老後には、「知らなかった」では済まされない問題が次々とやってきます。健康、お金、介護、認知症、孤独、死などなど、不安の尽きないこの世界を、どう生きればいいのでしょうか。
そんな超高齢社会の生き抜き方について、89歳の高齢者であり医学者でもある黒木登志夫さんが、ご自身の経験と医学的な知見、ユーモアを交えてまとめ上げたのが、『高齢者よ、君たちはどう生きるか』(2026年9月30日(水)発売・幻冬舎新書)です。本書から一部を再編集してご紹介します。
* * *
50%超の人は自宅で死にたい
「万一、あなたが治る見込みがない病気になった場合、最期はどこで迎えたいですか」。2012年に政府が55歳以上の人を対象に行ったアンケート調査がある[*1]。
- 自宅で最期を迎えたい:54.6%(男性62.4%、女性48.2%)
- 病院などの医療施設:27.7%
- 高齢者向けホームなど:8.6%
自宅で最期を迎えたい人が半数を超している。男性のほうが自宅願望の強いのは、無意識のうちに妻より先に逝くことを考え、妻に看取ってもらいたいと考えているためかもしれない。
自宅で最期を迎えたいという気持ちはよく分かる。いつも家族の誰かがそばにいて、話ができる。なんでも素直に言える。食事を用意する音、テレビの音、風の音などが生活の場にいる安心感を与えてくれる。
もう一つ参考になるアンケートがある。2020年、日本財団が、子ども世代(35~59歳、かつ67歳以上の存命の親がいる)と親世代(67~81歳)に質問した結果である[*2]。
- 人生の最期をどこで迎えたいか/迎えさせたいか:親世代、子世代ともに親自身の家が一番多く、次いで、医療施設。
- 絶対に避けたい場所:親世代は子どもの家。次いで介護施設。子ども世代は介護施設。次いで子ども自身の家。
自宅で死にたい人が多いのは分かるが、介護施設がどうしてこれほど嫌われるのであろうか。
実家に帰ったとき、布団に横たわり、この部屋でみな亡くなったことを思い出す。自分はどこで死ぬことになるのだろうかと、ふと思う。
祖父母、父母同じ座敷に死に給ふ吾は所をいづこに得むや 沓掛喜久男[*3]

3分の2は病院、6分の1ずつが自宅か介護施設で亡くなっている
実際、人はどこで亡くなっているのであろうか。政府の統計には、亡くなった場所の調査がある。図7-1に見るように、戦後間もなくは自宅で亡くなる人が大部分であった[*4]。それが1970年代半ばに病院(+診療所)と入れ替わり、2000年代に入ると病院が減少しはじめ、自宅と介護施設が増えてきた。今はほぼ3分の2(65.7%)が病院、残りの6分の1ずつが自宅(17.0%)と介護施設(15.5%)が看取りの場となっている。この背景には2000年に開始した介護保険があるだろう。自宅を希望する人が半数以上なのに、実際に17%という現状は、介護保険があるにもかかわらず、自宅で亡くなるのには困難を伴うことを示唆している。
自宅で看取ってもらう
介護保険により、自宅の看取りにも支援が届くようになった。実際に、在宅看取りがどのように行われるかを、訪問看護師とケアマネージャーに訊いてみよう。
看取りが近くなると、医師は月2回、看護師は週3回の訪問が基本である。介護士は毎日訪問し食事、排泄などの介護を行う。ケアマネージャーは月に1回サービスの確認や調整のために訪問する。がんの末期などで、モルヒネの持続点滴が必要なときは、医師が処方し看護師が管理する。痛みが強くなってきたときはボタンで量を調整できる。患者に個室が用意できない場合は、居間にベッドを置くこともある。
介護用品は進歩し、尿を1リットルためられるオムツ、褥瘡(床ずれ)予防の空気マットなどにより、介護はずいぶん楽になった。エンゼルケア(死後処置)は、看護師と家族が行う。
一人暮らしの人の在宅看取りも可能であるが、そのときは、死亡後の財産の処理など一切の手続きを決めておく。家族、親戚がいるときは、承諾をとっておかないと、後で問題になることがある。
看取りを担う家族には、相当の心理的、肉体的負担がかかる。細かいことに気がつく人、自分にも他人にも厳しい人、几帳面な人には向かないであろう。むしろ、「鈍感力」のある人のほうが介護に向いている。
病院にも様々なタイプがある
経過が早く、入院治療期間も短い病気、たとえば、循環器病、がんなどの患者は「急性期病院」で治療を受ける。急性期病院はそのような病気に対応するため、人員、器材なども整っているが、その一方、長期の入院患者は、病院の目的に反するため保険点数が低くなる。
がん患者の終末期に、延命治療よりも、患者の痛みや苦しみを抑え、安らかな死を迎えるように配慮した緩和ケア病棟(ホスピス)が、大きな病院、がん病院などに準備されている。腫瘍精神科医など終末期医療の専門家、医療スタッフが対応してくれるので、患者も家族も安心して終末期を迎えることができる。
看取りの場として考えた場合、病院、介護施設、自宅のどれが望ましいかは、原則として、病気の特性と病状によって判断すべきである。
病院と自宅、介護施設で亡くなるときの違いは、診断と治療にも表れている。急性期病院は、診断のために必要な検査は念入りに行うが、介護施設、自宅は設備の関係もあり、死因を深く追究することはない。その結果、病院では肺炎や心不全といった具体的な病名がつくのに対し、自宅や施設では「老衰」と診断される割合が相対的に高くなる。
老衰が増えているのも、介護保険により、自宅、介護施設の看取りが増えてきたことの反映である。病院は医療機関として救命を優先的に考えるが、自宅および介護施設は、積極的な治療をせずに、延命よりも穏やかな死を第一に考える。

介護施設で死ぬのは、ケアしてもらえる安心がある
この章の最初に書いたように、介護施設で死ぬのは、本人にも子どもたちにも評判がよくなかった。しかし、介護施設での看取りは急速に増加し、2023年には15.5%、6人に一人である(図7-1)。今後も増えていくであろう。実際に看取りが可能かどうか、さらに不可能なときはどのように対応するのか、介護施設入所時に確認しておいたほうがよい。
突然死を除けば、ほとんどすべての患者は、最期には、医療と介護が必要になる。しかし、従来は、この二つを無理に分けていた。その点、第6章で紹介した「介護医療院」は、介護と医療で、終末期の医療をしてくれるので安心である。
突然死ぬ
世の中一般には、ピンピンと生きて、コロリと死ぬのが理想的と考えている人が多い。40歳から79歳までの男女792人にどんな病気で死にたいかを訊いた第一生命経済研究所(現・第一ライフ資産運用経済研究所)の調査[*5]を以下に示す。
- 心筋梗塞などである日突然死ぬ:64.6%
- 病気などで多少寝込んでもいいから、少しずつ死に向かっていく:31.7%
- 痴呆になって、自分では分からないうちに死ぬ:1.0%
「コロリ」と死にたい人は、「家族にあまり迷惑をかけたくない」(85.9%)、「苦しみたくない」(62.3%)、「寝たきりなら生きていても仕方ない」(54.3%)が理由であった。一方、「少しずつ死に向かっていく」を選んだ理由としては、「死ぬ心積もりをしたい」が67.9%、「家族にあまり迷惑をかけたくない」が32.9%であった。
考えてみよう。もしあなたが突然死んだら、遺された家族はものすごいショックを受けるであろう。そのトラウマは簡単に消えそうにもない。死ぬということは、人生の一大事であり、一大事業なのだ。それを突然終わらせるのは無責任というものである。高齢者と言われても、あなたは家族にとって大事な人だ。突然死んで、家族や周囲の人に迷惑をかけてはいけない。
病気を抱えながら生きるのも大変だが、死ぬ前にはそれなりの時間をかけて、愛する人たちにお礼を言い、友達に感謝し、身辺を整理して死ぬ。私はそれを「ピンピンごろり」ということにした。井上ひさしの本に出てくる「日本語は澄むと濁るで大ちがい ハケに毛があり ハゲに毛がなし[*6]」のパロディである。
「ピンピンコロリ」が許されるとすれば、長老高齢者になり、まわりの人も自分も、覚悟ができているくらいになれば、「コロリ」と死ぬのも悪くないであろう。「天寿」である。天に召されるめでたい死に方と言えよう。
言いたいこともあったろうに、何も言わずに突然亡くなった妻が可哀想だ。
一言の訣別の言葉告げ得なくあえなく逝きし亡妻あわれなり 木村辰男[*7]
死を見つめている老人たちは、苦しむことなく死ぬのを待っているのだろう。その気持ちは分かる。
老人ホームに死への願望漲りて突然死こそ羨望のまと 稲垣元博[*8]

一人で死ぬ
死ぬときは、誰もが一人だと言われるかもしれない。確かにその通りだが、誰にも看取られずに一人で死ぬのは、その後の始末が大変である。発見が遅れれば、遺体の損傷もひどくなる。
まず、孤独死の定義をはっきりしておこう。
「一人暮らしの人が、誰にも看取られることなく、疾病、あるいは自然死(=老衰死)すること」(したがって、事故死、自殺は含まない)。
前著『死ぬということ』を書いた2023年当時には、「孤独死」に関する信頼のおける公的データは東京都監察医務院の報告のみであった。東京都23区内の「異状死」は警察に通知され、監察医務院が解剖、死後CT検査などで死因を特定する。
その後、2024年に警察庁が集計したデータによると、東京都で7699人、全国では7万6020人が孤独死したそうだ。さらにまとめてみると、
- 全国の65歳以上高齢者の孤独死は5万8044人。
- 全死亡に占める割合はほぼ3.6%となる[*9]。
厚労省が調査した死因ランキング[*10]に孤独死の死者数を当てはめると、肺炎と誤嚥性肺炎の間に入り、第6位に相当する。こんなに多いのかと驚くような数字である。
さらに、東京都監察医務院が令和7年版として出したデータ[*11]と警察庁のデータ[*12]によると、
- 男女比2.23:1
- 循環器病による死亡が42.1%
- うち、虚血性心疾患が65.9%
- 58.1%は3日以内に発見されるが、29%は死後8日以上経ってから発見される。
条件にもよるが腐乱死体で発見されてもおかしくない。もし腐乱死体であれば、故人の尊厳を著しく傷つけることになろう。孤独死は、家族、遺された人に大変な精神的負担と迷惑をかけることになる。孤独死を避けるためにも、独居老人は、見守り装置をつけ(第4章)、身辺整理をしておこう(第5章)。
若いときからの友人が孤独死をしたと聞けば、そのショックは大きいであろう。
孤独死の友は今宵もわが夢に若き姿にてあらわれにけり 杉本秀[*13]
【脚注】
*1 内閣府「平成24年度 高齢者の健康に関する意識調査結果(概要版) 4. 調査結果 ½」
*2 日本財団「人生の最期の迎え方に関する全国調査」
*3 沓掛喜久男、朝日歌壇、2014年5月26日
*4 厚生労働省「人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡上巻 5-5 死亡の場所別にみた年次別死亡数・百分率」
*5 小谷みどり「死に対する意識と死の恐れ」
*6 井上ひさし『にっぽん博物誌』朝日文庫、1986年
*7 木村辰男、朝日歌壇、1997年2月3日
*8 稲垣元博、朝日歌壇、1997年1月13日
*9 「65歳以上の「孤独死」は5.8万人 24年、警察庁が初集計」日本経済新聞、2025年4月11日
*10 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況 統計表 性別にみた死因順位(第10位まで)別死亡数・死亡率(人口10万対)・構成割合」
*11 東京都監察医務院「令和7年版統計表及び統計図表 11 統計表及び統計図表 (15) 一人暮らしの者の死因」
*12 警察庁「警察取扱死体のうち、自宅において死亡した一人暮らしの者(令和6年)」
*13 杉本秀、朝日歌壇、1996年3月10日
* * *
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高齢者よ、君たちはどう生きるか

老後には、「知らなかった」では済まされない問題が次々とやってくる。いつまで健康でいられるのか。お金は足りるのか。介護が必要になったらどうするか。そして、どこで最期を迎えるのか。こうした不安の尽きない世界でどう生きるかを、89歳の高齢者であり医学者でもある著者が、自身の経験や短歌、ユーモアも交えて解説する。「せっかちで負けず嫌いな人は、心臓病になりやすい」「見守り装置を活用して、孤独死を防ぐ」など、死ぬその日まで病気をせず、人生を楽しみ切るための知識と知恵を凝縮した、〝老いの教科書〟決定版。
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最後は子どもにしたがう
●介護をする家族も大変だから、施設入所も受け入れよう
●「コロリ」と死ぬのではなく、
別れと身辺整理の余裕がある「ピンピンごろり」がよい











