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礼はいらないよ

2026.07.28 公開 ポスト

FIFAはひどい、アメリカにW杯開催の資格はなかった。それでもサッカーには夢があるダースレイダー(ラッパー・トラックメイカー)

元々の問題がトランプ大統領のアメリカで加速

サッカーワールドカップが終わった。1ヶ月間、早朝に起きて試合を見る生活ともお別れだ。グループリーグの時は一日何試合もあったので透析中もDAZNで追っかける。なんだかんだでとても楽しく過ごしていたわけだが、この大会には同時に大きな問題もあった。

元々あった問題がトランプ大統領のアメリカで開催されたことでブーストされたとも言える。ワールドカップを運営するFIFAは世界最大のスポーツ団体であり、同時に政治組織だ。ワールドカップは世界最大の興行でもあり、会長選挙をめぐる泥沼はゲーム・オブ・スローンズみたいだと想像する。そのFIFAとトランプのタッグだ。そりゃあダメだろ。

 

初手でFIFAのインファンティノ会長はトランプにFIFA平和賞を贈呈する。その後、トランプは世界中に関税をかけ、ヴェネズエラのマドゥロを誘拐、イスラエルと組んでイランを攻撃、いまだに停戦は実現していないどころかエスカレートしている。

そのイランはワールドカップ本戦への出場が決まっていた。米国は水面下で予選落ちしたイタリアを代わりに出場させようと働きかけたと言われている。さすがに無理だったが、米国はイラン代表チームへのビザ発行を渋り、国内宿泊を認めず、イランは試合ごとにメキシコと米国を往復させられるハメになった。

イランは3試合引き分けでグループリーグ敗退。敗退が決まった時に米国国土安全保障省のマリン長官は「彼らが戻ってこないことをただただ嬉しく思う」「ビザを取り消し、出国を命じた時は、歌って踊り出したいほどだった」と言い放った。開催国の資格がなさすぎる。イランサッカー連盟は抗議しているが、FIFAも米国もどこ吹く風だろう。

ソマリア出身の主審の入国を認めないという酷い案件もあったが、極め付けはアメリカ代表のフォワード、バログンの出場停止執行猶予だ。バログンはボスニア・ヘルツェゴビナ戦において、危険プレーでレッドカード、退場になった。

規定で次戦のベルギー戦には出場できないはずが、FIFAが出場停止を一年猶予すると電撃発表。しかもトランプがインファンティノに電話で見直しを要求したと自らSNSに投稿したのだ。

なんだそりゃ! アメリカ・ベルギー戦はベルギーが4−1で勝利。アメリカ代表はそれまでいいプレーを続けていたが、この試合では全世界からの冷たい視線の中でプレーすることになり、モチベーションも明らかに低かった。

FIFAはひどいし、アメリカには開催国の資格がなかったのは明らかだ。だがFIFAには果たしてきた役割もある。サッカーの魅力を世界組織として世界中の子供たちに伝えてきたのは確かだ。

1986年のメキシコワールドカップはロンドンで友達と一緒に観ていた。伝説のイングランド・アルゼンチン戦だ。ここでマラドーナは神の手ゴールと5人抜きというサッカー史上最も話題になるプレーを披露している。僕の体感では神の手ゴールでは街中がおいおい!と騒ぎになり、そして5人抜きではロンドン全体が完全に静まり返った。シーン。凄すぎて言葉が出なかったのだ。

この時一緒にサッカーを見ていた近所の友達とはサッカーチームを作っていた。チャーチマウント・ワンダラーズ。僕らが住んでいる通り、チャーチマウントのローカルチームだ。

ちなみにこのチャーチはユダヤ教のシナゴーグだ。通りに住む子供を全員かき集めると11人いた。通りの隣に大きい公園があり、サッカー場が4面用意されていたのでホームスタジアムにした。チームロゴは僕が描き、マネージャー役も引き受けた。隣町まで自転車で出かけてサッカーをやっている子供たちに声をかけて試合を組む。日曜日の朝に公園に集まっていざキックオフだ。

楽しかったと記憶しているが、チャーチマウント・ワンダラーズはとにかく弱かった。なんせただの近所の友達の集まりで、サッカー能力は関係ない。呼んでくる相手チームは、サッカーやっているところを誘うのでそこそこ強い。

2、3試合ボロ負けが続いた後にチームミーティングが開かれた。選手を強化する必要がある。そこで僕は通っている小学校の一個上に声をかけた。学校の校庭のサッカーでも大活躍していたからだ。彼は出場した試合でも大活躍したので、もっと上手い子に声をかけよう!と盛り上がった。この流れで呼んだソロモンについては僕の「Dreamer」という曲で紹介している。

ただ、今度は別の問題が起こった。上手い選手が入ると出場できなくなる近所の友達のモチベーションがみるみる下がっていったのだ。モチベーショーン低下は感染する。気づくと日曜の朝に8人しかいないといった事態が起きた。

これじゃ試合にならない。結局外部からの招聘は諦め、他のチームと試合するのもやめて自分たちだけで遊ぶ形態に戻った。チームマネジメントは大変だ。のちにサッカーチームをつくろうというゲームが出た時に、イヤイヤ大変だぞ!と勝手に先駆者の気持ちになったのも覚えている。

でも子供達だけでなんでこんなことをしていたのか? それはサッカーが面白かったからだ。世界のトッププレイヤーの一瞬のひらめきから繰り出されるスーパープレーにドキドキさせられたからだ。世界中で子供たちがボールを追っかけて明日のマラドーナ、明日のリネカーを目指す。

このドキドキの感染こそがサッカーの最大の功績だと思う。選手より前に出てきて優勝トロフィーを渡したあとも、どかないような大人たちの振る舞いは、子供たちに何を伝染させてしまうのか。

関連書籍

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える! 自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。/構造の外に出ろ! それしか選択肢がないと思うから構造が続く。 ならば別の選択肢を思い付け。 「言葉を演奏する」という途方もない選択肢に気付いたヒップホップは「外の選択肢」を示し続ける。 まさに社会のハッキング。 現役ラッパーがアジテートする! ――宮台真司(社会学者) / 混乱こそ当たり前の世の中で「お前は誰だ?」に答えるために"新しい動き"を身につける。 ――植本一子(写真家) / あるものを使い倒せ。 楽器がないなら武器を取れ。進歩と踊る足を止めない為に。 イズムの<差異>より、同じ世界の<裏表>を繋ぐリズムを感じろ。 ――荘子it (Dos Monos) / この本を読み、全ては表裏一体だと気付いた私は向かう"確かな未知へ"。 ――なみちえ(ラッパー) / ヒップホップの教科書はいっぱいある。 でもヒップホップ精神(スピリット)の教科書はこの一冊でいい。 ――都築響一(編集者)

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礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

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ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

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