29年前は弟と最前列で観たグループの変わらない衝撃
ウータン・クランの来日公演に行ってきた。「ウータン・クラン・フォーエヴァー・ザ・ファイナルチェンバー」と題されたライブは、彼らの最後のツアーと言われている。

ウータン・クランはニューヨーク、スタッテン島出身のメンバー中心に組まれたグループ。1993年のデビュー作「エンター・ザ・36・チェンバーズ」(邦題は「燃えよウータン」)はヒップホップの歴史を変えた一枚と評され、世界中にファンがいる。
リーダーのRZAが作るサウンドは、彼らが日頃愛するソウルミュージックにカンフー映画のエッセンスを散りばめたもので、不穏なエネルギーが充満している。9人のラッパーはそれぞれにキャラ立ちしていて、ストリートの日常にカンフーや映画、アニメなどの要素を混ぜたラップを聴かせてくれる。
90年代初頭のスタッテン島(彼らは地元をシャオリン=少林と呼ぶ。ウータンも武当派というカンフー映画由来)のブラックの若者カルチャーを丸ごと詰め込んだような内容だ。
正規メンバーは9人だが多くの準構成員が存在し、関連グループの総数は計り知れない。サウンド、歌詞、謎の巨大組織全体がウータン・クランの魅力として僕を含めた世界中のファンを魅了し続けている。
ウータン・クランのグループとしての物語もめちゃくちゃ面白いが、そこは是非Disney+で配信されている彼らを描いたドラマ「ウータン・クラン・アメリカン・サーガ」を観てほしい。うそでしょ? と突っ込んじゃうようなエピソードの連発だが、その虚実の皮膜を縫う存在感もまたウータンなのだ。
そんなウータン・クランの来日公演は実に29年ぶりだ。29年! そして、29年前、1997年の来日公演にも僕は行っている。会場は赤坂BLITZ。弟と一緒に最前列でライブを観た。
この時のツアーでは東京、横浜、川崎、大阪を回ったのだがメンバー9人が揃ったのは2公演のみ。初日は飛行機に乗り遅れたメンバーがいて、後半は裁判所からの呼び出しなどで帰国したメンバーがいた。
僕は幸運にも全員集合のライブを見ている。とにかく衝撃だった! サウンドもエネルギーも別格で、彼らのシャオリンワールドに首根っこを掴まれて拉致されたような感覚。一瞬一秒に至るまで全てがカッコよかった。ライブの途中、少し休憩しよう! とRZAが言い出して照明が落とされた。客にもしゃがむように促して謎の休憩タイム。その時、最前列にはなんとも言えない香りが漂ってきた。しゃがんでいたので確認は出来なかったが、きっとメンバーがアレなりソレなりでチルして休憩していたように思う。
ライブが再開されたがステージ脇では泥酔して寝ているメンバーもいる。そして途中で一人はケンタッキーフライドチキンを食べ始め、それを客席にもわけていた。全て常識外だった。この時、最前列の隣にスキンヘッドに龍のタトゥーを入れた男がいた記憶もあるのだが、本当に実在したのかシャオリンワールドの幻だったのかは定かではない。
あの日から29年が経った。僕は今でもラップしている。なんでラップを続けているのか? という質問はよくされるが明確な理由は言語化できない。ただ内なる力が湧いてくるのだ。ラップがしたい! その内なる力の正体、身体や頭を突き動かす力の秘密は1997年のウータン・クランのライブで僕が体験したものだと思う。
ウータン・クランのメンバーもまた、その見えざる力に突き動かされてラップを続けているのだろう。97年に泥酔していたメンバー、Ol’Dirty Bastardはすでに他界し、息子のYoung Dirty Bastardが代わりを務めている。そして今回の来日でもビザの問題という理由でメンバー3人が欠場していた。
もうこっちも50手前だし、人生いろいろあった。実は少し冷めた気持ちで会場に向かっていた節もある。だが、ウータンのショーが始まりメンバーが次々ラップを始めた瞬間に、驚いたことに僕はまたシャオリンワールドに拉致されてしまった。
僕らを突き動かす謎の力、ヒップホップの力は未だメラメラ燃えていた。会場に集まったのは僕と同年代のファンが多かったと思う。彼ら、彼女らの中にもきっとヒップホップが燃えている。燃えよダースレイダー!

礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。
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