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彼方からの手紙

2026.07.28 公開 ポスト

煙に押されて引っ越します清水ミチコ/光浦靖子

白内障の手術ですか? うちの両親もやりました。今じゃとっても身近な手術みたいですね。私もいずれはやろうと思っています。そしてついでに度の入ったレンズも入れてもらおうと思っています。現在、ド近眼の老眼で、本当に近くも遠くも見えないんですよ。去年作った遠近両用メガネでももう見えません。アイラインは心眼で引いています。

たまーに「どうした? 笑かそうとしているのか?」という、変なメイクの人いますよね。その変なメイクをやめればいいのに、とは思っても、メイクについてコメントはしにくいもんです。なので変なメイクの人が野放しになっているのですが、そんな変なメイクの人に今や私がなっているかもしれません。自分の目ではどのような様か見えませんので、目の上に目を描いてるような、以前来日した時のレディ・ガガのようになってるかもしれないのに、誰も注意してくれないので。

 

でも、そんなことどうでも良くなりました。私が変なメイクをしているからって、私といるのが恥ずかしいと思ったり、私のことを嫌いになるような人だったら離れてゆくがいい。そんなケツの穴の小さな奴は、どっかへ行きやがれ!

開き直りと孤立、その塩梅を探すのが次の人生の課題になることでしょう。


そういえば以前、下の住人のバーベキューの煙に困っている、と書きましたよね。その住人、去年の冬に私が日本に帰国中に引っ越して行ったみたいで、ラッキーでした。あの嫌な奴らがいなくな、あ…嫌な奴って言ったら口が悪いけど、でも以前の下の住人は特に女性の方がね…。

ある夜、こんなことがありました。どうやら下の住人のバスルームの天井から水が滴ったみたいでした。ここのアパートは古く、ある時期、いろんな水道管がバーストして、いろんな部屋で水漏れしていたんですね。酷いところは足首まで水浸しになってました。彼女は夜中に私の部屋に乗り込んできました。「お前が風呂の水を溢れさせただろ?」と怒り心頭で。私は普通にシャワーを浴びただけで、水を溢れさせていません。違うと言っても疑り続けて納得してくれません。なので、じゃ、自分の目で見てよ、と風呂場を見せました。彼女は私を罵ろうと怒りを溜めていたのに、普通の状態の風呂場を見て、あ、ああ…と、怒りの行き場を失ってしまいました。

そこで帰ればいいのに、なんでしょう、プライドが高いのか、なんとしてでも私に何か文句をつけたいのか、キョロキョロ、キョロキョロ、あ、これだ! なんかわからんがとりあえず閉めとけ、みたいな感じで、便器の後ろにあったトイレの水の元栓を閉めました。そして「いい加減、気をつけてよね」みたいなことを私の顔に言い放ち、プリプリ出てゆきました。はああ???

トイレの水の元栓を閉めたら、私はトイレを使えません。小ならまだしも大ならどうする? つーか、トイレの排水管が原因なのか?

ビルディングマネージャーに聞くと「ヤスコは全く悪くないから。いつも通りトイレもお風呂も使っていいわよ」と言われました。

そんな奴らが引っ越したのでこれで平和な生活ができる、神様ありがとうございます、と本当に心から感謝していたら…新しく入ってきた人らがこの夏、バーベキューを始めました。狭いアパートのベランダで、私のベランダは彼らのより半分引っ込んでて、しかも風は正面から吹いてくる。どうしなくても煙は全て私の部屋に傾れ込んできます。頻度は週に4回です。いよいよ、カナダを離れる時が来たのかもしれません。というか、もう、金に糸目をつけず、ただ静かで臭いのしない住居に引っ越そうと思います。金に糸目はつけないです。もう人生も半分過ぎたし、なぜ私は老後のためにと金を溜めて節約生活をしているのか、と思った次第です。


今年のFIFAワールドカップはメキシコ、カナダ、アメリカで開催でした。ここバンクーバーでも7試合が行われました。その7日だけ、バイトに入りました。屋外の売店でハンバーガーなどを作るバイトです。駐車場のようなところに建てられたテントで、グリルやスチーマーなど火に囲まれ超暑いです。でもメンバーがいいのと、正味、1時間半がクソ忙しいだけで、なんとか楽しく終わりました。今、お昼のハンバーガーの残りを食べています。冷めたチーズバーガーを頬張りながら、夜空の星を睨んで、金を使ってやる! そう思いました。


バンクーバーの夏は涼しいです。世界一の夏ではないかと思います。日差しはとても強いので日向に出たら暑いのですが、湿度は低く、海から吹く風は冷たく、日陰に入ったら涼しいです。なのでバンクーバーでは北側の部屋が好まれます。私の部屋は窓を開ければその涼しい風が吹いてきます。クーラーなど入りません。天窓もあって明るく、本当に最高のお気に入りの部屋です。ここのアパートメントは全て1ベッドルームです。お隣はその1ベッドルームに4人で住んでいます。父、母、小学生くらいの二人の息子。なかなか狭いと思いますが、ま、それは大きなお世話ですね。その彼らがどえらい重低音のドゥン、ドゥン響くステレオだかなんかを購入したみたいです。一昨日から朝から夜中まで、ドゥン、ドゥン、やっています。薄い壁を伝わり体に響いてきます。そんなステレオを買う金があったら引っ越しなさいよ、と思いました。

昨今、日本でも移民が問題になっているようですね。郷に行っては郷に従え、わかります。ここバンクーバーは移民の都市で、このアパートメントもいわゆる我々が想像するカナダ人、先祖がヨーロッパからの白人カナダ人ばかりではありません。いろんな国の人が住んでいます。いろんな文化が混じっています。「お隣さんに気を使って住む」というのは日本の文化であって、ここバンクーバーでは「お隣さんに寛容であれ」が文化みたいです。郷に入って郷に従えないなら国に帰れ、そう言われるのは私でしょう。

【靖子の近況】

Banffというところへ旅行に行った翌日にバイト

 

関連書籍

清水ミチコ『カニカマ人生論』

すぐに「気負け」して泣いてしまう少女の頃の笑えて切ない思い出。永六輔さん、タモリさんはじめたくさんの大切な人たちとの巡り逢い。自分の弱さやセコさにぶち当たりながらも、日常の些細な面白みを慈しみつつ、「若い頃よりクヨクヨしなくなった」と思えるようになるまでの様々な出来事。武道館を沸かせる国民の叔母(自称)の、自伝エッセイ。

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彼方からの手紙

清水ミチコさんと光浦靖子さんが月1回手紙を送りあうリレーエッセイ

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清水ミチコ

岐阜県高山市出身。1986年渋谷ジァンジァンにて初ライブ。1987年『笑っていいとも!』レギュラーとして全国区デビュー、同年12月発売『幸せの骨頂』でCDデビュー。以後、独特のモノマネと上質な音楽パロディで注目され、テレビ、ラジオ、映画、エッセイ、CD制作等、幅広い分野で活躍中。著書に『主婦と演芸』『「芸」と「能」』(共に幻冬舎)、『顔マネ辞典』(宝島社)、CDに『趣味の演芸』(ソニーミュージック)、DVDに『私という他人』(ソニーミュージック)などがある。

光浦靖子

1971年生まれ。愛知県出身。幼なじみの大久保佳代子と「オアシズ」を結成。テレビやラジオで活躍する一方、手芸作家、文筆家としても活動。著書に『ようやくカレッジに行きまして』『ようやくカナダに行きまして』『50歳になりまして』『お前より私のほうが繊細だぞ!』『傷なめクラブ』など多数。2021年8月よりカナダに留学。現在は、就労ビザを取得し、カナダで生活を続けている。(写真:山崎智世)

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