

白地を埋めるかのように、赤を入れていく。もはや〈文〉ではなく〈図〉のようである。
Titleではその日に入荷した新刊をツイッターで紹介しています。「あの文章はその場で本を読んでから書いているのでしょうか」とよく聞かれるのですが、とてもそんなに速くは読めません。毎日入荷した本を手にとって眺め、少し読んでみてその本の良いところを探します。文章の美しさや書かれた内容の面白さ、装丁など、褒めるポイントは本により違いますが、その本を見て自然と思い浮かんだことをそのままことばにします。
しかし『365日のほん』は、すぐに流れていくSNS上のことばとは異なり、紙に印刷され、買った人の手元に残ります。それに耐える強さを持つには、書いた文章を何度も見直すことが必要になります。
人は自分でも説明できないようなことを、知らないうちに書いてしまっているものです。何度も同じ文章を見直すうちに、「意味が自分の腑に落ちていないことば」や「見栄で使った難解な言い回し」などの箇所に、次第に違和感を覚えはじめます。

あとから読みかえすと意味の通じない文はあきらめ、わかるように文を足していく。
そうした悪目立ちすることばを削る(もしくは自分の手の内にあることばに直す)と同時に、まだ何かもの足りず、もう少し説明が必要そうな箇所に文章を足していきます。そうした作業を何度も繰り返しているうちに、次第に文章が滑らかになり、引き締まってきます。
その過程で重視するのは、個性よりは読みやすさです。個性は消そうとしても消せないものなので、あえて自分からは求めなくてもよいと思いますが、文章は読む人あってのものなので、独りよがりにならないように気を付けています。

最終的には、滑らかになってきます。
文章をどのように書くかもそうですが、どのような本を選ぶかということも、『365日のほん』では重要なことでした。「そうはいっても365冊もあるのだから、好きな本は一通り選べますよね」といわれそうですが、掲載される本の数が増えてくれば、似た傾向の本ばかりを並べていれば、読む人に平板な印象を与えてしまいます。それを防ぐには、統一されたテイストのなかでも、各ジャンルからバランスよく本を選んでくることが大切です。そのなかには、自分は読まないかもしれないがリストには含めたい本もあります。店の売場を作るときの引いた視点が、『365日のほん』のセレクションには活かされているのかもしれません。

巻末に付けた、収録作品一覧。
本屋にとってみれば、本を365冊選び文章を書くということは、その店のベストアルバムを作るようなものです。「ああでもない、こうでもない」と、様々な本を入れ替えながら選ぶことは、新しい店を作るように楽しいことでした。「何でこの本がないんだ!」というお叱りもあるかもしれませんが、100人いれば100通りのセレクションが存在します。そうした「私ならこうする」といった点も含めて、『365日のほん』を楽しんでいただければと思います。
*次回は15日(水)の更新。ブックデザインなど、本の外回りが出来るまでを追いかけます。
今回のおすすめ本

全国の書店には11月23日以降に並びはじめますが、TitleのWEBSHOPでもご予約を承っております。ご予約、ご購入のお客さまには特典として「四季のカード」を差し上げます(4枚1セット。1枚はシークレットとして、ある写真家の作品が使われております)。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年6月6日(金)~ 2025年6月24日(火)Title2階ギャラリー
きみまでのおさらい
井上奈奈『うさぎまでのおさらい』刊行記念展
2018年ドイツにて開催された「世界で最も美しい本コンクール」にて銀賞を受賞し、話題となった絵本『くままでのおさらい』。そのスピンオフ作品として制作された『うさぎまでのおさらい』が、このたび装いもあらたにビーナイスより刊行になります。今回の作品展では、この『うさぎまでのおさらい』『くままでのおさらい』とともに、2024年に刊行になったエッセイ集『絵本を建てる』の作品も展示します。
◯2025年6月28日(土)~ 2025年7月14日(月)Title2階ギャラリー
Titleからほど近い阿佐ヶ谷にあった、大正末期に建てられた文化住宅・旧近藤邸。そのたたずまいは宮﨑駿監督の著書『トトロの住む家』のなかでも取り上げられました。緑に包まれ、静かに時を刻んできたこの家の在りし日の姿を活写したのが、このたび刊行された公文健太郎さんの写真集『バラの花咲く家』(平凡社)です。旧近藤邸は残念ながら2009年に不審火で焼失してしまいましたが、美しい写真プリントで、多くのひとに愛されたその姿があざやかに蘇ります。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【寄稿】NEW!!
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】
「はたらき」を回復する /〈わたし〉になるための読書(5)
「MySCUE(マイスキュー)」
シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第5回。人の流動性が高まる春、さまざまな仕事とその周辺についての3冊をご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。