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本屋の時間

2017.11.08 公開 ポスト

第24回

『365日のほん』が発売になります(2)文章は読む人あってのもの辻山良雄

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白地を埋めるかのように、赤を入れていく。もはや〈文〉ではなく〈図〉のようである。


 Titleではその日に入荷した新刊をツイッターで紹介しています。「あの文章はその場で本を読んでから書いているのでしょうか」とよく聞かれるのですが、とてもそんなに速くは読めません。毎日入荷した本を手にとって眺め、少し読んでみてその本の良いところを探します。文章の美しさや書かれた内容の面白さ、装丁など、褒めるポイントは本により違いますが、その本を見て自然と思い浮かんだことをそのままことばにします。

 しかし『365日のほん』は、すぐに流れていくSNS上のことばとは異なり、紙に印刷され、買った人の手元に残ります。それに耐える強さを持つには、書いた文章を何度も見直すことが必要になります。

 人は自分でも説明できないようなことを、知らないうちに書いてしまっているものです。何度も同じ文章を見直すうちに、「意味が自分の腑に落ちていないことば」や「見栄で使った難解な言い回し」などの箇所に、次第に違和感を覚えはじめます。

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あとから読みかえすと意味の通じない文はあきらめ、わかるように文を足していく。

 そうした悪目立ちすることばを削る(もしくは自分の手の内にあることばに直す)と同時に、まだ何かもの足りず、もう少し説明が必要そうな箇所に文章を足していきます。そうした作業を何度も繰り返しているうちに、次第に文章が滑らかになり、引き締まってきます。

 その過程で重視するのは、個性よりは読みやすさです。個性は消そうとしても消せないものなので、あえて自分からは求めなくてもよいと思いますが、文章は読む人あってのものなので、独りよがりにならないように気を付けています。

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最終的には、滑らかになってきます。

 文章をどのように書くかもそうですが、どのような本を選ぶかということも、『365日のほん』では重要なことでした。「そうはいっても365冊もあるのだから、好きな本は一通り選べますよね」といわれそうですが、掲載される本の数が増えてくれば、似た傾向の本ばかりを並べていれば、読む人に平板な印象を与えてしまいます。それを防ぐには、統一されたテイストのなかでも、各ジャンルからバランスよく本を選んでくることが大切です。そのなかには、自分は読まないかもしれないがリストには含めたい本もあります。店の売場を作るときの引いた視点が、『365日のほん』のセレクションには活かされているのかもしれません。

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巻末に付けた、収録作品一覧。

 本屋にとってみれば、本を365冊選び文章を書くということは、その店のベストアルバムを作るようなものです。「ああでもない、こうでもない」と、様々な本を入れ替えながら選ぶことは、新しい店を作るように楽しいことでした。「何でこの本がないんだ!」というお叱りもあるかもしれませんが、100人いれば100通りのセレクションが存在します。そうした「私ならこうする」といった点も含めて、『365日のほん』を楽しんでいただければと思います。
 

 *次回は15日(水)の更新。ブックデザインなど、本の外回りが出来るまでを追いかけます。

 

 

今回のおすすめ本

 辻山良雄『365日のほん』(河出書房新社)

 全国の書店には11月23日以降に並びはじめますが、TitleのWEBSHOPでもご予約を承っております。ご予約、ご購入のお客さまには特典として「四季のカード」を差し上げます(4枚1セット。1枚はシークレットとして、ある写真家の作品が使われております)。

◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます

連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBSHOPでもどうぞ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

辻山良雄さんの著書『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』のために、写真家・齋藤陽道さんが三日間にわたり撮り下ろした“荻窪写真”。本書に掲載しきれなかった未収録作品510枚が今回、待望の写真集になりました。

 

◯2025年4月25日(金)~ 2025年5月13日(火)Title2階ギャラリー

「定有堂書店」という物語
奈良敏行『本屋のパンセ』『町の本屋という物語』刊行記念

これはかつて実在した書店の姿を、Titleの2階によみがえらせる企画です。
「定有堂書店」は、奈良敏行さんが鳥取ではじめた、43年続いた町の本屋です。店の棚には奈良さんが一冊ずつ選書した本が、短く添えられたことばとともに並び、そこはさながら本の森。わざと「遅れた」雑誌や本が平積みされ、天井からは絵や短冊がぶら下がる独特な景観でした。何十年も前から「ミニコミ」をつくり、のちには「読む会」と呼ばれた読書会も頻繁に行うなど、いま「独立書店」と呼ばれる新たなスタイルの書店の源流ともいえる店でした。
本展では、「定有堂書店」のベストセラーからTitleがセレクトした本を、奈良敏行さんのことばとともに並べます。在りし日の店の姿を伝える写真や絵、実際に定有堂に架けられていた額など、かつての書店の息吹を伝えるものも展示。定有堂書店でつくられていたミニコミ『音信不通』も、お手に取ってご覧いただけます。


◯2025年4月29日(火) 19時スタート Title1階特設スペース

本を売る、本を読む
〈「定有堂書店」という物語〉開催記念トークイベント

展示〈「定有堂書店」という物語〉開催中の4月29日夜、『本屋のパンセ』『町の本屋という物語』(奈良敏行著、作品社刊)を編集した三砂慶明さんをお招きしたトークイベントを行います。
三砂さんは奈良さんに伴走し、定有堂書店43年の歴史を二冊の本に編みましたが、そこに記された奈良さんの言葉は、いま本屋を営む人たちが読んでも含蓄に富む、汲み尽くせないものです。
イベント当日は奈良さんの言葉を手掛かりに、いま本屋を営むこと、本を読むことについて、三砂さんとTitle店主の辻山が語り合います。ぜひご参加下さいませ。
 

【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】

スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。

『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』

著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト

◯【書評】

『生きるための読書』津野海太郎(新潮社)ーーー現役編集者としての嗅覚[評]辻山良雄
(新潮社Web)

 

◯【お知らせ】

メメント・モリ(死を想え) /〈わたし〉になるための読書(4)
「MySCUE(マイスキュー)」
 

シニアケアの情報サイト「MySCUE(マイスキュー)」でスタートした店主・辻山の新連載・第4回。老いや死生観が根底のテーマにある書籍を3冊紹介しています。

 

NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。

偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。

関連書籍

辻山良雄『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』

まともに思えることだけやればいい。 荻窪の書店店主が考えた、よく働き、よく生きること。 「一冊ずつ手がかけられた書棚には光が宿る。 それは本に託した、われわれ自身の小さな声だ――」 本を媒介とし、私たちがよりよい世界に向かうには、その可能性とは。 効率、拡大、利便性……いまだ高速回転し続ける世界へ響く抵抗宣言エッセイ。

齋藤陽道『齋藤陽道と歩く。荻窪Titleの三日間』

新刊書店Titleのある東京荻窪。「ある日のTitleまわりをイメージしながら撮影していただくといいかもしれません」。店主辻山のひと言から『小さな声、光る棚』のために撮影された510枚。齋藤陽道が見た街の息づかい、光、時間のすべてが体感できる電子写真集。

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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。

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辻山良雄

Title店主。神戸生まれ。書店勤務ののち独立し、2016年1月荻窪に本屋とカフェとギャラリーの店 「Title」を開く。書評やブックセレクションの仕事も行う。著作に『本屋、はじめました』(苦楽堂・ちくま文庫)、『365日のほん』(河出書房新社)、『小さな声、光る棚』(幻冬舎)、画家のnakabanとの共著に『ことばの生まれる景色』(ナナロク社)がある。

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