってから冷ましたづけ醬油に数時間漬込むというもの。

 んで、づけにはカラシが合うんだ、ワサビより。

 箸休めに赤かぶ漬けもね。(パリパリ)

 うん、いい風味と食感だ。

 これは、わが山形県の庄内の温海(あつみ)地方の名産なんだけど、だだちゃ豆と同じで、県を離れてから知った。まあ、米沢から庄内は遠いからしゃあないわな。

 赤かぶ漬けは飛驒のほうにもあるが、あちらはちょっと古漬け風でそれもなかなかいける。

 さあ、夜更けてますます冷え込んできたので、鍋を再開すっか。

 何かなかったかな……これか、ソーセージと冷凍してあった鶏の胸肉、あと豆腐も入れちゃえ、これは湯豆腐ではなく鍋の具、だから煮えバナなんてうるさいこたいわず、スが入ってもよしとする。

 よーし、煮えてきたぞお。まずはソーセージから。(パキッ)(ムグググ)

 うんうん、鍋にソーセージ入れるの好きなんだよなあ。

 鶏肉も煮えたかな。冷凍してケッコー日が経たってるんだけど鍋なら平気だね。

 うん、鶏も豆腐も美味い。先に入ってる白菜もトロトロになっていいぞ。

 温まってきたからここでビールを……あ、発泡酒でいいか。これ、キリンの「ZERO」。こいつは、ドライでノドが渇いてるときにいいんだよ。

(プシッ)(ゴグゴグゴグ)

 ハァー、うめっ。こっからは、発泡酒と日本酒の二刀流だな。

 ああ、ソーセージうめっ、鶏肉うめっ、豆腐うめっ……いい感じだなあー。

 さあ、だいぶ腹もふくれてきたぞ……でも、この後、まだ雑炊が待ってるんだ。なんたって、このいろんなダシが出まくった汁を捨てるわけにはいかないからな。ま、雑炊は別腹だから、腹がいっぱいでも入るんだけど。

 鍋の締めとしては、うどん、ほうとう、ラーメン、ビーフン、水餃子、ショートパスタなんてところもあるけど、やっぱり雑炊だよなあ。

 冷凍してあった白ご飯をレンジでチンして鍋に投入。ちょっくら崩して、つけ汁のポン酢醬油も入れちゃおう。他人がいるとなかなかできないけど、どーせ食べるのは自分ひとりだからな。

 よーし、グツグツしてきたぞ。鮟鱇鍋の『いせ源』だったらここで触ると仲居さんに叱られるんだけど、触っちゃうもんねー。次に、青ネギと卵の準備をしてと。

 さあさあ、いよいよクライマックス、卵を溶いて「の」の字を書くようにかけまわして、すぐフタをして火を停める! これで待つこと三十秒。

 さあ、いいぞ。(パカッ)

 おーし、卵が半熟状になってちょうどいい具合だ。ここで卵を完全に固まらせちゃうとすべてが台無しだからな。

 あとは青ネギを散らして、七味をふって、いただきまーす。(ズズズズ)

 あちちち。うん、これだよこれっ。牡蠣、ソーセージ、鶏肉……いいダシ出てるワー。やっぱ、雑炊大正解。

 ちょっと違う漬け物が食いたくなってきたな……お、これがあった、秋田で買った「いぶりがっこ」。

 こいつはタクアンを囲炉裏(いろり)の上にぶら下げて煙でいぶす、いわばタクアンの薫製だ。

 まあ、市販されてるやつは囲炉裏では作ってないと思うけど。この薫製風味が雑炊とよく合うんだよ。

 よし、発泡酒もう一本開けちゃえー。

 

 フー、食った食った。土鍋ももうすっからかんだ。満足満足。

 こいつは今夜のうちに水を張って洗っておかなくちゃ、でも冷めてからじゃないと、割れちゃう恐れがあるからな。

 なーんてね、今夜はアタマがまだまだ冷静だなあ。よし、腹は一杯だけど、食後酒と洒落(しゃれ)るか。

 そもそも日本には食後酒という習慣はない。それは晩酌というものがあくまでも飲酒が主体で、食中酒ではないからだろう。そして、最後に締めの食事をして、すべて終了というわけ。

 でも、ひとしきり飲んで食った後、仕切り直して飲むのもいいもんだ。

 外では最後にBARに行ったりするけど、家の晩酌でもそれをやろうという趣向だね。

 うーん、何にしようかな、食後酒に向いたものとしては、日本酒の古酒、芋焼酎、黒糖焼酎、ウイスキー、ブランデーなんてところがあるけど……おお、そうだ、グラッパにすっか。

 グラッパはイタリアのリキュールで、まさに食後酒のために作られているようなもんだ。蒸留酒にハーブやスパイスなどのエキスを入れたもので、さまざまなタイプがある。

 今ウチにあるのは戴きもので(この手の酒は自分で買うことはほとんどない)、無色透明な蒸留酒にアニスもしくはフェンネルのような香りがついている。

 冷やしてないけど、冬だから常温でいいや。氷も要らない。(チビリッ)

 くはーっ、このカーッとくる感じ、いいねえ。なんとなく口の中が爽やかになるな。でも度数が高いからあくまでもチビリチビリだぞ。

 腹はいっぱいだけど、やっぱりなーんかつまむものが欲しいなあ。

 よしこれだ、ビターなチョコレート、それからカマンベールチーズ。

 日本の酒にはなかなか甘いものが合わないけど、洋酒は甘いのと一緒にやれるからね。そのへんも食後酒の習慣が根付いているゆえんだろうな。

 チーズを食後に食べるってのも、なかなか理解できなかったけど、この頃その気持ちもわからないでもない。

 でも、アルコール類があればの話だけどね。

 うん、いいね、やっぱどっちかっつうとチョコよりチーズかな。(グビリッ)フー。ああ、コタツでグラッパ、ミョーなスタイルだけど……シアワセ……。(グビビッ)

 

(翌朝)

 目が覚めると六時半。

「しまった、またコタツで寝ちゃったー。うわーん、ぜんぜん寝た気がしない、疲れがとれてないよーん。とほほ、もう六時半、これが四時ぐらいだったらフトンに移って寝るんだけど。しゃあない、起きるか。ああ、コタツの上ひでえ残骸だ……土鍋、ガビガビ、チクショー、今夜こそフトンで寝るぞー」

 冬場はこれが落とし穴。

 

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ラズウェル細木

1956年生まれ。山形県米沢市出身の漫画家。早稲田大学教育学部国語国文科卒業。在学中は漫画研究会に所属。1983年に麻雀漫画でデビュー。食とその文化への大いなる好奇心をもとに、あくまでも庶民目線で描く著作にファンが多い。特に酒呑みの立場から斬るつまみ論はその鋭さに定評がある。

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