今回ご紹介するマンガは、『口に関するアンケート』(集英社)です。

もともとは2024年に刊行された、背筋という作者のホラー小説です。掌サイズの小型本で、女性の真っ赤な唇だけをクローズアップにした写真のカバーが非常に印象的な装丁です。
本屋の店頭に置かれていると、文庫本より小さいので、かえって目立ちます。ああ、あれか、と思いだされる方も多いでしょう。
この本はホラー小説ファンのあいだで評判を呼び、『このホラーがすごい! 2025年版』(宝島社)では、国内部門の第4位に入賞するという高い評価を受けました。
内容は、「モキュメンタリー」と呼ばれるホラー映画のジャンルから着想を得ています。
モキュメンタリーとは、「モック(まがいもの)」と「ドキュメンタリー」を合わせた造語で、実際にあったような、わざと本物めかした演出を強調して、好奇心と不安を煽る手法のホラー映画を指す言葉です。
いっぽう、『口に関するアンケート』の「口」は、「口は災いのもと」というときの「口」のことです。つまり、人の口から口へ、無責任な噂が噂を呼んで、心霊スポットや呪われた場所を作りだしてしまう際の、私たちの無意識的欲望を表すシンボルなのです。
『口に関するアンケート』は、伝聞や噂による怪異現象を体験した人々の証言集になっていて、各証言の前には、スマホのファイルを示すらしい記号が付いています。私は最初、これを動画ファイルの記号だと誤解したのですが、本稿編集者のS儀さんによれば、音声ファイルの拡張子だということです。
ということは、音声の文字起こししかできない小説に比して、映画やマンガなどイメージに訴える媒体を使ったほうが、登場人物の表情などを直接表現でき、臨場感をより効果的に出せそうです。
かくして、マンガ版の『口に関するアンケート』が実現されました。作画者は押見修造。『血の轍』や『瞬きの音』など、病的にねじくれた人間のメンタリティを描かせたら、いまの日本で右に出る者のいない名手です。期待は高まります。
物語は、ある墓地の呪われた木の話で始まり、4人の男女が真夜中にその木を見に行くという肝試しをおこないます。そして、案の定、そのなかの若い女性・杏が、木を見て異常を起こし、のちにその木で首を括って自殺するという事件を起こします。
この事件をめぐって証言を行うのは、肝試しに参加した残りの3人と、杏の死体を発見した別の2人の男子です。
この5人の証言が並行して、起こった出来事を物語り、事件の真相に接近するのですが、証言者たちの顔の表情の変化が重要な意味をもっています。
そして、ラストは思わぬカタストロフへと導かれ、小説では現実と非現実のあいだで宙吊りにされた結末が、マンガでは恐るべきイメージとなって描かれています。
原作小説の静かな戦慄を、幻想的怪奇の痙攣に変えてしまう、押見修造ワールドだというほかない出来栄えになりました。
マンガ停留所

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