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彼方からの手紙

2026.08.28 公開 ポスト

プール、何面?清水ミチコ/光浦靖子

光浦さん、引越しはうまく行ってることでしょうか。どんなきっかけにしろ、引越ほど心機一転になる体験はないものなので、とことん人生の進化、心境の変化を味わえるといいです。私は長いローンが終わった家だし、もう引越しなんかはありえなさそうで、移動できることはそれだけで若さの証明だなあと感じています。

ちなみに自分の住まいで気に入ってるところは、2分ほど先のところにスポーツジムがあったこと。思いついたらすぐプールに飛び込めるんですよ。これもうプールを一面所有してるようなものですよ。一面でいいのかしら、プールの数え方。光浦さんは何面お持ちかしら。

でもしょっちゅう夢で見てしまうのは、自宅の裏庭にプールがあるのだけど、長年洗ってなくて行ってないから、多分ブヨブヨに緑のコケでおおわれてる。掃除もしたくないから見に行かずに目をつむる。悪臭にも鼻をつまむ。ああ、なんであの時プールなんか作ってしまったんだろう。そんな夢。目覚めると、もし本当にプールを持ってたら結構こんな面倒も抱えるのかもしれないなあ、などと思い、持たなくて良かったなあと安堵しながら起き上がるまでがマイ・モーニング・ルーティンです。

でも実際の話、プールは持てば数年で人は持て余すとはよく聞きますよね。湿気の多い日本では、家に水を貯めておくことって、維持費やカビやなんかでなんだかんだ難しいんだそう。

家を建てる時に、これを作ればいいという浮かれた話よりも、これはない方がいい、という現実的な回避の方が重要な情報なんだなと痛感したものです。こういう夢のない本をどこかで出してくれないでしょうか。

建築家の方に「もしかしたら将来的に、夫の親が同居するかもしれないので、それ用の部屋も一室作っておきたいです」とお願いしたところ、なんとこう返されました。「これまでもよく相談されてきたお話ですが、9割の親御さんがだいたい来ませんよ。ほぼイヤがるんです。人間、慣れほど大事なものはないらしくて、あちらはこちらが思ってる以上に子供の新居で暮らしたくはないものなんです。そして作った部屋は倉庫になりがち」とのこと。そんな事実は、どこのインテリア雑誌にも掲載されてませんよね。一見感じ悪いから。体裁が悪すぎるから。「10月号、親は引越してこないよ特集」見たことないです。

さらに、私には屋上を持つのが憧れでした。こだわって作りたかったというのに、「奥さん、意外とできてみるとね、屋上って行かないもんですよ、不要なんじゃないですか」と、建築家。しかしこれには断固として従いませんでした。(ああ、あなたはまだ私がいかにロマンティストな人間であるかを知らないんだよね。人を見た目で判断する可哀想な人)と、がんとして首を縦に振らず、フェンスも階段もしっかり作ってもらいました。「一面の屋上とそんな私の一面が同居する家」(11月号)。しかし、作ってる途中で建築家がさも残念そうにまたこう言いました。「ま、2年も経てば一年に一度も登らなくなるもんですけどねえ」。クソが! 

ところがです。いざできてみると本当にその通りなのでした。最初はよく登ってました。星空をながめながら横になってラジオを聞いたり、夏は星空の下でヨガをしてみたり、友だちとご飯会で満月に乾杯! など楽しかったのですが、なるほど2年くらいすると、なにもわざわざヨガマットを抱えて階段を登るこたあないわな、ワイン割れたら面倒だしなあ、後片付けもお盆持って下げる時が危ないしなあ、など思うようになり、すこぶる面倒な持ちものになってきました。「理想は階段に負ける特集」12月号です。

こうして私は見た目通りの人物だったことを認めるにいたりました。もちろん、あってもいいんですよ。でもあの時わざわざ作らなければ、掃除もいらなかったんだわ、と今では思えてくるのです。ほうきで掃くたびに、鳥のフンや羽が多いことにもびっくりさせられます。東京でもこんなに鳥がやって来るもんなんだな、自然てのはすげぇな、かなわねえなと。

たまたまですが、高山に今もある実家でも、不思議と雨漏りすることがあって大騒ぎしました。すぐに調べてもらったら、なんとやはり屋上に雨水が溜まっていたとのこと。なんでそうも流れてなかったかというと、鳩が排水口に巣を作ってたらしく、誰も気がつかなかったせいで雨が降るたびに毎回溜まってたのだそうです。新年号「屋上に鳩のプールのある家特集」。ハトって、賢そうに見えてあと先考えないんですよね。ヒナはどうするんだよ、巣もハトだけにピジョンピジョンでしょう。(拍手聞こえました。ありがとうございます)

ちなみにその建築家は「玄関のシューズボックスの下に、狭くても隙間を作っておくと、サンダルなどお客さんが来たなんて時にさっと隠せる場所になって便利ですよ」とのことで、その通りにしてみたところ、なるほどとても助かりました。思えば率直に指摘してくださったいい建築家でした。この場を借りてクソ発言をお詫びいたします。

【シミチコNEWS】引越しといえば、松尾スズキさんの物件についての新刊がものすごく面白いかったです。

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『ようやくカレッジに行きまして』『ようやくカナダに行きまして』『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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