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彼方からの手紙

2026.06.28 公開 ポスト

阿吽の無呼吸清水ミチコ/光浦靖子

おばさんになると幸せになる。精神的に楽になり、全体ほがらかになる。

これは本音ですが、自分が若い頃は実はそういった言葉を聞くたび読むたびに、(また負けず嫌いで言ってるのでは?)と疑ってました。「顔のシワより、洋服のシワの方が気になります」と雑誌クロワッサンにあったコピーなんかを読みながら、(またまたまた~)と思ってたんですよね。

こればかりはおばさんになってみないとわからない真実。いろんなものがゆるんで、そのために許容範囲がどっかり広がるんですな。だからメンタルがラフでおおらかになれる。おばさんの自殺という記事もまずあんまり見ないのも、自我への深刻さが剥がれ落ちてくれてるからかもしれません。

私を担当のメイクさんの話です。高校時代、クリスマスの日にバスの中で、寝すごしてしまったことがあったそうした。雪の中、間違った駅で仕方なく降りながら、(自分はなんてバカなんだろう。しかもクリスマスじゃないか)と、やたら深く傷ついたらしく、(あ、あそこに川があるから飛びこんで死ねる)と、発作的に橋まで歩き、水面を眺めると、しばらくしてはっと我に返ったことがあるそうです。

そんな程度のことで? と、思うような話ですが、そこはかとなくわかります。10代とはほんとに過敏で、異常に自分に厳しく、罰したがる。この心理を私は義務教育に入れてほしいくらいです。「今が一番弱いようにできている」と。

しかし、メンタルが広がった代わりに悪いことも起こっています。それはだんぜん身体のガタつき。そもそも身体というものは全て自分の指令通りに「阿吽の呼吸」で動いてくれるものでした。

一番先頭に私というものがあって、その下に配属されてたのが肉体。信頼のきずなで結ばれていたはずが、ここ10年ほどで事務所を独立して、フリーになってしまった。そんなワガママボディーです。

命令しても無視、話が通じない。いや、助けてという電話にすら出てくれない。そんな感じ。身体という他人が私の中にいるみたいで、いつのまにか身体という別人に、足の組み方や腰の折り方など、気がつかれないよう、痛まないよう日々気を使って生きてるみたいです。昔は「痛い!」と文句を言えば、「すみません!」と、数日で痛みを消してくれました。「二日酔いだよ」と言えば「かしこまり」と、翌日の昼過ぎまでには解決。

ところが今やもう召使いじゃないらしく、応答もしてくれません。ほがらかさの裏にはそんな現実が横たわっていたんですよ。

基礎代謝も衰えてるため、肥満傾向がすぐ進み、身体がだるい。何度か行く夜中のトイレで目が覚めがちなど、身体の反抗期の枚挙にいとまがありません。

努力もしてます。まず、花粉症軽減のために6月からは一年ほど、花粉薬を毎晩なめることにしています。これでムズムズを鈍化させてるんですよね。

来月は老眼、白内障の手術を受けることになり、いよいよ瞳のレンズの取り替え。瞳はダイヤモンド~のメロディで瞳は人工レンズ~(ややしゃくりあげる)と、覚えてください。

そんなわけで私はだんだん人造人間になりつつあります。肥満防止のためにリブレも装着し始めました。ちなみに光浦さん、このリブレというの知ってましたか? いつか伊集院光さんとすれ違った時、ずいぶんやせられたな! と思ったところ、どうやら腕にリブレというものを貼り、スマホで血糖値をチェックするようになってから、スムーズに健康管理ができるようになったのだとか。噂以上に、スッキリしてきたお姿に感心した私は、さっそく試してるところです。

健康と聞けばすぐに採用する私。リブレは数値がすぐ出るためか、糖分を抑えるのが小さな楽しみにもなってきました。痩せると言ってもいま話題のマンジャロではなく、「検査キットのみナンジャロ?」と覚えてください。

そればかりか筋肉の衰えを軽減するために週に2回はプールで、ラジオや音楽をBluetoothで聴きながら1時間ほど歩いてます。人生の後半は体調のために生きる。こうしてボロくなった自分のことを少しづつメンテナンスするうちに、あら不思議。だんだん可愛く、好きになってきています。

コンプレックスの塊のような人も、おばさんになってすっかり明朗になるのも、このだるだる感のなせるわざ。まあいいじゃないのと平穏無事に、他人へのやっかみや嫉妬も薄まり、私は自分の仕事や芸風すら好きになってきました。

これはお客さんのおかげかもしれないけど。私は私を好きな人が大好き。光浦さんも大好き。お客さんは気がついてないかもしれませんが、私はめっちゃお客さんのことを好きで、いつも大サービスをしたいと心から思ってる派閥。

思えば自分を好きになれるほどの人生の武器はなかったですよね。と、この気づきは私立清水中学の校歌に入れるつもりです。

【シミチコNEWS】知り合いのお嬢さんが、イラストで私にヨイショしてくれました。

 

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『ようやくカレッジに行きまして』『ようやくカナダに行きまして』『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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