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彼方からの手紙

2026.05.28 公開 ポスト

おばさんが一番好き清水ミチコ/光浦靖子

私も子供の頃は男になりたかったです。早く走れるし、なんか人間関係が楽(らく)そうに見えたので。でも大人になってからは断然、女がいいです。というか、おばさんがいいです。人間の種類の中でおばさんが一番明るそうで、一番強そうに見えます。同級生を見る限り、おばさんの今が一番付き合いやすいです。私はずっとおばさんでいたいです。

 

私は子供の頃から年上というか、大人というか、おじさん、おばさんが好きでした。なぜならうちの両親がひじょ〜に厳しかったからです。非常に厳しく育てられると大人嫌いになるかと思いきや、反対で、自分の親に比べたら大人はみーんな優しく見えて、実際に優しくて、大人好きになるんですよ。逆に子供は嫌いでした。だって子供って残酷じゃないですか。10代女子なんてボス猿みたいな子が必ずクラスにいて、何がトリガーで機嫌が悪くなるかわからなくて、その取り巻きも意地悪で。
 
光浦家の厳しいしつけを受けていた私は、渥美半島の、どれだけ膝が粉をふこうが冬でも短パンの、給食の牛乳を2秒で飲み、絵の具は白色なら食べられると豪語するガサツな子供たちの中に入ると、普通にしているだけで良い子になってしまいました。友達の家に行っては驚きました。「え? お宅では何をしても許されるんですか? 無法地帯なんですか? え? これが普通? これがジ・ユ・ウ?」と。ただそこにいる、息をしているだけでそのお家のおばさんらに褒められました。「やっこちゃんは良い子だねぇ」と。お菓子もいっぱいくれました。

友人のように「やっちゃん」でなく、おじさん、おばさんたちはみんな私を「やっこちゃん」と呼びました。(アクセントは「や」につけます)。小さい「つ」の後に「こ」。その響きって、何か優しさに包まれている感じがしませんか。抱っこ、ラッコ、マリメッコ。椿鬼奴を除いて、ほら全部優しいでしょう? やっこちゃんと呼ばれると、私はほんのちょっとだけ人懐っこくなるのでした。

人間常に両思い。こちらが好くとあちらも好く、こちらが嫌うとあちらも嫌う。私から好き好きオーラが出ていたのか、大人から結構好かれました。芸能界に入っても、同期、後輩、近い先輩は付き合うのが苦手で、つーかもはや誰とも付き合えず、でも逆に大御所と呼ばれる人らには話しかけることができました。俳優の中尾彬さんとは妙に気が合い、中尾さんの楽屋でお茶などしてたものです。「お前、なんで毒をブスと読むか知ってるか? トリカブトの毒を喰らった人間の苦しむ顔が、こう、醜いだろう? だから毒をブスと読むんだよ」と、私の顔を見る度に低音の響く声で教えてくれたのが懐かしいです。

20代の頃はずいぶん年上の人と仲良くしてもらい、30代の頃は少し上の人と仲良くしてもらい、で、今は同世代の女友達が多いです。気付きました。私は一貫して中年、特におばさんが好きなんですね。

清水さんと初めて仕事をしたとき、清水さんは私の印象が悪かったと言いますよね。それはきっと、悪い意味で、清水さんからおばさん臭がしていなかったんでしょうね。だから私がお得意の警戒信号ウィンウィンで、嫌な感じになっちゃったんですかね。で時が流れ、次に会ったとき、いい意味で清水さんが立派なおばさんに成長されていて、だから私が心を開いたんだと思います。

「どこからが浮気ですか?」と同様に「いつからがおばさんですか?」という飲み屋系質問があるじゃないですか。答えが出ましたね。私が懐いたらおばさん、これです。

実は3年前、帰国したとき、相方の大久保さんが好きになりました。去年帰国したとき、いとうあさこが好きになりました。もちろんどちらとも良好な関係を築いていましたが、それが深まったというか、、、今更ですけど好きになったんですね。そうです。テレビでおばさんをネタにしていた二人でしたが、実は若かったんですよ。それが近年、二人は本当のおばさんになったんですよ。だから私が懐いちゃったんですよ。よかったです。これで二人のおばさんネタに厚みが出て、これからも二人は芸能界安泰です。よかった、よかった。
 
人の喜びを自分のことのように喜べるようになると、人は苦しみから解放されるそうです。ここカナダで、笑い飯の哲夫さんのサタデーナイト仏教のポッドキャストを寝る前に聞くのが日課です。

【靖子の近況】

散歩して美しい花の写真を撮ることばかりしています。おばさんになりました。

 

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『ようやくカレッジに行きまして』『ようやくカナダに行きまして』『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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