正しいフォームを見せられるのは当たり前。しかし、相手の崩れたフォームを寸分違わず再現できますか? もしできないなら、それはあなたが相手を十分に観察できていない証拠です。
今回は清水忍さんによる最新刊『一流を支えるトレーナーの最強の教え方』より、指導者に求められる観察力について紐解きます。
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「教えすぎ」が上達を邪魔している?――「自分で気づける人」をどう育てるか
正しい動作ができていない相手を指導するとき、見るべきポイントは相手の「今の状態」です。頭で理解できていないのか、理解しているのに体が動かないのか、あるいは「できているつもり」で間違っているのか。
もし理解できていないのなら再度説明が必要です。相手が理解できないのはなぜかを考え、説明を工夫する必要があります。
一方、「わかっているのにできない」というときは指導が異なります。ここで威力を発揮するのが「フィードバック指導法」です。ここではそのフィードバック指導法をご紹介します。
人が動くと、そこには必ず「情報」が発生します。足跡、風の感覚、筋肉の伸び、動画などの映像。フィードバックとはこれらの情報を利用して次の動作を修正し、学習させることです。
フィードバックには2種類あるのですが、簡単に紹介します。
・外的フィードバック(鏡、動画、指導者の声)
自分の外側にある情報を頼りにするのが「外的フィードバック」です。写真、動画、鏡、コーチからのアドバイスなど、すべて外から入ってくる情報と言えます。
この情報を使うと、その場でパッと修正できるため即効性は高いですが、頼りすぎると致命的な欠陥が生まれます。「鏡がないと動けない」「コーチに言われないと正しい動きになっているかわからない」という状態、つまり「身についていない」状態になってしまうのです。鏡張りのジムでずっと鏡を見て踊っている人は、常にオンタイムでフィードバックが入っているため修正はされるのですが、身についていない可能性があります。
・内的フィードバック(筋肉、皮膚、重力の感覚)
外的フィードバックに対し、自分の体の中の感覚を情報源にするのが「内的フィードバック」です。今やった動作の力発揮の感覚、足裏の荷重感覚、皮膚感覚、頭の位置感覚など、すべて自分の中から出てくる情報です。
この情報を使うと、自分の感覚が情報源なので、何かの動作をやった瞬間に「あ、今の感覚はさっきの感覚と違うぞ」と自己検出ができるようになるのです。すると正しい動作ができたときの身体感覚情報も記憶に残るため、間違った動作を行ったときに自分で修正できるようになるのです。これが「学習」ということになります。内的フィードバックは、修正の即効性は弱いのですが、確実な学習には有効です。

良い指導は「あえて言わない」ということ
指導者としては、生徒やクライアントの動きについつい口を出したくなります。すなわち外的フィードバックを多用しがちです。その方が早く修正できるからです。しかし、本来指導とは、相手が学習することで自立して動けるようにすることだと思います。私はクライアントのみなさんが成熟してくると、あえてほとんど注意をしないように心掛けています。
たとえば、一応適切なフォームを身につけている人に対して、スクワットを10回やっている最中は何もアドバイスしません。アドバイスはしませんが、フォームが崩れた瞬間だけ「あ、崩れました」と伝えます。そして10回終わってから「5回目からフォームが崩れたの、気づきましたか?」と聞きます。気づいていなければ「次のセットは正しくできているか自分で感じ取ってみてください」とだけ言います。
そして終わった後に「今のはどうでした?」「8回目で崩れたと思います」「その通り!」と承認します。これは自分で検出、修正できることを重視した指導法なのです。
この相手が、まだまったくフォームがわかっていない場合には、とにかく修正が必要なので外的フィードバックを多用する必要があります。しかし、ある程度までいったら自己検出・自己修正する能力をつけてほしいので内的フィードバックに切り替えるのです。
指導者からのアドバイスの嵐は指導者は仕事をしている感覚を味わえるのですが、相手の学習を妨げてしまう可能性もあります。指導者は色々言いたいのをグッと我慢して、本人が何かを感じ取るまで待ってあげる。この「忍耐」こそが、相手を自立させるための愛情なのです。
「悪い真似」ができる指導者は、原因が見えている
指導者講習で、私はよく「クライアントがよくやる間違ったフォームを真似してください」とお題を出します。見本のお話のところでもお伝えしましたが、悪い動作を見せられることは指導者として重要な能力です。しかし、ベテランのトレーナーでも、なかなか下手な人の真似ができない人がいます。
理由は2つ。一つは、できていない人の動作を「観察」しきれていないから。相手が何をしているのか、どこで崩れ、どこで力が逃げ、どこで余計な力みが出ているのかを本当に把握していなければ、正確に真似することはできません。何をやっているのかがわからなければ、真似ができるはずがないのです。
もう一つは、自分の体に「正しい動作」が染み込みすぎて、無意識に修正が入ってしまうからです。下手な動作の真似をしようとしても、要所で無意識に修正が入ってしまうのです。そのため、「あなたの動きはこうなっていますよ」と相手に伝えたくて下手
な動きを真似しても、上手にできてしまっていて、今ひとつ相手に動きのポイントを伝えられないのです。
実はこれ、スキップができない人を教えるときにも起こります。スキップができる人は、できない人のあの不思議な足の運びを正確に真似できません。観察しきれず、理解できないからです。そして、どうしても良い動きになってしまいます。
反対に、スキップができない人がなぜできないかといえば、正しい動作を観察しきれておらず、自分の体のクセが邪魔をしているからです。
指導者が下手な人の真似ができないのと、下手な人が指導者の真似ができないのは同じなのです。こう考えると、できない人の気持ちが少しわかる気がしませんか?
優れた指導者とは、正しいフォームを見せられるだけでなく、相手の間違ったフォームを「正確に」再現できる人です。「真似できる=分析できている=原因がわかっている=改善できる」
これが実技指導の本質です。

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