私はこの夏、「T乾」にも「ちいかわ」にもハマった。
この記事に辿り着いているということは、「T乾」……「Tシャツが乾くまで」(TBS)のことは言わずもがな認識していることだろう。
今や社会現象にもなっている「ちいかわ」についても多くの人が知っていることと思うが、一応説明しておこう。
「ちいかわ」(正式名称:ちいかわ なんか小さくてかわいいやつ)は、イラストレーターで漫画家のナガノ氏による、二頭身の動物のキャラクターの時にゆるく時にシビアな日常を描いた漫画およびアニメである。
元々大人気だった「ちいかわ」は今年の夏に劇場版アニメが公開されたことで、幅広いファン層を獲得し更なる大ブームとなった。
まさに私も映画で魅了されたうちの1人だ。
キャラクターの容姿と名前しか知らない状態で映画を観に行ったが、その可愛らしい姿からは想像もしていなかった善悪や因果応報の是非を考えさせられる物語が展開され、映画を観終わった私は完全に心を奪われた。
すかさずTVアニメ版の視聴も進めたが、ちいかわ達は自身で働いて得た報酬で物を買い、生活をするという何ら人間の私達とは変わらない社会生活を営んでいることがわかった。
ささやかな暮らしの中でちいかわ達は、美味しいものを仲間達と共有し笑顔になり、時に訪れる厳しい現実に立ち向かいながら健気に生きている。
そのような「ちいかわ」の世界は、現代社会に疲れ切った人間達が忘れている日常の中にある些細な幸せの尊さを思い出させてくれた。
すでに私の部屋は沢山のちいかわグッズで溢れ、もう後戻りは出来ないところまで来ている……。
ああ……つい「ちいかわ」の話ばかりしてしまった。
一方の「T乾」も人間達の暮らしを描いてはいるが「ちいかわ」のように穏やかではない日々がずっと続いている。
「ちいかわ」のように美味しいものを食べるだけの回とかあっていいのに。
失踪は充少年からのSOS
今回の第8話では、充(松山ケンイチ)が失踪した当時の様子が描かれた。
あずさ(夏帆)と共に長野行きのバスに乗った充。
そもそも長野行きは、父親が倒れてあまり長くないということを聞いたために“せっかくだから”会っておこうという目的だった。
今親の姿を見て、自身がどう思うのか興味があったというのだ。
道中に立ち寄ったサービスエリアで、妻の咲子(蒼井優)との思い出であるかぼちゃ入りのカレーパンを見た充は、そのカレーパンを2人で食べた時のことを回想した。
その時に咲子は充のことを吹いたらどこかに飛んでいってしまいそうだと揶揄した。
咲子は充の失踪癖を知らなかったものの、そのどこか儚げな様子から本質を感じ取っていたのだろう。まさか本当に飛んでいってしまうとは思っていなかったろうに……。
そして自身が飛ばないよう重りになってくれていた咲子に、いつしか潰されてしまいそうになっていることに気づいた充。
さらには親の死に目には会いたくないという意思表示とも取れる霊柩車に親指を立てた咲子の姿も思い出し「愛情を注いでくれなかった親に今更あって何になる?」と思い直したのか、充はバスに戻ってあずさに失踪することを伝え、買ったばかりのかぼちゃ入りのカレーパンを渡し、失踪してしまった。

あずさからの「さっちゃんが悲しむ」という声にも充は耳を傾けようとはしなかった。
そんなことは充もわかっているのだ。
理屈ではないのだ。
愛情を注がれなかった小学生の頃、初めて失踪した充少年がインナーチャイルドとして今でも充の心の中に住み続けている。
充の失踪は、その心の中でもがき苦しむ充少年を解放してあげるための行動と言えるのかもしれない。
頭の中で色々な思いと記憶が駆け巡り、充少年が出したSOSにより充は失踪をしてしまう……そんな救いと苦しみの二面性を伴った行動が充の失踪なのだろう。
その苦しみは当人にしかわからないものではあるが、結婚後にしてしまったこと、あずさを巻き込んでしまったこと、この2点は過去何度も行った失踪とは大きく異なり、失踪が及ぼす影響の大きさを充自身もさすがに思い知ったのではないか。
イノッチ、何者?
そして、咲子の失踪。
同じドラマで夫婦の両方が立て続けに失踪することなど、かつてあっただろうか。
充は咲子と関わりのある人物を集め、自分が知らない咲子を知ることで咲子の居場所を知る手がかりを掴もうとした。
集めたのは樹生(中島歩)に加え、咲子の上司であり友人の千鶴(臼田あさ美)、あずさが働いていた古書店の店長の宮内(リリー・フランキー)、そして喫茶店のアルバイトの直人(高橋文哉)だ。
口々からそれぞれ違う咲子の姿が出てきたが、さほど驚くことでもない。
誰しも環境や相手によって見せている姿など違うものだ。
あの場で出てきた咲子の様々な面も、誤差の範囲でしかないだろう。
あの場でわかったのは、充以外が咲子と連絡が取れていたということ。
言ってしまえば心配することのない、気分転換にも近い失踪だったと言える。
そんな咲子は失踪先で、かつて6人組アイドルグループとして活動していたメンバーと瓜二つな男と笑顔で会っていた。

イノッチだ。
ここでまさかのイノッチだ。
誰もが予想だにしないキャスティングに驚いたことは間違いないが、その笑顔はどうも咲子に似ている。
……ような気がする。
おそらく彼は咲子の兄なのではないか。
イノッチが演じるのは篤彦(井ノ原快彦)という名前であることが番組のホームページで確認できる。
そう、なぜか苗字の記載がないのだ。
咲子の旧姓は母親の苗字から「中林」であることが考えられるため、その中林を篤彦に表記してしまうと、咲子との関係性が判明してしまうため今は隠しているのではないかと考えられる。
咲子は母親との関係性がよくないことは劇中でも判明しているが、まだ家族関係のすべてがわかっているわけではない。
篤彦と咲子は兄妹だったものの、何か離れ離れにならざるを得ない状況になってしまったのではないか。
コインランドリーで咲子が会った地元のお婆さんに「ご旅行?」と尋ねられた際に「友達んち」と返答していたのも、篤彦を指してはいたものの複雑な家庭環境が起因しての「友達んち」だったのかもしれない。
賛否あったあのシーン
急にコメディチックになった喫茶店「ひこうき」での咲子会議シーン。
その賛否について、SNSでは視聴者の意見が大きく割れていた。
確かに今までの「T乾」とはかなりテイストの違ったやり取りに戸惑うのも無理はないだろう。
しかし、私は違和感を覚える間もなくあの会話劇の面白さに魅了された。
さらには爽快に毒づく直人の言葉。
視聴者が抱えたフラストレーションを一気に解き放ってくれたようだった。
緊張と緩和。
今までの回でピンと張った緊張の糸を、あのやり取りは見事に緩和してくれた。
ずっと緊張していても疲れてしまうから。
「ちいかわ」に美味しいものを食べるだけの回もあれば、ピンチが訪れる回もあるように、「T乾」にも色々あっていいのではないか。
来週はイノッチが、“建物の屋上から思いの丈を叫んだ充に優しく駆け寄るシーン”を期待したい。
••┈┈┈┈•• ドラマ情報 ••┈┈┈┈••
TBS『Tシャツが乾くまで』( 毎週金曜夜10時~)
出演:蒼井優、中島歩、高橋文哉、齋藤飛鳥、庄司浩平、飛永翼(ラバーガール)、久保田薫、夏帆、臼田あさ美、リリー・フランキー、松山ケンイチ、井ノ原快彦
脚本:生方美久
音楽:haruka nakamura
主題歌:「見知らぬ糸」スピッツ(Polydor Records)
プロデューサー:千葉行利、宮川晶
演出:土井裕泰、塚本連平、小牧桜
編成:佐久間晃嗣、荒木沙那
制作:ケイファクトリー、TBS
著者:ケメ・ロジェ
イメージイラスト:サク
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