
つい先日、出版界における年に二回の大型イベント、「芥川賞」「直木賞」の発表が行われ、芥川賞は沼田真佑さんの『影裏』(文學界5月号)、直木賞には佐藤正午さんの『月の満ち欠け』(岩波書店)がそれぞれ選ばれました。


毎回、受賞作が決まるひと月前には候補作が発表されますが、個人的にどの作家が取ってほしいという思いとともに、本屋としてはどの作品が受賞すれば売り上げが一番上がるのかを、ひそかに考えています。大型書店では、どの作品が受賞しても良いように、事前に少しずつ在庫を持っておくこともあり、発表前からその準備は着々と行われています。
本の世界では芥川賞・直木賞以外にも、〇〇賞と名のつくものは、各ジャンルにあります。文豪の名を冠したものなら三島由紀夫賞、谷崎潤一郎賞、山本周五郎賞など、学術書なら、サントリー学芸賞、えほんならMOE絵本屋さん大賞、コミックならマンガ大賞や手塚治虫文化賞……。最近では全国の書店員が選ぶ本屋大賞が有名です。
Titleでは受賞がそのまま売上に結びつくことはあまりないので、熱心に賞を追いかけることはありませんが、本屋としては、様々な場所で本が注目されることは大歓迎です。本を書く行為は、基本的に孤独なものだと思いますし、そうした賞が物心両面で作家を支えることは良いことだと思います。
三省堂書店の書店員、新井見枝香さんが始めた「新井賞」という賞があります。

惚れ込んだ作家に個人で賞を差し上げ、専用の帯も作り、大きく展開もしていますが、これは本屋として大切な試みだと思います。そこまでしてもらった作家は幸せを感じるでしょうし、何よりよいと思った本を売りこむという、本屋の原点を感じます。こうした賞がどんどん増えてくると、本を売る現場も面白くなると思います。
Titleで賞を作るとしたらどんな賞になるのでしょうか。とてもまだ賞を考えるような立場の店ではありませんが、いつかそのようなことも行えればと妄想しました。
今回のおすすめ本

『幸福はどこにある』フランソワ・ルロール著 高橋啓訳(伽鹿舎)
伽鹿舎は熊本の出版社。面白いのは作った本を「九州以外では売らない」と決めていることです。それは、「九州に訪れてでも、伽鹿舎の本を買いに行きたい」と思ってもらえる本を作り、九州を本の島にしたいという思いから。いまは全国どこいっても、大体同じ本が並んでいますが、この試みは自分の暮らす場所に根ざした、素晴らしい考えだと思います。
『幸福はどこにある』は初版を売り切り重版したので、「九州には行き渡った」と考え全国でも発売可能になった、一冊目の本になります。
◯連載「本屋の時間」は単行本でもお楽しみいただけます
連載「本屋の時間」に大きく手を加え、再構成したエッセイ集『小さな声、光る棚 新刊書店Titleの日常』は、引き続き絶賛発売中。店が開店して5年のあいだ、その場に立ち会い考えた定点観測的エッセイ。お求めは全国の書店にて。Title WEBS
◯2025年9月19日(金)~ 2025年10月6日(月) Title2階ギャラリー
『光る夏 旅をしても僕はそのまま』刊行記念 鳥羽和久 全原画展
鳥羽和久さんの新刊『光る夏 旅をしても僕はそのまま』の刊行を記念し、鳥羽さんによる全原画展を開催します。展示されるのは、初めて筆を取ってからわずか3か月という短い時間のなかで描き上げられた11点の油絵です。地形を読んでから旅をするという鳥羽さんの旅の特徴を示す地図と写真の展示と、参考文献に挙げられた本のなかから厳選した選書フェアも行います。本書の物語世界に、さらに深く入り込む体験ができる展示です。ぜひご覧ください。
◯2025年10月10日(金)~ 2025年11月3日(月) Title2階ギャラリー
昨年の秋、ミシマ社より刊行された、三好愛さんの『ゆめがきました』。「かぜにのって とんでいく ゆめ」「よぞらで ゼリーをたべる ゆめ」など、寝ている人のところへ、ゆめのほうからやってくるという、ふしぎで愛らしい絵本です。この度の個展ではあたらしい「ゆめ」が十数点、Titleのギャラリーまでやってきます。「おおきなねこをはこぶ ゆめ」「みんなひとりでほしをみる ゆめ」など、三好さんのゆめの続きをご覧ください。
【店主・辻山による連載<日本の「地の塩」を巡る旅>が単行本になりました】
スタジオジブリの小冊子『熱風』(毎月10日頃発売)にて連載していた「日本の「地の塩」をめぐる旅」が待望の書籍化。 辻山良雄が日本各地の少し偏屈、でも愛すべき本屋を訪ね、生き方や仕事に対する考え方を訊いた、発見いっぱいの旅の記録。生きかたに仕事に迷える人、必読です。
『しぶとい十人の本屋 生きる手ごたえのある仕事をする』
著:辻山良雄 装丁:寄藤文平+垣内晴 出版社:朝日出版社
発売日:2024年6月4日 四六判ソフトカバー/360ページ
版元サイト /Titleサイト
◯【寄稿】
店は残っていた 辻山良雄
webちくま「本は本屋にある リレーエッセイ」(2025年6月6日更新)
◯【お知らせ】
〈いま〉を〈いま〉のまま生きる /〈わたし〉になるための読書(6)
「MySCUE(マイスキュー)」 辻山良雄
今回は〈いま〉をキーワードにした2冊。〈意志〉の不確実性や〈利他〉の成り立ちに分け入る本、そして〈ケア〉についての概念を揺るがす挑戦的かつ寛容な本をご紹介します。
NHKラジオ第1で放送中の「ラジオ深夜便」にて本を紹介しています。
偶数月の第四土曜日、23時8分頃から約2時間、店主・辻山が出演しています。コーナータイトルは「本の国から」。ミニコーナーが二つとおすすめ新刊4冊。1週間の聴き逃し配信もございますので、ぜひお聞きくださいませ。
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本屋の時間

東京・荻窪にある新刊書店「Title(タイトル)」店主の日々。好きな本のこと、本屋について、お店で起こった様々な出来事などを綴ります。「本屋」という、国境も時空も自由に超えられるものたちが集まる空間から見えるものとは。