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東芝の悲劇

2017.11.02 公開 ポスト

東芝崩壊の戦犯たち――西田厚聰VS.佐々木則夫、子供の喧嘩大鹿靖明

 西田が佐々木と険悪になった背景には著しいコミュニケーション不足がある。

 かつては社長月例など社内の会議が終わると、社長が会長や相談役に報告するのが習わしで、西田自身も西室に対してはそうしてきた。だが、佐々木は西田にほとんど報告に行かなかったようだ。

 西田は言う。「佐々木は絶対に自分で私に報告をしない。必ず誰かを使いにして報告に来させるのです。法務の島岡聖也もある案件で『取締役会にかけないで、社長決裁で済ますようにしたい案件がございまして……』なんて言いに来たから、『お前は法務だろ。法務の人間がコンプライアンスに違反するようなことをやっていいのか』と言ってやったことがありましたよ。そういうのがしょっちゅうだったんです」。

 もっとも「西田さんが細かい数字をあげて佐々木さんをやり込めることが続いたから、あれでは報告に行く気がなくなるだろう」(元社外取締役)と、佐々木に同情的な見方もある。

 さらに佐々木の振る舞いが、彼の求心力を衰えさせた。佐々木は部下の報告に納得がいかないと、バインダーを投げつけたり、ボールペンを相手の顔めがけてダーツのように投げたりした。「お前は零点だ」「バカもん」などと罵詈雑言は日常茶飯事だった。

 提出される資料類には完璧を求め、数十回と書き直しをさせるのが当たり前となった。取締役会などに経営企画部門が提出する資料は「Version20」や「Version30」などとあり、何度も修正させられた痕跡がうかがえた。長年在職した社外取締役は「100回も書き直しをさせられた人がいた。いくらなんでも噓だろうと思ったが、これは本当なんだ。書類づくりに疲弊してしまう社員があらわれたんだ」と言う。

 西田もそれを認める。「『この点が足りないから書き直しなさい』と指示して修正させれば、1、2回で済むんです。それを佐々木は具体的にどう直せと言わないで『ダメだ、やり直し』と命じるから、命じられた方はどこが悪いのかわからない。それで何十回も書き直しをやらせるんです。私が聞いたのは最高で154回も書き直しをさせたそうです(*3)」

 先の社外取締役は「西田会長と佐々木社長、それぞれが互いに競い合うようになって会社の中が割れてしまった」と振り返る。半導体や家電、パソコンなどの部門の幹部は佐々木に怒鳴られるのを嫌がって西田に説明にあがり、室町を始め「佐々木を何とかしてください」と不満をこぼすものが続出するようになった。

 そうした動きを知った佐々木は当然、面白くない。「俺よりも先に会長の方に報告に行っているのではないか」と疑心暗鬼になった。

 社外取締役はある日、西田に対して、こんな苦言を呈した。「佐々木社長は社員に厳しすぎる。いろいろな問題が私の耳にも入ってきています。佐々木さんはあなたが選んだ人でしょう。あなたにも責任がありますよ」。そのときの西田の返事は「失敗しました」というものだった。

 社内に亀裂が走るなか、実力者の西室泰三と岡村正は自身の社外活動に熱心で、西田、佐々木の二人の仲裁に入ろうとしない。「西室さんも岡村さんも、私が知る限り、仲裁のようなことをした形跡はない」と、この社外取締役は言う(*4)。

 東芝の社内は、連邦が崩壊した旧ユーゴスラビアの内戦のような状態に突入した。久保は12年5月ごろ、西田がこんなことを漏らすのを耳にしたことがある。

「こうなったら、絶対に佐々木を引きずりおろすからな」

 

*3 ここまでは久保誠(2017年7月1日)、西田厚聰(17年6月10日)、匿名を条件とした当時の取締役(2016年3月14日)の3人への取材で構成した。
*4 社外取締役へのインタビュー。2017年5月11日。

 * * *

 2013年2月、佐々木氏が社長を退任、通例では会長になるところ、「副会長」という“中二階”に押し込められるというサプライズ人事が発表されます。「子供の喧嘩」が続くなか、買収したウェスチングハウスの業績は悪化、そして証券取引等監視委員会には、不正会計を指摘する内部告発が寄せられました。続きは『東芝の悲劇』をお読みいただけると幸いです。

 次回は11月9日に公開予定です。

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東芝の悲劇

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大鹿靖明

1965年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。ジャーナリスト。著書に『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』(朝日新聞社)、『ヒルズ黙示録・最終章』(朝日新書)、『墜ちた翼 ドキュメントJAL倒産』(朝日新聞出版社)、『ジャーナリズムの現場から』(講談社現代新書)。『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社)で第34回講談社ノンフィクション賞を受賞。築地の新聞社に勤務。2017年、労組委員長に立候補し、落選。

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