6月×日
いまわたしはタシケントという町にいる。
タシケントがどこかよく分からないという人も多いだろう。ウズベキスタンの都市のひとつである。
ウズベキスタンがどこかよく分からないという人も多いだろう。わたしもよく分からない。タジキスタンの上でカザフスタンの下である。とにかくまあ、わたしはそこにいる。中央アジアと呼ばれるあたりだ。
天気はいい。空はからっと晴れている。
砂漠地方なので空気は乾燥していて砂っぽい。空気が茶色に見えるくらい、常に砂が舞っている。
ウズベキスタンはずっと来てみたかった国のひとつだ。
タイルが好きなので青いタイルのモスクを直接自分の目で見てみたかった。でも有名なあのモスクはタシケントではなくサマルカンドにあるそうで、まだ実際には目にすることができていない。
それでもタシケントは充分に美しく異文化を感じさせてくれる。
定期的に、見たことのないものが見たくなる。行ったことのない場所、知らないことへの興味が止められなくなる。好奇心とはちょっと違う。刺激が欲しい、とかいうのでもなく。焦りみたいなものでもなく。人生は短いから焦ったほうがいいんだよな、とは思う。
タシケントは今まで行ったどの国とも違っている。チュニジアとかエジプトとも似ているようで違う。マレーシアとかインドネシアとも違う。
正直に言えば食事はあまり口に合わない。砂漠の国なので生ものがなく、だいたい焼いた肉か茶色いスープとパンが出てくる。あとチーズ。日本から持ってきたビタミン剤を毎日飲んでどうにかすごしている。あとポカリ。ポカリにはだいぶ助けられている気がする。
明日は国立応用美術館に行く。タイルと刺繍がすごいらしい。楽しみ。
6月×日
いまわたしはポルトにいる。
ポルトはだいたいどこにあるか分かるだろう。ポルトガルだ。ポルトガルがヨーロッパの最南端にあることも、多くの人は知っているだろう。
タシケントがあまりにも乾いていたので、もう少し湿気たところに行きたくなって、海に来た。
ポルトガルはからっと明るくて空が広い。まだついたばかりだからあんまり街を見られていないけれど、あの有名な路面電車には乗ることができた。
ポルトガルもタイルの国だ。
ウズベキスタンのタイルは精巧な文様の細かい柄の青いタイルが主流だったけれど、ポルトガルのタイルは筆でしゅるしゅると描いたような絵柄のものが多い。
それから特筆すべきはポルトガル料理がすごく舌に合うってことだ。塩の味が濃い。しょっぱいって意味ではなくて、果物を食べたときに味が濃いね、っていうような意味で、塩が濃い。
昼間っからポルト酒を飲んでにこにこしているおじさんがいっぱいいる。何もしてないのににこにこしている人が多い国は良い国だと思うので、すでにわたしはポルトガルが好きである。
海外移住はたぶん一生しないけれど、ここだったらひと月くらい住んでみたい。
6月×日
という日記を日本で書いている。
台風がいったばかりで、空気が湿っている。
すべて架空である。行ってみたい国に行ったらきっとこんなことを思うだろうと想像して書いた。遠くに行っても特に大きな事件が起こるわけでもなくぼうっとしているだけなのが、自分というキャラクターをきちんと捉えているなあと思う。ウズベキスタンもポルトガルもまだ行ったことがない。料理も食べたことがない。口に合わないとか想像して申し訳ない。それにしても、「口に合わない」と「舌に合う」と使い分けているのはどうしてなのだろう。日記なので一発書きだから、客観的に読むと意図が分からない。
この日記なら永遠に書ける。楽しい。みなさんもやってみるとストレス発散になるかもしれない。
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愛の病

恋愛小説の名手は、「日常」からどんな「物語」を見出すのか。まるで、一遍の小説を読んでいるかのような読後感を味わえる名エッセイです。














