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キリ番踏んだら私のターン

2026.08.10 公開 ポスト

私はなぜ『ハイキュー!!』を見ていとも容易く落ちたのだろうか長井短(女優・モデル)

『ハイキュー!!』に「堕ちた」。

洗濯物干してる時とか洗い物してる時とか。そういう「脳空いてんな」って時間は大抵アニメを流している。ありがたいことに未履修のアニメはこの世に死ぬほどあって、それらを見る時私はいつも「推しがいませんように……」と願う。これ以上好きなキャラクター増えてたまるかよ。こっちはガキの頃から、二次元への愛で今世が辛いんです。

舞台の打ち上げの日、ドレスコード「大入り袋」を決行した。髪に水引を付けるのはナイスアイデアだったけど、優勝ならずで悔しかった。

今年で33歳になる。流石にこの歳で、高校生のキャラクターに恋心を抱くことはないでしょと考え、『ハイキュー!!』を見た。ガチガチの高校生青春もの。しかも縁もゆかりもないバレーボール部である。普通に感動はするだろうけど、四六時中『ハイキュー!!』のことを考えてしまうみたいな沼に落ちることは……ねぇ? だって、私大人よ?

結論から言うと、いとも容易く落ちた「堕ちた」の方が適切かもしれない。私の脳内は『ハイキュー!!』に占拠され、キャラクターたちが寝ても覚めても喋り続ける。恐怖を感じて先輩のオタクにラインしたところ、むしろさらに深い沼に突き落とされかけた。そして私は、バレーボールを買った。体育でしかやったことがないのに、気づいたら買っていた。夫を連れて近所の公園に行き、トスを上げる。影山くんのトスがいかに凄いかを説明しながら。翌日、指が痛かった。

基本的に出不精で、何をするにも腰が重いはずなのに、どうしてこんな速度でバレーボールを買うことができたのか不思議で仕方がない。公園に遊びにいくのだって、いつもなら億劫なのに。その原動力にはもちろん「推しと少しでも近づきたい」っていう不純で煮凝った思いがあるのだけど、それ以上に私を突き動かしたのは「純粋な勝負事への憧れ」だった。これはカッコつけてるわけじゃないですマジで。

勝ちも負けも知らない人生だった

中学も高校も文化部だった私は「勝ち負け」というものに縁遠いまま大人になった。中学の時入っていた演劇部には「大会」があったけれど、俺は生まれながらの屁理屈王であるため、トラップカード「どっちの劇がいいかなんて決められる人間はいない」を発動。勝負しているって感覚を持たないまま大会に臨んでいた。勝負の経験がない人間は勝ちも負けも知らないわけで、時々そのことに愕然とする。知っていたらどんな人間だっただろうと思うし、知らないまま生きてきたからこんなに歪な人格なんじゃないかと悩むこともあった。

牡蠣を食べると幸せになるので積極的に食べるんですが、いつも凄く体が熱くなる。命との距離が近いせいだと思ってるんだけど、みんなはどう思う?

そして今、私の血管を奔るのは勝負事への純粋な憧れである。ツッキーこと月島蛍が目の前の奴ブッ潰して快感を得たように、私も、自分の120%の力で何かに挑んでなんかぶっ倒してみたいんですけど! 同時に、ぶっ倒されて泣いちゃったりもしたいんですけど! それってやっぱスポーツだよなと思う。

例えば演劇のオーディションがあって、自分の持てる力全てを出して負けたとしても「ぶっ倒された」とは感じないだろう。だって、戦ってる人間と勝敗を決める人間が別の存在なんだもん。それは変則的な勝負だ。私はバチタイマンの言い逃れできない勝負がしたいんです。じゃないとトラップカードが発動して、私は勝つことも負けることもできない。地獄の屁理屈人間で草。

バトル漫画が好きなのももしかしたら、こういう「純粋な勝負」への憧れなのかもしれない。闘う勇気がないからこそ、誰かが闘っている姿に、悔しさに打ちのめされている見開きに爆速で心が動いてしまう。ほな勝負しろやと思うけれど、今私は、一体何と闘えばいいんですか? 現実に闘いってあるんですか? 32歳で闘いたがってるの、めっちゃ引きませんか? 俺は引いてるよ。

言葉を失う闘いに興じてみたい

まぁ順当に言ってスポーツだよなと思う。一人で勝手にブレイキングダウンやるわけにいかないですし。夫と二人でトスを上げ続けても「闘い」にはならないから、どこかに習いにいくのがいんだろうか。卓球もいいな。あと、春にレーザー射撃をやった時も面白かった。でもレーザー射撃はちょっと、己との向き合いが強すぎるだろうか。最近ジャンプで新しいバスケ漫画が始まった。バスケもいいかもしれない、好きだったし。あとはなんだ。あ、フェンシングだ。私はずっと、フェンシングをやりたいって気持ちがうっすらとあるな。流石にかっこよすぎるからなフェンシングは。

時々、友達と会話が白熱した時に「フェンシングみたい」と感じる時がある。まぁやったことないんですけどフェンシング。「論破」とは微妙に、だけど確実に湿度の違う言葉の殴り合いは、私の心拍を上げる。そうだ、だから私、会うたび喧嘩になるあいつとずっと友達でいちゃうんだな。あいつと私はいつも勝負してたんだな。こうやって一人で関係性を美化してることがあいつにバレたら、どうせまた私が泣くまで嫌なこと言われるんだろうけど。

結局言葉に戻ってきてしまう。だからこそ、言葉のいらない闘いを私は切望しているんだと思う。言い逃れできない圧倒的な「勝ち」と「負け」は身体でこそ作れるものだと言ったら、スポーツを祭り上げ過ぎだろうか。それとも舐め過ぎだろうか。どちらにしても、私は言葉を失う闘いに興じてみたい。それが今年の夏のテーマでありますから、友人各所はぜひ、猗窩座のポーズで私を闘いに誘ってください。ぶっ倒れるまでやろうぜ。勝っても負けても言い訳しようのないくらいに、なんかしら努力して待ってるから。

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キリ番踏んだら私のターン

相手にとって都合よく「大人」にされたり「子供」にされたりする、平成生まれでビミョーなお年頃のリアルを描くエッセイ。「ゆとり世代扱いづらい」って思っている年上世代も、「おばさん何言ってんの?」って世代も、刮目して読んでくれ!

※「キリ番」とは「キリのいい番号」のこと。ホームページの訪問者数をカウントする数が「1000」や「2222」など、キリのいい数字になった人はなにかコメントをするなどリアクションをしなければならないことが多かった(ex.「キリ番踏み逃げ禁止」)。いにしえのインターネット儀式が2000年くらいにはあったのである。

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長井短 女優・モデル

1993年9月27日生まれ、A型、東京都出身。

ニート、モデル、女優。

恋愛コラムメディア「AM」にて「長井短の内緒にしといて」を連載中。

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