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賞味期限のウソ

2016.11.03 更新 ツイート

まだおいしく食べられるのに、なぜ店頭から撤去されるの?井出留美

「食品ロス」という言葉をご存じでしょうか。まだ食べられるにもかかわらず、賞味期限が迫っているため流通できないなど、様々な理由で廃棄せざるを得ない食品のことです。
 日本の食品ロス量は、632万トン(2013年度、農林水産省調べ)。世界の食料援助量は約320万トン(2014年)なので、日本は、世界全体で支援される食料の約2倍もの量を捨てていることになります。しかも、日本の食品ロス632万トンのうち、約半分は、消費者由来、すなわち家庭から出ています。
 なぜ日本はこのような「食品ロス大国」になってしまったのか。
 その原因のひとつに、「3分の1ルール」という商慣習があると言われています。
 新著『
賞味期限のウソ――食品ロスはなぜ生まれるのか』で、食品をめぐる「もったいない構造」に斬り込んだ食品ロス問題専門家の井出留美さんが、食品業界の不思議なルールに迫ります。

* * *


■不思議で不合理な「3分の1ルール」


 その日までに「消費しなければいけない」消費期限と違って、賞味期限は「おいしく食べられる期限」、あくまで目安です。しかも賞味期限は、本来のおいしく食べられる期限より短めに設定されていることがほとんどです。

 スーパーやコンビニなどの小売店の多くは、そんな、目安に過ぎない賞味期限よりさらにもっと手前の日に商品を撤去します。「3分の1ルール」があるからです。 

 食品業界の不思議なルール、「3分の1ルール」とは、賞味期間を3分の1ずつに区切って、最初の3分の1を「納品期限」、次の3分の1までを「販売期限」とするもので、法律ではなく、食品業界の商慣習です。

 たとえば、賞味期間が6カ月の菓子であれば、メーカーや卸は、最初の3分の1、すなわち製造してから2カ月以内に、小売店に納品しなければなりません。それを過ぎてしまうと、多くの小売店に拒否され、納品することができないのです。

 賞味期間が6カ月の場合、さらに製造から4カ月過ぎると、今度は販売期限が切れるので、賞味期間があと2カ月残っていても、商品棚から撤去されます。
 納品期限が設けてあるために、卸・小売からメーカーへ返品される額は年間821億円、販売期限のために小売から卸へ返品される額は年間432億円と推計されています。
 この「3分の1ルール」こそ、大量の「食品ロス」を生む大きな要因のひとつなのです。

 一体なぜ、このようなルールが作られたのでしょうか。
 

⇒次ページ「小売店に目をつけられるのを恐れて、メーカーは泣き寝入り」に続く

 


■小売店に目をつけられるのを恐れて、メーカーは泣き寝入り


 日経MJ(流通新聞)では、全国で展開するある広域量販店(全国にチェーン店を持つスーパーマーケットのこと)が1990年代に制定し、ほかの小売店がそれに追随したと書かれていました(2012年11月9日付)。店側としては、賞味期限の切れた商品を棚に放置しておくと、お客さんからのクレームのもとになるので、早めに撤去しておいたほうがいいと考えたのだと推察されます。

 2011年9月、私は14年5カ月勤めた食品メーカーを退職し、その後、フードバンクの広報業務を依頼されて請け負い、農林水産省補助事業の「全国フードバンク調査」に携わりました。全国のフードバンクと小売店やメーカーを訪問し、現状を調査し、報告書にまとめる、というものです。
 首都圏から離れた、西日本のある都市の小売店を訪問したとき、この「3分の1ルール」について、面会してくれた経営陣の方々に、もう少し融通がきかせられないのかと尋ねました。
 返ってきた答えは、「個別対応は難しい」というものでした。

 同じ「加工食品」でも、1週間くらいの賞味期限のものと、3年間の賞味期限の缶詰とでは、賞味期間の長さが格段に違います。それらを一律に扱うのは、私としては納得がいきません。
 でも、管理する側にとっては、一括管理したほうがラクで、「効率化」が図れるわけです。そして、個々の企業が「効率化」を過剰に追い求めた結果、大量の食品ロスという、大きな不合理が生まれているのです。

 2012年6月1日と4日に放映された、NHKの「特報首都圏」では、当時勤めていたフードバンクが取材を受けました。その際、企業から寄付された大量の食品が積まれる倉庫をバックにして、「実は、食品業界には、〈3分の1ルール〉という商慣習があるんです」と発言しました。
 このときは、食品メーカーの方から、「よく言ってくださった」と喜ばれました。「3分の1ルール」に泣いているメーカーの担当者は多いのですが、何か言うと小売店から目をつけられるということで、決して表立って発言することはできません。

 食品メーカーの広報室長時代、私もそうでした。個人では「もったいない」と思っていても、ひとたびそれを公の場で発言すれば、個人の考えではなく「会社」を代表しての意見と見なされ、小売店からよく思われないだろうと考え、発言を控えることがたびたびでした。小売店から競合メーカーと差し替えられ、販売チャンスを失うリスクがあるからです。
 会社を辞めた今思うと、そういう人(会社の看板を背負い、率直にモノ申すことができない人)が多いことが、なおさら日本の食品ロスを生み出していることを痛感します。
 

⇒次ページ「改善の取り組みが始まった」に続く。

 


■改善の取り組みが始まった
 

 番組から1カ月後の2012年7月には、農林水産省・消費者庁・環境省・内閣府の4府省
庁が連携して、「食品ロス」に取り組むことが決まりました。3カ月後の2012年10月3日には、農林水産省と流通経済研究所、食品業界の製・配・販(製造・配送・販売)が横断的にチームとなり、3分の1ルールを始めとする商慣習を改善していく目的の「食品ロス削減のための商慣習検討ワーキングチーム」が立ち上がりました。

 その後、2012年度、2013年度、2014年度、2015年度と4年連続でワーキングチームの検討が続き、納品期限を賞味期間の3分の1から2分の1に延長する実証実験も実施されました。

 菓子と飲料に関して、35企業が納品期限を3分の1から2分の1に延長した結果、日本全国では87億円相当のロスをなくすことが可能であると試算されました。これは企業から出る食品ロスのうちの、1〜1.4%に相当します。この結果をふまえて、納品期限を延長したスーパー・コンビニも11企業あります(2014〜2016年度)。


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◇次回は11月10日(木)に掲載予定です。

井出留美『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』

卵の賞味期限は通常、産卵日から3週間だが、実は冬場なら57日間は生食可。卵に限らず、ほとんどの食品の賞味期限は実際より2割以上短く設定されている。だが消費者の多くは期限を1日でも過ぎた食品は捨て、店では棚の奥の期限が先の商品を選ぶ。小売店も期限よりかなり前に商品を撤去。その結果、日本は、まだ食べられる食品を大量に廃棄する「食品ロス」大国となっている。しかも消費者は知らずに廃棄のコストを負担させられている。食品をめぐる、この「もったいない」構造に初めてメスを入れた衝撃の書!

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賞味期限のウソ

まだ食べられる食品を大量に廃棄する「食品ロス」大国・日本。小売店、メーカー、消費者、悪いのは誰なのか。食品をめぐる「もったいない」構造にメスを入れる。

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井出留美

食品ロス問題専門家。消費生活アドバイザー。博士(栄養学 女子栄養大学大学院)、修士(農学 東京大学大学院)。女子栄養大学・石巻専修大学非常勤講師。日本ケロッグで広報室長と社会貢献業務を兼任し、東日本大震災の折には食料支援に従事する。その際、大量の食料廃棄に憤りを覚え、自らの誕生日であり、人生の転機ともなった3・11を冠した(株)office3.11を設立。日本初のフードバンク、セカンドハーベスト・ジャパンの広報を委託され、同団体をPRアワードグランプリのソーシャル・コミュニケーション部門最優秀賞や食品産業もったいない大賞食料産業局長賞受賞へと導く。市会議員、県庁職員、商店街振興組合理事長らと食品ロス削減検討チーム川口主宰。平成28年度農林水産省食品ロス削減国民運動展開事業フードバンク推進検討会(沖縄)講師。同年11月、国際学会で本著内容発表。www.office311.jp

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