先の見えない霧の中にいるかのような第1話がまだ記憶に新しいが、ついに先日最終話を迎えたドラマ「Tシャツが乾くまで」(TBS)。
回を重ねるごとにその霧が晴れていくような物語のグラデーションは、まさに徐々に汚れが落ちていく洗濯物のようだった。
今回も言わせて欲しい。3ヶ月、早かった。
ドラマ放送開始時とは打って変わって季節はすっかり秋めいて……と思ったら、今日は快晴。
また夏に逆戻りか? と思わせるようなこの蒸し暑さは、同じような気候だった第1話放送時のことを思い出させた。
それぞれ異なる夫婦から1名ずつ乗り合わせていた、高速バスの不運な事故。それにより1人は他界、1人は行方不明に。
なぜか一緒に乗り合わせていた瀬尾充(松山ケンイチ)と園田あずさ(夏帆)の関係に、日本中が注目していた。
不倫なのか? 兄妹なのか?
施設がどう……とか?
視聴者の予想のおおよそ全ては覆り、2人は名前のない関係として毎月第3金曜日のコインランドリーでお互いのパートナーには言えない話をしていたのだった。
理解し難いこの関係に最初は戸惑ったものの、2人は本当にプラトニックな関係であり、ただただこの場所でお話をすることがお互いの夫婦円満のために必要なことであったのだ。
男と女が親密にしていると、すぐ男女の関係だと思ってしまう日本人の思考を活かした脚本の妙である。
しかし最終話を迎える前、私は思った。
咲子の“離婚歴4回”が第8話で明らかになったんだ。最終話でも何か大きな爆弾を落としてくるに違いない……と。
「実は不倫関係だった!」なんて大胆なオチが来る覚悟でいた。
失踪癖と離婚4回を突きつけられた視聴者だ。
来るならなんでも来い! とドッシリ構えていたことだろう。
……結果は最終話でご覧の通り。はい、すみません。
描かれたのはむしろ、優しさのどんでん返しであった。
私、考察向いてないのかもしれません。
失踪癖、離婚歴を経て、最後は幸せのどんでん返し。
最終話まで決して明かされなかったペアチケットの真実。
過去のトラウマにより咲子は花火大会(正確には人混み)へ、樹生(中島歩)は水族館へ行くことに抵抗がある大人になっていた。
そんな中、いなくなった充とあずさの衣服のポケットから見つかったのは、それぞれのパートナーが苦手な上記2つの場所のペアチケットであった。
この出来事もまた、2人の関係を疑う材料となり、かなり翻弄されたことを思い出す。
翔くん(久保田薫)の分がないなら、不倫確実だろう! と。
しかし、そのチケットはお互い正規のパートナーと行くために用意していたものだったのだ。
充はベランダから花火を見る咲子の嬉しそうな顔を見て、このペアチケットであれば人混みを回避して花火を見ることができると思い、チケットを持っていたのだった。
充、何度も疑ってごめんな。

第3金曜日のコインランドリーで「この席ならさっちゃんも大丈夫そうですよね?」なんて、充とあずさは話していたのかもしれない。
花火大会はだいぶ先の予定であったことからも、充の失踪は様々な記憶が思い起こされ、気持ちが湧き立った結果の突発的な行動であったことが改めてわかった。
充はしっかりと咲子に向き合い、愛していた。
「失踪癖があるのになぜ結婚した?」という声も聞こえてくるが、充にとって咲子はそれでも一緒にいたいと思えた初めての相手だったのだ。
もちろんその情報を言ってあげた方が良かったに決まっているが、充も言っていたように“嫌われるのが怖かったから言えなかった”。
あなたもないですか? 嫌われるのが怖くて親しい人や家族に言えないこと。
それでも一緒にいたいという、良いとか悪いとか、理屈や正論では片付かない行動をすることもまた人間あるあるのように思える。
結婚生活を経て、充の帰れる場所となった咲子。
そして家族への憧れに縛られていた咲子の呪縛を解き放った充との離婚。
お互いにとってこの結婚と離婚は必要なプロセスだったのだ。
そしてあずさの水族館のペアチケットも、翔くんと家族3人で行くために夫婦で行く予行練習のためのもの……というのは建前であり、あずさはただ樹生と2人でデートがしたかっただけなのだ。
なんてキュートなの、あずさ。
これもペアチケットであるがために、充とあずさの関係を疑うに拍車をかけたアイテムだった。
しかし真実が明らかになった今もその脚本に不自然な点は見当たらない。
「この状況なら人はこう判断するだろう」という思考を逆手にとった幸せのどんでん返し。
どこか思考実験のような脚本だ……恐るべし。
最終話にして、充とあずさの関係が本当にプラトニックであったことが証明されたといえる。
もちろん見えてない部分、充とあずさにしかわからない温度感はあるだろう。
だがそこを疑う余地がないくらいに充から咲子への、あずさから樹生や翔くんへの愛を感じるには十分すぎる最終話の描写の数々であった。
充が語りかけた少年は“あの時の自分自身”
充とあずさは、それぞれの道を歩むことになった。
名残惜しそうに霧吹きを洗濯物にかける2人が、愛らしくて仕方なかった。
別れる必要ある? と思わずにはいられなかったが、最後だからこそ、あの空気になれたのだろう。
そして失踪癖のある充が家を出て、あてもない旅へと出発したのだった。
……いや、旅なのか、失踪なのかはわからない。
小学校の時、行き先もなく初めて失踪をした充少年。
あのバスで充が語りかけたのは紛れもなく当時の自分だった。

子役が同じ……というのも勿論あるが、いつまでも心の中にいる小学生当時の充自身、インナーチャイルドに充は語りかけたのだろう。
「大丈夫、大人になると帰る場所、増えるから」
ひとりぼっちで失踪を繰り返していたあの時の自分を優しく抱きしめてあげるかのような充の言葉。
その失踪を決して否定するでもなく、その先で出会えた帰る場所の存在を教えてあげる充。
「だから心ゆくまで失踪しなさい、いろんな人に出会えるから」という言葉が続いているような気がした。
不条理さの象徴、あずさ
最後に咲子の元を訪れたのは言わずもがなかぼちゃ嫌いな充だろう。
ハッピーエンドと言っていいこのドラマで唯一残念だったのは、あずさが亡くなってしまったということだけだ。
それは決して脚本的にどうなの? という話ではなく、ただただ悲しい、残念だということ。
しかしこのドラマはその人生の理不尽さや不条理さも描きたかったのではないか。
あれだけ元気で性格の良い人でさえも、思わぬ事故や病気により悲しいけれども亡くなってしまうことがある。
逆に(このドラマではいなかったが)悪い人がのうのうと生き永らえていたりもする。
その理不尽さに“神様なんていない”と思わずにはいられない。
でも悲しいかな、それが現実なのだ。
誰しも明日がどうなっているかなんてわからない。
だからこそ、後悔をしないために言いたいことは言っておこう。
愛は伝えておこう。
理解される自信がないことも言っていこう。
その場所で受け入れられなくても、いつか受け入れてくれる場所に出会えるから。
そんなことを私は思った。
あの頃の私へ
「嫌々続けているサッカーもやめられて、好きなことをして生きていけるようになるから大丈夫だよ。」
••┈┈┈┈•• ドラマ情報 ••┈┈┈┈••
TBS『Tシャツが乾くまで』( 毎週金曜夜10時~)
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、齋藤飛鳥、庄司浩平、飛永翼(ラバーガール)、久保田薫、夏帆、臼田あさ美、リリー・フランキー、松山ケンイチ、井ノ原快彦
脚本:生方美久
音楽:haruka nakamura
主題歌:「見知らぬ糸」スピッツ(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
編成:佐久間晃嗣、荒木沙那
制作:ケイファクトリー、TBS
著者:ケメ・ロジェ
イメージイラスト:サク
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