1. Home
  2. 社会・教養
  3. 礼はいらないよ
  4. 石原軍団、オウム真理教がかつて選挙応援に...

礼はいらないよ

2026.07.03 公開 ポスト

石原軍団、オウム真理教がかつて選挙応援に駆け付けた賑やかな杉並区の「よく考えさせられた」区長選ダースレイダー(ラッパー・トラックメイカー)

4人の候補者に人間を感じた

6月28日は杉並区長選挙の投票日。我が家は祖父の頃から杉並に住んでいる。僕自身はパリ生まれ、ロンドン育ちで、10歳の時に帰国してからずっと杉並だ。両親は選挙の時は必ず僕と弟を連れて投票所に行っていた。会場は近所の小学校。

「誰に投票したの?」と聞くと、父は「投票先は色々考えて決めたよ。でも誰に入れたかは周りに言わなくいい。君も自分でちゃんと考えて投票しなさい」と言っていた。選挙の時はこの近所の小学校に行く。それは半ば習慣化していて、僕自身が選挙権を持ってからも選挙には欠かさず行っている。だが、「よく考えて投票」の部分は20代の頃は正直実践出来てなかったとも思う。

 

杉並区はなかなか賑やかな選挙区だ。1990年、石原伸晃さんが初当選。彼の選挙では石原軍団が総出で応援に駆けつけていた。僕は西部警察が大好きだったので単純に喜んでいたと思う。

この選挙ではオウム真理教が設立した真理党も選挙に出ていた。久我山に道場があったのだと思うが、最寄りの駅前では象の被り物をした信者が選挙活動を盛んにしていた。麻原彰晃を主人公にした漫画も子供に配っていて、やたら美青年に描かれた麻原彰晃が出ていたのを覚えている。

この時は13歳だったので見ているだけだったが、選挙とは不思議なものだと感じていた。真理党から当選者が出なかったのにはそりゃそうだろと思ったのも覚えている。この1990年の選挙にはのちに杉並区長になる田中良さんも無所属で出馬していたらしい。

その後、衆議院選挙では石原さんが当選を続け、20代の頃の僕は、勝ち馬に乗るのもつまらないから、石原さん以外の人から選ぶようにしていた。ちゃんと候補の話を聞くようになったのは2010年に脳梗塞に倒れ、2011年に東日本大震災が起こってからだ。

 

2022年の杉並区長選挙では現職の田中良さんを新人の岸本聡子さんがわずか187票差で破るという驚きの結果だった。ただこの時、僕は同時期に開催されていた参議院選挙の取材であちこち回っていて地元の選挙をじっくり見る時間がなかった。

たまたま近所のスーパーの前で岸本さんの街宣を見ることが出来た。情報公開と区政への住民参加を訴えるものだった。田中区政では児童館の再編が進んでいて、うちの娘たちが慣れ親しんだ場所はどうなるんだろうと近所の親たちとヤキモキしていた。

だが、この時は僕にとって区政はあまりに遠く、保護者たちの声が行政に届くことなんて想像できなかった。ある意味、無意識のうちに田中さんにお任せしちゃっていて主権者意識がまだまだ欠如していたのだと思う。そんなタイミングでの岸本さんの話はそもそも論として響くものがあった。この選挙では「西荻のこと研究所」https://nishiogi.org/が企画した各候補のインタビュー動画が参考になった。この動画での現職・田中良さんの態度があまりにえらそうだった。それは田中さんが悪いというよりも、僕も含めた”あとはお任せ”スタイルの住民たちが任せきってきた結果生まれてしまった傲岸さにも見えた。もっと自分ごととして考えなければ!

今回の選挙では選挙前に3回、選挙期間中に1回の公開討論会が行われた。これがとても良かった。各候補が自分の考えを述べているのも大事だが、他人の話をどう聞いているか? どう答えるか? 現職の岸本さんが全ての討論会に出ると宣言していたのは大きい。現職は他の候補からの厳しいチェックに晒される。もちろんそれこそが現職の責任でもあり、チェックするのは挑戦する候補の役割でもあるが、それを嫌がる現職が公務を理由に討論会を欠席するケースもあるからだ。

小池都知事は公務を理由に討論会に全く出なかった。現職が出るなら他の候補も登壇して自分の考えをぶつける機会になる。 有権者にとっては選択肢が明確になり、自分の考えの整理にもなる。討論会を通して候補それぞれの考え方や人柄がかなり見えたと思う。

岸本さんの街宣には手話通訳がついていた。聴衆を見ていると手話を使っている人たちが結構いる。彼ら彼女らにも選択肢がちゃんと提示されている。自民党推薦の大和田伸さんは自ら手話を使って支援者と会話していた。大和田さんは地域活動にも日常的に参加しているから住民との距離も近い。

無所属の増田よしひこさんは緑への投資を訴えていた。彼の人口減少を見越した議論は杉並区全体の問題としてもっと共有した方が良いとも思った。前区長の田中さんは前回の選挙ではえらそうに見えたが、挑戦者の今回は、街頭に立って1時間近く一人で政策を話す姿からは真剣さが伺えた。

4回目の討論会では運営の連絡ミスで田中さんだけ場所を知らされず、大幅に遅れての参加になったが穏やかに議論に参加していた。ああ、この4人でもっと話し合えば、それぞれの政策もブラッシュアップされるんだろうな。何よりそこに人間がいると感じられた。

候補だけでなく、そのスタッフ、支持者、住民。考えや性格も含めて様々だ。譲れるものもあれば、譲れないものもあるだろう。よく考えるというのは、人間を見るということか。そんな人間が集まって社会を構成し、なんとかやっていこうとしている。

今回の選挙でようやく子供の頃の父の話の入り口に立ったような気がした。今回の選挙も近所の小学校。妻と一緒に次女を連れて投票に行った。

関連書籍

ダースレイダー『武器としてのヒップホップ』

ヒップホップは逆転現象だ。病、貧困、劣等感……。パワーの絶対値だけを力に変える! 自らも脳梗塞、余命5年の宣告をヒップホップによって救われた、博学の現役ラッパーが鮮やかに紐解く、その哲学、使い道。/構造の外に出ろ! それしか選択肢がないと思うから構造が続く。 ならば別の選択肢を思い付け。 「言葉を演奏する」という途方もない選択肢に気付いたヒップホップは「外の選択肢」を示し続ける。 まさに社会のハッキング。 現役ラッパーがアジテートする! ――宮台真司(社会学者) / 混乱こそ当たり前の世の中で「お前は誰だ?」に答えるために"新しい動き"を身につける。 ――植本一子(写真家) / あるものを使い倒せ。 楽器がないなら武器を取れ。進歩と踊る足を止めない為に。 イズムの<差異>より、同じ世界の<裏表>を繋ぐリズムを感じろ。 ――荘子it (Dos Monos) / この本を読み、全ては表裏一体だと気付いた私は向かう"確かな未知へ"。 ――なみちえ(ラッパー) / ヒップホップの教科書はいっぱいある。 でもヒップホップ精神(スピリット)の教科書はこの一冊でいい。 ――都築響一(編集者)

{ この記事をシェアする }

礼はいらないよ

You are welcome.礼はいらないよ。この寛容さこそ、今求められる精神だ。パリ生まれ、東大中退、脳梗塞の合併症で失明。眼帯のラッパー、ダースレイダーが思考し、試行する、分断を超える作法。

バックナンバー

ダースレイダー ラッパー・トラックメイカー

1977年4⽉11⽇パリで⽣まれ、幼少期をロンドンで過ごす。東京⼤学に⼊学するも、浪⼈の時期に⽬覚めたラップ活動に傾倒し中退。2000年にMICADELICのメンバーとして本格デビューを果たし、注⽬を集める。⾃⾝のMCバトルの⼤会主催や講演の他に、⽇本のヒップホップでは初となるアーティスト主導のインディーズ・レーベルDa.Me.Recordsの設⽴など、若⼿ラッパーの育成にも尽⼒する。2010年6⽉、イベントのMCの間に脳梗塞で倒れ、さらに合併症で左⽬を失明するも、その後は眼帯をトレードマークに復帰。現在はThe Bassonsのボーカルの他、司会業や執筆業と様々な分野で活躍。著書に『『ダースレイダー自伝NO拘束』がある。

幻冬舎plusでできること

  • 日々更新する多彩な連載が読める!

    日々更新する
    多彩な連載が読める!

  • 専用アプリなしで電子書籍が読める!

    専用アプリなしで
    電子書籍が読める!

  • おトクなポイントが貯まる・使える!

    おトクなポイントが
    貯まる・使える!

  • 会員限定イベントに参加できる!

    会員限定イベントに
    参加できる!

  • プレゼント抽選に応募できる!

    プレゼント抽選に
    応募できる!

無料!
会員登録はこちらから
無料会員特典について詳しくはこちら
PAGETOP