老後には、「知らなかった」では済まされない問題が次々とやってきます。健康、お金、介護、認知症、孤独、死などなど、不安の尽きないこの世界を、どう生きればいいのでしょうか。
そんな超高齢社会の生き抜き方について、89歳の高齢者であり医学者でもある黒木登志夫さんが、ご自身の経験と医学的な知見、ユーモアを交えてまとめ上げたのが、『高齢者よ、君たちはどう生きるか』(2026年9月30日(水)発売・幻冬舎新書)です。本書から一部を再編集してご紹介します。
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酒はほどほどにたしなもう
酒は適量であれば身体によいという説があるが、反対の意見もある。2018年にランセットという臨床医学のトップジャーナルにアルコールと健康に関する大規模な調査研究が二つ続けて発表された。一つはアルコールは少量でも身体に悪いというデータ[*1]であったが、イギリスで行われた調査では、適量であれば、死亡率を低くし、虚血性心疾患を抑えるという結果であった[*2]。私は前著『死ぬということ』で、迷わずに後者の説を紹介することにした。その論文によると、1週間に200gのアルコールを摂取した人のほうが心臓病も少ないし、すべての病気の死亡者も少ないというのだ。週に200gというと、日本酒1合かビール500ml缶を毎日飲む量に相当する。日本人との体格の差を考えると、1日に350ml缶1本程度であれば健康によいことになる。高齢者に対して酒をやめろという根拠はなく、むしろ適量を飲んでくださいというのだ。こんなよい話はないだろう。
二人の歌人が、ほろ酔い気分で京都の町を歩いて行く。歩きながら、どこかでいにしえの歌人に会えるのではないかと思う。うらやましい酒飲みたちだ。
月下独酌一杯一杯復一杯はるけき李白相期さんかな 佐佐木幸綱[*3]
酔いはさめつつ月下の大路帰りゆく京極あたり定家に遭わず 永田和宏[*4]
しかし、前期、後期、長老高齢者を問わず、高齢者がろれつが回らなくなるまで飲む、あるいは千鳥足になるまで飲むのは決して勧められない。彼ら/彼女らの体力と機能は年相応に落ちているので、何が起こるか分からない。昔からの飲酒で肝臓も相当に痛めつけられているかもしれない。心臓も呼吸器も弱っている。酔っ払って風呂に入ると、突然不整脈が襲い、風呂で死ぬかもしれない。その上転んで骨折でもしたら、その後の生活の質に関わる。酔わない程度の酒をたしなみ、ときどきノンアルコールあるいは微アルコールのビールで肝臓を休ませるなどの注意が必要だ。

瘦せすぎも太り過ぎもよくない
若いときには、ほとんどの人が何かしらのスポーツをしていたであろう。しかし、社会人になり、歳をとってくるとだんだんおっくうになり、運動から遠ざかる。競技スポーツは若い人に敵わない。負けるのも悔しいので、やめてしまう。生きていくのに必要な基礎カロリーは年齢とともにだんだん落ちているのに、食べる量、飲む量は増え、その上運動をしないので、体重はだんだん増えてくる。中年太りである。
前期高齢者になっても、運動を続けてほしい。特に推奨されているのは、「有酸素運動」である。中等度の負荷により、体内の糖や脂質が酸素とともに消費されるような運動である。ジョギング、散歩、水泳などがこれに当たる。点を争うわけでなく、自分のペースで運動できる点でもお勧めである。
岐阜にいた頃、ちょうど前期高齢者であった私は、大学の帰りにはスポーツクラブで泳いでストレスを発散し、日曜には、標高329mの金華山に一人で登ったものだ。大好きだったスキーは、ついに80歳のときにやめた。腰痛に側彎症が加わり、さらに転ぶようになった。しかも転ぶと一人では立ち上がれず、助けを呼ばなければならない。これ以上続けていたら、怪我をしたであろう。側彎症による腰痛がひどくなった私は、「食って寝る」の生活に近くなり、反省することしきりである。
歳をとると好みもあっさりしてくると言うが、肉などのタンパク質をたくさん食べ、漬物だけでなく、青野菜のサラダをたくさん食べるようにしよう。

日本食は、カロリーも少なく、健康によいと言われているが、問題は塩分のとりすぎである。2019年の一日の塩分平均摂取量は男性10.9g、女性9.3gであった[*5]。大分減ってきたが、まだ厚労省の目標値の男性7.5g、女性6.5gにはほど遠い。ラーメン一杯には8g以上の塩分が入っていることも珍しくないので、ラーメンのスープを全部飲んだ翌日は塩断ちをしなければならない。
太りすぎを心配する人が多いが、日本人はそんなに心配することはない。体重の目安になるのはBMI(Body Mass Index)という数値である。体重(㎏)を身長(m)で2回割ると数値が得られる。この値が18.5から25のときを標準としているが、少し太り気味のほうが死亡率が低いことが分かった。このデータは日本人約35万人を12.5年追跡した大規模研究なので信頼が置ける。図3-1に示すように、男性ではBMIが23~27のとき、女性では21~27のときに死亡率が一番低い。BMI30以上の太りすぎは死亡率が高いが、BMI19以下の瘦せすぎは太りすぎよりもよくないことが分かっている[*6]。
定年後も、定期的に健康診断を受けよう
よい生活習慣を守ったとしても、あなたの身体の中では、病気が静かに進行しているかもしれない。多くの病気は、忍者のように隠密に忍び寄ってくるのだ。高血圧、心臓病、糖尿病、がん、腎臓病、肝臓病、結核、骨粗しょう症などなど、みんな忍びの名人である。これらの病気は、定期健診により、早いうちに発見できれば、命に関わるようなことはない。
ほとんどの会社員は、60歳で定年になりその後再雇用となる。社員だったときに半ば強制的に受けていた(受けさせられていた)会社負担の定期健診が、定年あるいは再雇用終了と同時になくなる。そして、多くの人は定期健診をやめてしまう。それが大問題なのだ。70歳代で生活習慣病になる人には、そのような人たちが多い。自分の健康は、自ら守らなければならない。
推奨できる健康診断の項目、がんの早期発見のための検査などは、前著(『死ぬということ』)に詳しく書いたので、ここではくり返さない。一つだけアドバイスすると、「腫瘍マーカー」「線虫テスト」のような検査をオプションとして勧められたら、PSA検査(前立腺がんの腫瘍マーカー)を除いて断ることである。PSAを除く腫瘍マーカーは「特異性」が低く、つまり、がん以外でも陽性と反応してしまう。線虫テストは信用できない。
長老高齢者になったら、検査成績に一喜一憂するのはやめよう。あれをしてはいけない、あれを食べてはいけないなどとうるさく言っても仕方がない。毎晩お酒を酔っ払わない程度に飲み、何でも食べよう。そして、働きすぎず、適当に運動をし、十分に寝る。それでよいのだ。

サプリに高い金を払うのはやめよう
紅麴(小林製薬)は、コレステロールを下げるサプリであった。しかし、製造過程でカビが混入しその毒で死んだ人が出た。私が最初に思ったのは、コレステロールを下げる目的であれば、スタチン製剤という優れた医薬品があるのに、なぜ効果も副作用も不確かな、しかも保険のきかないサプリに頼ったのかという疑問だった。
そもそも、サプリメント(Supplement)には、法律的、科学的な定義がない。特定の食品成分(たとえばビタミン)を濃厚に含む、薬と紛らわしい形(錠剤、カプセルなど)の製品という曖昧な表記しかできない。したがって効果、副作用などもきちんと調べられたわけではない。
しかし、問題なのは、テレビ、新聞などにあたかも効きそうな宣伝があふれていることだ。名前からして効きそうだし、テレビのコマーシャルに出るお年寄りは元気よく歩く(もともと元気な人を使っているだけだ)。しかし、世の中には、効果が科学的に確認されているものよりも、民間、伝承、自然、有機などのキーワードが好きな人がいる。そういう人ほどサプリに頼りがちである。

サプリは1カ月分で5000円以上になる。年金暮らしの高齢者にとってはかなり高いので、最初の1カ月は1000円などといって、カモをつり上げる。医療保険がしっかりしている日本では、サプリをやめて医薬品に頼るべきである。
サプリの中でも、「トクホ(特定保健用食品)」は、実際にヒトでテストを行い、テスト群と対照群(プラセボ群)の間に差があることが基本になっているので、一応信頼してもよい。しかし、問題は、「機能性表示食品」である。そもそも、スタートからして不純であった。2015年、当時の安倍晋三首相の規制緩和による経済成長戦略の一つとして「機能性表示食品」が登場した。「機能性」のお墨付きをもらうためには、自分で有効性を調べる必要はなく、文献調査で「効きそうだ」というデータが一つでもあれば審査なしに承認される。紅麴事件が起きるまで、品質保証の製造基準(GMP、Good Manufacturing Practice)を守る必要はなかった(紅麴事件はGMPを守っていれば、青カビの汚染がなかったであろう)。
何よりもエビデンスを大事にする私は、科学的エビデンスが弱く、効くかどうかも分からない「機能性表示食品」に対しては厳しく批判せずにはいられない。日本を代表するSウイスキーメーカーは、サプリのコマーシャルを派手に出し続けているが、同社のサプリ食品38種のうち、トクホは一つだけ、機能性表示食品は9種、残りは無印であることを指摘しておこう。
インチキな医療に引っかからないように
祈禱、お祓いほどではないにしても、世の中には、いかにも効きそうな仮面をかぶった治療法があふれている。中には、免疫療法、再生治療、電磁気による治療のような、いかにも科学的な名前のついた「インチキ医療」もある。病気の不安につけ込む悪質な医療は、正しい治療の機会を逃すだけでなく、時間やお金を無駄にしてしまう。注意点を以下に記そう。
- 「絶対に治る」「100%効果あり」などの表現があれば、まずインチキ。
- 高額な医療費、保険のきかない自由診療などと書いてあったら、インチキ。
- 海外で話題、特別輸入薬などは信用できない。
- 「お墨付き」や「権威付け」に注意。
- 経験談が列挙されていれば、信用しない。
- 派手な広告、有名人が出てくる宣伝は要注意。
- 医師が宣伝していても、論文があると言われても、そのまま信用しない。
- 書籍出版、論文発表、学会発表を強調していたら疑う。
- 疑問に思ったら、信用できる医師または病院に相談する。
なお、「厚労省に登録した、申請した」だけでは、効果が承認されているわけではない。実は厚労省は「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」を出しているが、効果を保証した治療法ではない。国が認めているので大丈夫であろうと考え、「再生治療」に引っかかって大金をとられた脊髄損傷患者の例をNHKが特集で報告していた[*7]。再生医療学会は、注意を呼びかけ、「YOKOHAMA宣言[*8]」を発表したが、厚労省に遠慮したような表現で分かりにくい。そもそも、この法律が施行された2014年の翌年には「機能性表示食品」が導入されている。安倍政権時代に作られた経済成長のための健康政策は要注意である。
【脚注】
*1 GBD 2016 Alcohol Collaborators. (2018). Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990‒2016: A systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016. The Lancet, 392(10152), 1015-1035.
*2 Wood, A. M. , et al. (2018). Risk thresholds for alcohol consumption: combined analysis of individual-participant data for 599912 current drinkers in 83 prospective studies. The Lancet, 391(10129), 1513-1523.
*3 佐佐木幸綱『直立せよ一行の詩』青土社、1972年
*4 永田和宏『人生後半にこそ読みたい秀歌』朝日新聞出版、2025年
*5 厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査報告」
*6 国立がん研究センター がん対策研究所 予防関連プロジェクト「科学的根拠に基づくがんリスク評価とがん予防ガイドライン提言に関する研究」
*7 NHK「国は審査していないのに… 自由診療の“再生医療” 広告に注意」(現在は配信終了)
*8 「日本再生医療学会YOKOHAMA宣言2025」
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病気やお金、介護、死への不安を減らし、人生の後半戦をイキイキと楽しむ秘訣を知りたい方は、幻冬舎新書『高齢者よ、君たちはどう生きるか』をお読みください。
高齢者よ、君たちはどう生きるか

老後には、「知らなかった」では済まされない問題が次々とやってくる。いつまで健康でいられるのか。お金は足りるのか。介護が必要になったらどうするか。そして、どこで最期を迎えるのか。こうした不安の尽きない世界でどう生きるかを、89歳の高齢者であり医学者でもある著者が、自身の経験や短歌、ユーモアも交えて解説する。「せっかちで負けず嫌いな人は、心臓病になりやすい」「見守り装置を活用して、孤独死を防ぐ」など、死ぬその日まで病気をせず、人生を楽しみ切るための知識と知恵を凝縮した、〝老いの教科書〟決定版。
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最後は子どもにしたがう
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