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彼方からの手紙

2026.09.28 公開 ポスト

怒りの踏ん張り清水ミチコ/光浦靖子

引っ越しは、とんでもないトラブルに巻き込まれ中止となりました。話す(書く)と長くなるので割愛しますが、ま、ここ1ヶ月ストレスフルな日々を過ごしていました。そして胃をやられてしまいました。胃痛がひどい。ヒリヒリします。久々にカレッジの同級生たちと食事する機会があったのですが、胃が痛くて。でも食べないのは空気を悪くするし、実際食べたいし。口と胃が別々の要求をしてくるんですね。こっそり胃薬を飲みながら食事しましたがきつかった。

 

そしてホームドクターのところに行きました。こちらでは日本のように、内科や皮膚科や婦人科など、専門医に直接行くなんてことはできません。まずはホームドクターに診てもらって、そこからそういった専門医への紹介状をもらって診てもらえます。このホームドクターを見つけるのも大変で、政府のなんつーの、マッチングアプリみたいなもんに申し込んでマッチングするまでに私は2年近くかかりました。そのホームドクターで初めて受診しました。

「なんか薬飲んでる?」と聞かれ、「日本のガスター10を飲むと楽になります」とチャットGPTを挟み説明すると「ああ、じゃ、胃酸過多だね。薬を出しとくけど、一応、検便と血液検査もしよう」と。

で、その足で近くのラボに行き、血液検査をし、検便キットを二つもらいました。

嫌なことは早く済ませたい、そういう性格ですので、翌日、トイレで踏ん張りました。一つのキットを無事済まし、もう一つのキットを開けると、中に入ってるはずの液体の小袋Aと小袋Bというものが見当たりません。あれ? 袋をひっくり返してもありません。まさか? カナダ人は大らかと言いますか、詰めが甘いと言いますか、おっちょこミスがちょいちょいあります。またか。

一つは済ませてしまったので、家に長く置いておくことはできません。注意書きには、「7日以内にラボに持ってゆくこと、その間、冷蔵庫に保管すること」と書いてありました。「食べ物とは別にしておくこと」とも書いてありました。これは衛生的な問題で書いてあるのか、間違えて食べちゃう人がいるのか、どういう意味なのかわかりませんでした。一般家庭には検便用の冷蔵庫はありません。食べ物を入れる冷蔵庫の中に検便は保管していいんですよね?

袋で三重包装して冷蔵庫に保管しました。

やっぱ気持ち悪いので、翌日、ラボに済み検便と、未使用検便を持って行きました。

その日のラボはとても混んでおり、受付を待つ列は廊下にまで続いていました。なぜ今日に限って? 帰ろうか迷いました。でもまた便を冷蔵庫に保管するのは嫌だし、入ってなかった小袋をもらうのにまた出向くのも面倒だし。いろんな人が受付に「予約時間から30分は経ってんだけど」と言ってたり、「〇〇〇で来たんだけど」と言ってたりしてるのですが、みんな「並んで」と仏頂面で手でシッシとされるだけでした。

列に並び30分ほど経ち、次は私の番だ、てところで列が止まりました。

10分経ちました。もうぼちぼちかな? もうすぐかな? まーったく動く気配がありません。あれれ? 二人いた受付も一人になりました。え? 休憩にでも入ったのか? 

そこから20分ほど待ちました。腰が痛い。動いていると平気なのですが、私はただ立っていると腰が痛くて。もう帰ろうか? 挫けそうになった時、後ろからズンズン横入りしてきた女性がいました。そして受付で「検便持ってきたけど」と言うと、受付は無言でそれを受け取り、後ろのボックスにポイ、それで終わりでした。え? え? え? 検便のドロップオフは並ばなくていいの? 私の1時間の待ち時間は、む、む、無駄? いやいやいや、私は彼女とは違い、小袋A、Bをもらわなければいけないので、ここに並ぶ必要があるわけで、でも小袋を忘れたのはそちらさんのミスで……悔しいやら虚しいやら腹が立ってきました。が、自分の待ち時間1時間を無駄だと断定したくないので、並び続けました。

その10分後、やっと私の番が来ました。済み検便を渡し、もう一つの袋を見せ「この中に小袋AとBが入ってなかったけど」と言うと「うん、入ってないよ」と。え? え? え? 「説明書には液体A,Bを容器に入れて、そこに便を」「あ、なくていい。便さえ入れれば」え? え?え? え?
 
腰の痛みに耐え1時間10分並んでいたのに、無駄だった。無駄だった。無駄だった。またここに便を届けにこなきゃいけないのか。もう、ここに来るのは嫌だーー! 悪いのは自分です。勝手に小袋A、Bが必要だと思い、並んでいたわけで、この怒りの行き場はどこにもありません。 

腹が立って、腹が立って、その怒りとともにトイレに行き、その怒りを下っ腹に込め、力一杯踏ん張ってやりました。怒りのおかげで、なんと! 出たんです。

3分後に受付に検便を渡しました。受付がちょっと驚いた顔をしていました。やってやったぜ。なんか勝った気になりました。

日本のように時間に追われることのない生活をしています。のか?

【靖子の近況】

キャンプへ行きました。みんな川遊びしてる間、一人でのんびり

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『ようやくカレッジに行きまして』『ようやくカナダに行きまして』『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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